どこの街にも憩いの店がある。飲み屋だったり喫茶店だったりと様々だが、ほぼ全ての店がこのコロナ禍で厳しい現状に置かれている。自粛中の休業の末、そのまま閉店してしまったりと寂しい末路を辿っている店は少なくない。

東京・阿佐ヶ谷にある、サブカルの聖地といわれている夜の喫茶店「よるのひるね」。この店もコロナ禍で休業を余儀なくされたひとつである。5月1日より長期休業しているが、一体どうなっているのだろうか? まずは簡単にお店の歴史から紹介していこう。

JR中央線阿佐ヶ谷駅北口徒歩30秒。飲食店がひしめく一角にその店はある。赤い煉瓦が印象的なレトロな建物に、タツノオトシゴのイラストが可愛い看板。夜の喫茶店と謳(うた)う「よるのひるね」は2002年にオープンした。

もともと池袋の詩歌専門の書店で店長をしていた門田克彦さん。そこで小さな出版社は営業専門の人がいないという実情を知り、フリーで営業代行の仕事をはじめる。営業は日中が主。夜の時間を有効活用するため、お酒やお茶を飲みながら漫画や本を読める店を作りたいと考えたのがそもそものはじまり。

お店の場所に目をつけたのが、カルチャー好きが多く住む中央線沿い。店舗を探している最中、スナックだった物件に空きが出るということで、現在の場所を紹介された。趣がある建物と駅近、そして1階という立地を気に入り即決。「よるのひるね」が誕生する。

今でこそ本を読めることを売りにするカフェや喫茶店は多いが、当初はそういう店は少なく、いわばブックカフェの走り。メインはサブカル系、コアな漫画や絵本、絶版本、古書が並んでいる。

しかし店はすぐに繁盛したわけではない。試行錯誤し「通常営業以外にも何か売りを!」ということで漫画家さんのイベントなどを開催。トークイベントだと思いきや、当初は “この店にくれば誰々がいる” というユルい感じだったというから面白い。

2004年に漫画家、映画監督である杉作J太郎さんが映画のロケに使ったり、トークイベントを開催したことで、段々と知名度があがっていき、2005年には絶版になっている名本を復刊、出版する「よるひるプロ」の運営を開始。

2006年からは看板イベントになる「昆虫食のひるべ」や、2010年には漫画家・古泉智浩さん主催の映画を制作する研究会「よるひる映研」がスタートする。

それからは順調にサブカルの聖地として営業が続いていたのだが、開店から18年経った今年2020年、新型コロナウイルスの影響で世の中がガラリと変わってしまった。そして、その波には逆えず、「よるのひるね」も……


5月1日から休業へ。

半年間の休業と期限は設けられているものの、正直「もしやこのまま……」と不安になったりもする。そこで、お話を聞きにお店まで行ってみたところ、ドアに新たな張り紙が!! いったい何が書いてあるのかと見てみると……


“再開予定”の文字が!!


ということで、店主の門田さんに話を聞いてみることにしたのである。門田さ〜ん、再開されるんですね!


門田「あぁ、こんにちは。はい、11月1日で休業して半年経つんで、まぁ再開しようかなと」


──よかったです! 休業したのは自粛要請を受けて?


門田「大家さんと話し合って『これはもちませんね』と。『半年休んで様子見ましょうか』ということで」


──当初はそのまま閉店することも考えてたんですか?


門田「4月1日時点では、まぁ無理だろうと思ってました。世の中の状況を見てて、おそらく無理だろうなって。でも4月に皆さんから励ましの声をSNSでいただいたり、お店に来てくださる方もいて、やっぱり辞めるわけにはいかないかなって」


──それは嬉しいですね。ちなみに、4月はやっぱりお客さんは減りました?


門田「全然、ダメでしたね……」


──ですよね……。


門田「まぁ今後もどうなるかわかりませんし、再開しても当分は赤字営業だと思いますが、クラウドファンディングで助けていただいたり、場所貸しなども検討したり、頑張っていこうと思ってます」


よかったー!!  ということで、よるのひるねは来月より無事に再開する。現在、今後の営業に向けてクラウドファンディングを実施中。11月以降は状況を見つつイベントも再開していく予定だという。またコロナ対策のため、窓の前の本も片付け、換気もバッチリだそうだ。

阿佐ヶ谷の街で長年サブカルチャーを牽引してきたよるのひるね、皆の憩いの場所が末長く続いていくことを切に願う。


・今回訪問した店舗の情報
店名 よるのひるね(夜の午睡)
住所 東京都杉並区阿佐谷北2丁目13-4 1F
営業時間 18:30~25:00(再開後の営業時間は未定)
定休日 火 ※5月1日より休業中。11月1日より再開予定。


Report:千絵ノムラ
Photo:RocketNews24.

▼コロナ対策のビニールの仕切りもあり、窓で換気もバッチリ。

▼カウンター席もあるので、バー気分も味わえる。この休業中でガッツリ掃除ができたそうだ。

▼グリーンカレーをはじめフードも充実。お一人様でも団体様でも大歓迎だ。

▼キャッシュレスにも幅広く対応。これは便利!

▼ガロをはじめ、気になる本がずらり。

▼ついつい長居してしまいそうだ。

▼レコードはもちろん、蓄音器も完備。

▼漫画家、山田参助さんデザインの看板。タツノオトシゴが愛くるしい。

▼扉のステンドグラスも可愛い。

▼店内の壁でギャラリーとして使用することもできる。

▼トイレもこれまた味わい深い。休業中に便器を新調したそうだ。

▼漫画家・古泉智浩さんによる「よるひる映研」。活動をまとめたDVDブックも出版された。

▼人気イベント「昆虫食のひるべとよるべ」より。

▼漫画家・堀道広さんによる「昆虫食のひるべとよるべ」のイラスト。

▼ライブも盛んに行なわれていた。写真はミュージシャンのセンチメンタル岡田さん。