つい先日の話である。上司に「ねえ明日って暇?」と聞かれたので、暇ではねぇよと思いつつ「暇ですよ」と返したところ、「じゃあかつおを釣りに行かない?」と誘われた。予想の斜め上の勧誘である。

なんでも車で静岡県焼津市まで行き、そこから船に乗って海に出るらしい。もはや漁やないか! これはかつてない壮大な企画になる……はずだった。この時までは。

・かつおを釣りに焼津まで

当サイトでもっとも偉く、そしてもっともアホな男であるYoshioに誘われ、静岡県焼津市までかつおを釣りに行くことになった私(あひるねこ)。


翌日、車に乗り込んだ我々は……


Yoshioの運転でいざ静岡へ。


約3時間かけて……


焼津市内のとある港に到着した。


Yoshio「よーし! 俺についてこーーい!!」


Yoshio「かつお釣ったるでーーーー!!!」


が……!


ここで信じられない事態が発生する。





「行っちった……」

・すでに出港

行ったって……え、船が!? かつお釣りの!? なんとこの男、時間を間違えたらしい。んなアホな話がッッ! ……いや、Yoshioならあり得るな。我々は一体何のために焼津まで来たというのか。


で、Yoshioさん、船はあとどれくらいで戻ってくるんです?


Yoshio「うーん、6週間くらいかな


や、約1カ月半ンンンンンンンン! 大学生の夏休みか!! そんなに待てるかよ!

・終了

かつお漁は遠洋漁業のため、一度海に出ると6週間は戻ってこられないらしい。その船に乗るつもりだったのかお前。というツッコミはさておき、さすがに6週間も船が戻るのを待つワケにはいかないだろう。


残念ながら本企画はこれにて終了。いや、お蔵入りにするしか……と思った次の瞬間。


Yoshio「そうだ! あそこに行けばいいんだ!!」


そう叫ぶとYoshioは、割とマジで嫌がる私を連れて、焼津市内の “ある特別な場所” へと向かった。聞くところによると一般の人は入れないらしいのだが、その場所というのが……


こちらの施設である。

・工場へ潜入

実はここ、味の素(株)「ほんだし®」のかつお節を作っている工場。Yoshioによると、私たちが乗る予定だった船で釣れたかつおも、こちらの工場に運ばれるらしい。

船上で冷凍されたかつおは、焼津港で水揚げされ工場へ。熟練の職人さんたちの手作業によって「ほんだし®」専用のかつお節が作られるんだとか。


なんと漁港では、かつお節に適した脂肪分が少ないかつおを選び抜いて購入しているらしいぞ。マジかよ、さすが味の素(株)。というワケで、さっそく工場内を見学させてもらうことに。工場内はかつお節のいい香りでいっぱいだ。

・本物のかつおを使用

まず私たちを出迎えてくれたのが、こちらの巨大な機械だ。


工場内で解凍されたかつおをこの機械に通すと……


一瞬で頭を切り落とし、内臓を取り除いてくれる。


キレイに捌(さば)かれたかつおは、続いてこれまた巨大な釜の中へ。熱湯で約1時間煮込んでいく。


煮上がったかつおはその後、中骨と尾を取り除かれる……のだが。この工程は細かすぎて機械では不可能なため、すべて手作業で行われる。ス、スゴイ……!


そしてここから、いよいよかつおを燻(いぶ)す作業に移っていくぞ。香り豊かなかつお節を作るため、燻す用の薪(まき)には選び抜かれたナラ材を使用しているという。


その薪を使って、なんと地下からかつおを燻すらしい。何やらダンジョンの入口のようであるが……


中はもっとダンジョン風である。うわ何だここ! 暑っつ!!


巨大な釜のような部屋の中では、焙乾士(ばいかんし)と呼ばれるかつおを燻す職人さんが薪を組んでいる。


驚くことに、かつおの状態を見て燻す時間を調整したり、燻すための薪をくべたりする作業は、機械ではなく職人さんの手によって行われているのだ。


暑いのをガマンしてしばらく見ていると……


う、うわァァァァァァァアアアアア!


いやぁ、マジで溶けるかと思ったぞ。これでかつお節の完成……ではなく、実は「ほんだし®」は、熟練のかつお節職人さんが独自の製法で燻し分けた3種のかつお節をブレンドして作られているのだ。

先ほど工程を見せてもらったかつお節は、「ほんだし®」のベースとなる「深燻し」。これとは別に、削りたての強いロースト香が特徴の「極深燻し」と、ふわっと広がるマイルドな香りの「浅燻し」があるらしい……のだが。


残念ながらここから先は企業秘密。


燻し終わったかつお節は、できあがりのツヤや形、香りや味を職人さんの目・鼻・舌を使って検査していく。これを官能検査と言う。


こうして厳しいチェックを受けたかつお節はその後、三重や川崎の工場へと運ばれ、そこで粉砕や他の調味料と調合し、初めて「ほんだし®」になるのである。

・こだわりの結晶

まさか「ほんだし®」に使うかつお節が、こんなに大変で複雑な作業によって作られていたとは……。ぶっちゃけただの魚粉だと思っていました。職人の方々、本当に申し訳ありませんでした!

こだわり抜いた本物のかつお節で作られているから、「ほんだし®」にはかつお節本来の香りやうま味がそのまま詰まっているんだな。

改めて「ほんだし®」で作ってもらったみそ汁を飲んでみたところ……


……なぜだろう。より一層おいしく感じられたのだった。

お店で「ほんだし®」を見かけた時、手に取った時は、どうか思い出してほしい。焼津港で水揚げされた新鮮なかつおと、手作業によってかつお節を作り出していく職人さんたちの技術と魂。そして……



わざわざ静岡まで来たのに船の時間を間違えた、Yoshioというアホな男のことを──。


参考リンク:味の素(株)「ほんだし®」、X(Twitter) @HONDASHI1970_jp
執筆:あひるねこ
Photo:RocketNews24.

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