杜の都・仙台からほど近い、宮城県塩竈市。人口5万4000人ほどの小さな海辺の町だが、ここに世にも不思議な「釜」を祀った神社があるという。「日本三奇」のひとつ、未来を予知する釜なのだとか。神社の名を「御釜(おかま)神社」という。

「日本三奇」とは、江戸時代に諸国を旅した橘南谿(たちばな なんけい)という医者が、著作の中で “3つの奇跡” と紹介した古代の遺物。あとの2つは「石の宝殿(兵庫県)」と、「天逆鉾(宮崎県)」だそうで、いずれも「誰が」「何のために」「どうやって」など、謎に包まれた不思議な宝物だ。

塩竈市といえば有名な鹽竈(しおがま)神社があり、御釜神社はその末社にあたる。鹽竈神社はいつも大勢の参拝客で賑わっているが、道路を挟み、住宅街に少し入ったこちらは静まり返っている。言われなければ通り過ぎてしまいそうな、ひっそりと佇むのが御釜神社だ。さっそくお参りしてみたい。


・御釜神社

見たとおりの小さな神社。境内も本殿もとりたてて変わったところはない。


……のだが、左を向くと何もない広場のようなところがある。元から大きくはない境内なので、このスペースがほとんどの面積を占めていると言ってもいい。ここは一体……?


さらに、囲いがかけられ、厳重に鍵のかかった一角が。見た途端、「これは!」と思うほど、独特の雰囲気をかもし出している。よく手入れされているからか、建屋が珍しい形だからか、いずれ周囲とはどこか空気が違うような気がして目を引く。社務所に申し出ると誰でも初穂料100円で参拝させていただけるという。ぜひお願いしてみよう。


・四口の神釜

内部は聖域で写真撮影禁止なので、筆者の図解で想像していただきたい。直径1メートル以上はあろうかという大釜が地面に埋められ、水が張られている。

釜の内部には堆積物があるのか水深はごく浅い。澄んではいるが、鉄さびのオレンジ色に見える。この水が不思議で、壁で四方を囲んではいるが、屋根は半分ほどしかかかっていない。つまり外気にさらされているのだが、どんな天候でも水が溢れることも干上がることもないのだという。さらに「世に変事のあるとき」、これは凶事もあれば吉事もあるというが、水の色が変わって人々に知らせるそうだ。

『塩竈町方留書』という町の記録によると、釜の水の変化による占いは、少なくとも寛永13年(1636年)まで遡れるという。異変があったときには仙台藩に報告することになっており、伊達政宗が病に倒れた折にも水の色が変わったとか!

ちなみに釜はもともと7つあったのだが、盗人に盗まれて4つになってしまった。しかし盗まれたうちの1つは偶然か神罰か、運び去る途中で海に沈み、今も海底に鎮座していると伝わる。その海域を「釜ヶ淵」と呼んで聖地とし、神事船から海水を汲んで神釜の水を入れ替える「水替神事」が毎年行われている。


・藻塩焼神事

この大釜、もとは何かというと、塩を煮詰めるためのものだ。先ほどの広場のようなところだが、毎年7月4日から6日に「藻塩焼神事」という神事が行われる。ホンダワラと呼ばれる海藻を刈り、海水をかけて高濃度の塩水を作る。それを煮詰めて藻塩を作るという、古代の製塩法を再現した儀式なのだという。

伝承によると、この大釜をもたらし、塩の製法を当地の人々に教えたのが「鹽土老翁神(しおつちおじのかみ)」という神様。御釜神社の御祭神だ。日本古代の製塩発祥の地として、そして鉄の釜が「塩竈」の地名の元となったとして、とても由緒ある神社なのだ。かの松尾芭蕉も参拝して釜を見た記録が残る。


神社にまつわる全てが海、水、そして塩に関係している。塩竈が塩の町であることがよくわかる。御釜神社がある一帯もかつては浜辺だったというから、村人総出の製塩風景が広がっていたのだろう。


・鹽竈神社

本社にあたる鹽竈神社にも少し触れておきたい。陸奥国(むつのくに)一之宮で、一之宮とはその地域で最も格式が高い神社のことだという。今でいう福島県、宮城県、岩手県、青森県を含む一帯のことだから、相当の大規模神社である。本殿や拝殿は国の重要文化財でもある。

しかし、筆者が最も感動したのは実は社殿や宝物ではなく、ふとした眺めだった。


池泉式の日本庭園と、その向こうに広がる塩竈の街並み、さらに遠景にはきらめく松島湾が一望できる。高台にある神社が、まさに町を守っているような眺望で、地元の人から「しおがまさま」と篤く慕われるのがわかる。

古代から海の恵みを得て生活してきた人々の暮らしが、信仰と深く結びついている。塩を作り、塩を売って栄え、塩をもたらしてくれた神様を祀る。町全体がパワースポットのようだ。

筆者はかなりの現実主義で、奇跡とか神秘とか信仰といったものとは無縁な方なのだが、こうした民間伝承が生まれた背景にある人々の営みを思うと素朴に感動してしまう。仙台や松島といった観光地に挟まれた、決して大きくはない地方都市だが、歴史と情緒、そしてエネルギーのある土地だ。もし宮城に来たなら、松島だけで終わらずぜひ一度訪れてみて欲しい。


・今回ご紹介した場所の詳細データ

名称 御釜神社
住所 宮城県塩竈本町6-1
備考 境内参拝自由、神釜初穂料100円


参考リンク:鹽竈神社御釜神社日本三奇(高砂市観光ビューロー)
イラスト・Report:冨樫さや
Photo:RocketNews24.