
もう時効だろうから書いてしまうが、今から20年ほど前、私(あひるねこ)は大学の女子トイレに入ったことがある。間違えて入りかけたとか、そういうレベルではない。個室でバッチリ用まで足した。
その際、私は生まれて初めて『音姫』の存在を知り、結果的に何度かボタンを押すことになる。『音姫』を使ったのは、あれが人生最初で最後ではないか。
・音姫とは
TOTOが1988年5月に発売したトイレ用擬音装置『音姫』。音消しに使われるムダ水を減らすために作られた商品である。公式サイトによれば、2011年に川のせせらぎの音に変更されるまでは、流水音が使用されていたという。
ちなみに当編集部のトイレには、編集長・GO羽鳥が自身の放屁音を隠蔽するため設置したオーム電機製『ミニ流水音発生器』がズラッと5つも並んでおり、それらが同時に作動する様はさながら洪水のようで圧巻だ。
さて、ここで話は20年前にさかのぼる。当時、高校3年生だった私は、東京の某私立大を受験するために北海道から上京。入試会場である都内のキャンパスを訪れたのだが、その時の状況が少々特殊だった。
というのも、私の試験会場となっている校舎には、なんと男子トイレが一つもなかったのだ。「男性は〇階のトイレを、女性は×階のトイレを使うように」とのことだが、当然どちらも女子トイレである。つまり、男性も女子トイレに入って用を足せと……?
・厳しい要求
仕方がないとは言え、これは10代の私にとって非常に抵抗がある行為であった。冷静に考えて、ただの男子高校生である私が女子トイレに入るなんて重罪ではないか?
学校でふざけて侵入したバカがいたが、その話は一瞬にして学年中に広まっていた。無論、悪い意味でだ。そこに入って、しかも下半身を露出しろだなんて……試験前に余計なプレッシャーをかけないでいただきたい。
もちろんトイレに行かない選択肢なんてないため、私はその日、生まれて初めて学び舎の女子トイレに入ることに。当たり前だが小便器などない。誰も立って発射していない。完全個室オンリーだ。
さすがに女子トイレは個室が多いなぁ……などと考えながら中に入ると、そこで目に留まったのが『音姫』だった。私と『音姫』、初邂逅の瞬間である。
・未知の出会い
(これは……ウォシュレット? じゃないな。『音姫』と書いてあるけど、何のための機械なんだろうか?)
当時の私は “それ” が何なのか分からないどころか、『音姫』という名前すら聞いたことがなかった。別にそのままスルーすればよかったのだが、すぐ上に紙が貼ってあり、そこにはデカデカとこう書かれている。
「ここを押してください」
おそらく学校側が『音姫』を使用する女子学生のために親切心で貼ったんだろう。しかし、その文字を見た私は真面目に「え? 押さないとダメなのか?」と思った。これを押さないとトイレが動かないとか? いやいや、そんなことある? でも女子トイレだしな……。
もしかしたら私が知らないだけで、女子トイレ特有の規律が存在するのかもしれない。郷に入れば郷に従え。よく分からないが、とりあえず押すだけ押しておこう。その結果……
ゴォーーーーーーーー
『音姫』という名のその謎の機械は、なぜか水が勢いよく流れるような音を爆音で放出していた。私はその様子をしばらくボーっと眺めていた。すると、音が消えた。私はもう一度ボタンを押してみた。
ゴォーーーーーーーー
意味がよく分からなかった。何も起きた気配はないし、トイレの水が流れるワケでもない。一体どういうことなんだ……? 考えることしばし。ここで私はようやく『音姫』の存在理由を理解した。そうか、これは音を出すこと自体が目的の機械だったのか。
途端に私は、2回もボタンを押してしまった自分が猛烈に恥ずかしくなった。周りの受験生から「コイツ、どんだけ音を気にしてるんだよ(笑)」と思われていないだろうか? なんだか個室から出るのが気まずい……。
ところが次の瞬間、まったく想定していなかった事態が起きた。
ゴォーーーーーーーー
ゴォーーーーーーーー
ゴォーーーーーーーー
ゴォーーーーーーーー
ゴォーーーーーーーー
なんとトイレ内の至るところから、同時多発的に『音姫』が鳴り響き始めたのである。凄まじい轟音だ。今から合戦でも始まるというのか?
これはあくまで私の推測だが、おそらく彼らは自分の音を消したくて『音姫』のボタンを押したワケではない。きっと私同様、それが何なのかよく知らずに、とりあえずボタンを押してみただけであろう。分かるぜ、その気持ち……。
・ちょっぴり大人に
私が手を洗っていると、個室から受験生らしき男性が出てきて隣で手を洗い始めた。心なしか、彼の表情には気恥ずかしさが漂っているように見えた。なんとなく親近感がわいた。ちょっと気が早いけど、もしお互い受かってたら4月からよろしくな!
私が『音姫』を作動させたのは、20年前のあの日、あの時が最初で最後である。その意味に気付いた時はすごく恥ずかしかったが、今となっては学生時代のいい思い出だ。ちなみに、その大学は落ちた。
参考リンク:TOTO
執筆:あひるねこ
Photo:RocketNews24.
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あひるねこ





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