【実録】危うく『国産ロマンス詐欺』に引っかかりかけた話 / マカオのセレブ「Abby(アビー)」に恋した6日間(最終ページ)

・センチメンタルサンジュン

国際ロマンス詐欺に白黒をつける日。あるいは、Abbyとの別れの日──。普通に考えれば詐欺師のやり口を暴いたうえで「気付いてたぜ?」と宣言するだけなのだが、私の心の中には少なからず感傷的な気持ちがあった。

詐欺を抜きにして考えれば、Abbyと私の関係は実にドラマティックなものと言えるだろう。SNSを通じて出会い、翻訳機を通してお互いの想いを伝えあう。10年前にはほとんどあり得なかった、 最先端の “トレンディラブ” である。

……が、これは詐欺なのだ。というか、ウソなのだ。トレンディもラブもクソもない、単なる無。……いいや、無ならばまだ良い。詐欺師たちは私から金をかすめ取ろうとしている。しかも本物のAbbyの画像を悪用して。絶対に……許さん。

さて、迎えた最終日。私はAbbyに上手く誘導されたフリをして「暗号通貨の勉強がしたい」と申し出ていた。そこからいつになく流暢かつ、機械的な口調になるAbby。Abby……ではなく、Abbyを装う裏の人が小躍りしている様子が目に浮かぶようだ。


・ニセサイトへ誘導された

まずAbbyから送られてきたのは「DFnft」という暗号通貨の取引所のURL。「私と同じ取引所を使おう。ブラウザで開いて口座を登録すればいい」とのことである。


「DFnft」なるニセの取引きサイトはかなり精巧に作り込まれており、数秒ごとに仮装通貨の価格が上下している様子が確認できた。ニセAbbyによれば「EUの規制に属する取引所」とのことであるが、なぜか「ドイツ語」や「フランス語」には対応していない。

「スクショを送ってくれれば次のステップを教える」というAbbyの言われるがままに、ニセの暗号通貨取引きサイトで登録を済ませていく。ここで注意しなければならないのは、詐欺師たちの目的が金だけではなく「個人情報にもあるらしい」ということだ。

登録にはメールアドレスのみならなず、運転免許証やパスポート、またその写真まで要求される。本物の取引きサイトも同様の手順を踏むため、それを模倣している可能性もあるが、詐欺師に個人情報を明け渡す行為は危険でしかない。


ちなみに、最初に必要なお金は「500ドル~1000ドル」を提案された。「最初はあなたに過剰な資金を使って実践することをお勧めしません」という言葉が、Abbyの最後の優しさだったのだろうか? いや、違う。これは詐欺なのである。さよなら、Abby。私は深呼吸してから、最後のメッセージを送った──。


「Abby、残念ながらここまでです。最初、私はAbbyを疑っていませんでした。本物のAbbyのとても可愛かったですし、とても素敵な女性だと思っていました。ただし、もうこれが詐欺だと知っています。国際ロマンス詐欺と呼ばれていることも。

私の仕事は記者です。この件は全て記事にして公開します。少しでも国際ロマンス詐欺の被害を減らすためです。Abbyのインスタアカウントや、それに紐づくアカウントは既に警察に報告済みです。あなたが特定されるのも時間の問題でしょう。

本物のAbbyの画像を使って詐欺をしたことを悔いてください。麗しいAbbyの名誉に傷をつけたことは許せません。もしあなたが本物のAbbyであった場合、私を探し出すことは比較的容易でしょう。あなたはセレブで、私もSNSを公開していますから。

本物のAbbyに見つけてもらうことを待っています。その時が来たら心の底から謝罪します。Abbyの裏にいる詐欺師のみなさん、6日間ありがとうございました。偽物ですが、一瞬ときめきがありました。どうかみなさんに天罰がくだりますように


警察のくだりはハッタリであるが、それ以外は全て本心。「本物のAbbyに見つけてもらうことを待っています」という部分も、その時点では本気であった。

・軽度のAbbyロス……

既読がついて1分後。LINEがブロックされると同時にAbbyのインスタアカウントは閉鎖された。それから数日間、多少は予期していたものの、軽度の “Abbyロス” に陥っていたことも告白しておく。2日目には詐欺だと確信しながらも、揺り動かされる感情。これが私の体験した『国際ロマンス詐欺』の全容である。

振り返れば、詐欺師の狡猾さは確かに存在した。特にあれだけ自然な画像の使い方をされたら、最後まで詐欺だと気付かない人もいるかもしれない。また、私の場合は2日目で金の話が出たが、これが1カ月後だったらどうだっただろう? コロッと落ちていた可能性もゼロではないハズだ。


また、最大の敵はAbbyではなく、実は “もう1人の自分” だったように思う。Abbyに恋心が芽生えたというよりは「Abbyと同じリングで対等に戦えていると思っている自分」が心地よかったことは事実である。

さらに言えば、私の場合「俺、マカオのセレブ相手でもまだまだ全然イケるやん!」と勘違いしたことが、国際ロマンス詐欺に引っ掛かりかけた最大の理由なのかもしれない。相手を気持ちよくしていると思いつつ、実は自分が気持ちよくなっていたこと、これが最大の反省点だ。


・0.00001%の可能性に賭けるな

なお、序盤でも触れたが、国際ロマンス詐欺の被害者は女性の方が圧倒的に多いという。女性の場合、恋愛感情と相まって “イヤらしい写真” を送ってしまう……などの被害もあるようなので、十分にご注意いただきたい。

SNSの可能性を否定するワケではないが、少なくとも「妙な出会いは詐欺の確率の方が圧倒的に高い」とは言えるのではないだろうか? 特に国際ロマンス詐欺が「いま最も流行っている詐欺の1つ」であることは間違いない。

結局のところ、Abbyと私の関係は何事も無く終わった。それはそう、そもそもAbbyは存在しないのだし、存在しているのはAbbyとして悪用された女性、そして詐欺師である。おそらくAbbyは自身の画像が詐欺に使われていることを知る由もないだろう。

なので「画像が使われまっせー!」ということが本人に伝わるといいな、との考えから、本記事ではAbbyの画像を1枚だけ無加工で使用している。もちろん、これをきっかけにいつか本物のAbbyと出会えることも期待して。……なんてな。

まあ、それはウソというか、全然願っていないが、それでも画像で見ていたAbbyが私の目の前に現れて、こう言われたのならば、私の恋愛ホルモンは暴発してしまうかもしれない。


Abby Back」と──。


──完──


参照元:NHK
執筆:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.
ScreenShot:LINE(iOS)