私(佐藤)は普段お酒を飲まない。「すごく飲みそう」と言われるけど、アルコールに弱くすぐに顔が赤くなって頭が痛くなるからだ。しかし取材で遠方に出かけると、その街の様子を知りたくて飲みに出たくなってしまう

最近も滋賀県を訪ねた際に、飲み屋街を散策して1軒のスナックにたどり着いた。そこで、スナックの楽しみ方がわかったぞ。そうか! スナックはクラブだと思えば、めちゃくちゃ面白いな!!

・今日は飲みに

若い頃、私はバーで勤めていたことがある。そのおかげでお酒については多少なりとも知識があり、すこぶる調子が良いときには、カンパリを飲むと決めている。カンパリの美味しさについては、その当時に世話になったある紳士(自分的に「師匠」と呼んでいる)に教えて頂いた。

美味い酒は知っている。弱いだけで嫌いではない。頭痛さえなければ、いつでも飲みたいとさえ思っている。だから遠出をした時には、気分が高揚したついでに、飲みに出たくなってしまうのだ。


滋賀県を訪ねたのは、福袋全部プレゼント企画のためだった。総重量推定200キロ + 巨大パンダのぬいぐるみを大型バンに詰め込んで、私と編集部のヨシオは交代で運転して、西へと向かった。当選者宅に配送の前日に滋賀県入りして1泊。午前10時に新宿を出て、寄り道しながら宿泊先に着いたのは21時だった。

ロングドライブで疲れていたけど、今日は飲みに行きたい。そう考えて、私はホテルの部屋に荷物を放り込むと、すぐに出かけた。


・1番盛り上がっている店

ところがである。ヨシオの手配した宿は高速道路入口間近の郊外だった。飲み屋などあるはずもない。目の前のパチンコ屋のネオンが眩しいばかりで、その先はもう真っ暗。街らしい街は見えなかった。

どうしよう……。せめてコンビニで缶ビールでもと思ったけど、近くになさそうだ。こりゃ行くしかねえ! なぞの気合いで出かける決意を固めた。


最寄駅まで徒歩15分。駅に到着して、飲み屋街がある隣町まで電車で10分。すぐに着くと思ったら、電車は1時間に1本。次に来るのは50分後だ。50分待つか? それとも15分歩いて帰るか? 仮に隣町まで行けたとして、帰りはどうする?


ええい! 何とかなるだろう!! ここでも気合い発動。思えば、私の人生自体が行き当たりばったり。「何とかなる」でここまで来たのだ。飲みに行くくらいでビクビクすんな!



そうして、宿泊先の最寄駅であるJR草津線「手原駅」から「草津駅」に到着。駅を出ると、土曜日の夜だけあって若者たちが飲み歩いている様子だった。さて、どこに入るか。当然どこにもあてはない。下調べもしていないから、自分の勘だけを頼りに店の扉を開けるしかない

ひと通り辺りを歩いて駅周辺を1周。う~ん、決めかねるのでもう1周。バーで一杯飲むか、郷土料理の食べられそうな居酒屋に入るか。さらにもう1周……。


キリがない! 時間が過ぎていくだけだ。そうしている間に、雨がポツリポツリと振り出してきた。アプリの天気予報を見ると、このあと土砂降りの予報が出ている。早く店に入らないと。もういいや! こういうのは理屈じゃねえ!! 1番盛り上がっている店に入ってやれ!!

ってことで、入ったのが老舗スナックだった。どうやら、このお店は界隈で1番古い店だったらしい。


・スナックはクラブ

店に入るとほぼ満席。奥のテーブル席には、何かの集まりの帰りと思われるご年配の6人のグループが陣取り、長いカウンター席には常連さんらしい2~3人連れが3組程度が座っていた。

カウンターの端に座ると、小(ちい)ママはちょっと驚いた様子で見ていた。あまり一見さんの来るお店ではなかったのかも。ビールをお願いして、改めてお客さんの様子を見ると、ほとんどのお客さんが私より年上のようだ。女性連れの男性は他のお店の同伴かな? とにかく年齢層の高いお店である。


壁を見るとこう書かれていた。


「昭和42年5月16日の開店より57周年を迎えました」


57年! いやはやこのご時世で、水商売を半世紀も続けているとは、恐れ入るばかり。奥にいらっしゃるのが大ママかな。現役で店に立って、お客さんに酒を勧め、またお酒を頂いている。たくましいとしか言いようがない。



このお店が1番盛り上がっている。そう思ったから入店したわけだが、その理由はカラオケだった。次から次へと曲の予約が入るので、カラオケが絶え間なく鳴り響いている。皆さんのチョイスする曲もよくて、世代的に私に刺さるものばかり。80~90年代歌謡曲のオンパレード。時代的にはカラオケボックスの全盛期で、高校生の時分に私も友達と一緒に遊びに行った記憶が蘇る。とにかく皆さん、歌が上手くて、それにもビビった。


たとえば立ち上がって歌う70代中ごろの男性の場合。短く刈り込んだ白髪にメガネ、サッパリとしたポロシャツを羽織る至って普通の年配男性が、少年隊の「仮面舞踏会」を入れる。

私は内心、「いやいやおじさん、それ声が出ないでしょ」なんて思っていると……。


70代のおじさん「トゥナイヤイヤイヤイヤ、ティア!!」


乗っけからハイトーンボイス炸裂! うめぇええええ! めっちゃ声出てる~~~ッ!!

こんな調子だ。薄毛のおじさん2人がKinkiKidsの「ガラスの少年」とか歌ってもう大盛り上がり。ちなみにこの日のハイライトは、あとから来た私と同世代の女性2人によるピンクレディーの「UFO」。店内がひとつになりました。


ヤバい! めちゃくちゃ楽しい。クラブウベントの歌謡曲ナイトに来てるみたいだ。そうか! スナックはクラブだと思えばいいのか。お客さんは全員DJで、皆さんの選曲を楽しめば良いんだな

「知らない人の歌を聞かされてる」と思うと面白くないけど、「次のDJはどう攻める?」と思いながら、そのセンスを楽しめば良いんだな。ということで、フラリと入ったスナックで、その楽しさに目覚めた次第である。



なお、帰りはお店でタクシーを呼んでもらい、無事にホテルまで帰り着くことができた。そのタクシーの運ちゃんもまた面白い人で、乗車時間15分の間に意気投合して、運ちゃんと2人でゲラゲラ笑いながら、土砂降りの夜の街を駆け抜けた

これだから、知らない街で飲むのはやめられないんだな。


執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24