そば屋の定番のひとつに、「カレー南ばん」がある。定番メニューでありながら、それがいつどこで生み出されたのか、そのルーツを知る人は少ないだろう。諸説あるのだが、その起源の1つとされるお店が東京・中目黒の「朝松庵」である。

このお店の2代目が研究を重ね、そば・うどんに合うカレーを作り上げ、現在に至るまでの80年以上、一子相伝でその味を守り続けているそうだ。世にカレー南ばんが広まったのは、このお店の苦労によるものなのだとか。

・カレー南ばんを宣伝して歩いた

現在、お店は目黒銀座商店街にある。その昔は大阪にあり、2代目が作り出したカレー南ばんとカレー丼を売りにしていたそうだ。明治43年(1910年)に東京に出店した後に、同業者にもカレー南ばんを宣伝して歩いたそうだが、その当時あまり相手にされなかったのだとか。

・メニューには控えめに記載

しかしそれでも挫けることなく宣伝を続けた結果、大正期にカレー南ばんをメニューとして提供するお店が増えていったのだとか。今のようにテレビやネットで情報が広まる時代とは違い、当時は伝え歩くより他になかったようだ。さて、そんなカレー南ばんそば(700円)は、メニューにデカデカと書かれている訳ではない。

他の品々と同じように、メニューに並んでいる。「当店発祥カレー南ばん 700円」とでも、大きく載せればいいのに。実際の商品も、決して派手なものではない。

・とろみの強いカレー

こちらのカレー南ばんそばは、とろりとしたカレーの海に、そばが静かに眠っているような一品だ。ちらりと見えている豚肉が、妙に食欲をそそる。

とろみがしっかりとしており、見た目以上に中はアツアツ。そばを箸ですくい上げると、閉じ込められた湯気が立ち上る。

・お手本の「そば屋のカレー」

そばをすすれば、麺にまで出汁がしっかりと浸みているのがよくわかる。これぞ、そば屋のカレー。教科書通り、お手本のカレーである。これが元となって全国のそば屋に広まっていったのだから、日本でもっとも正しいそば屋のカレーといってもいいだろう。

出汁の甘味と、スパイスのかすかな辛味。カレーといえばインド風・欧風・タイ風などなど、現在はさまざまな種類を食すことができるのだが、日本人の味覚にもっとも合うのは、そば屋のカレーではないかと思う。その起源を味わいたいのなら、朝松庵に行くべきである。

・今回訪問した店舗の情報

店名 朝松庵
住所 東京都目黒区上目黒2-42-12
営業時間 11:30~15:00 / 17:00~20:30
定休日 火曜日

Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

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