いきなりで恐縮だが、私は猛烈に怒っている。

何にって、陰謀論やら反ワクチンがはびこる今のX(旧Twitter)にである。

先日ガンで闘病中の母親と、看病している叔母のふたりともコロナにかかったと連絡があり、マジで目の前が真っ暗になった。恐れていた事態が起こってしまった。

重症化したら死んでしまうんじゃないのか? いったいどうすればいいの? 看病のために帰っていいの?などなどパニックになって、震える手で「がん患者 コロナ」などでXを検索したのだが……。その検索結果はまるで地獄のようだった。

・まず見るべきは国立がんセンターのサイト

まず最初に言っておきたいのが「がん」にまつわる情報を調べるときに、最初に見るべきなのは、国立がん研究センターが運営する「がん情報サービス」というサイトである。

このサイトにはエビデンス(この治療法がよいといえる証拠)がしっかりした情報だけが掲載されているからだ。

もし、がん患者がコロナにかかってしまったらどうしたらいいのかを調べるために、私もこのサイトを最初に見た。そこには


「がん患者さんは新型コロナウイルス感染症にかかりやすく、重症化しやすいが、その程度は患者さんによって異なる」


と書かれていた……。めちゃくちゃヤバいではないか。うちの母はガンのステージが進行しているうえに、肺にも持病があるのだ。どうなってしまうのか?



・X(旧Twitter)の検索結果が地獄

気になったのが、実際にがん患者でコロナにかかってしてしまった人たちの体験談や、家族の対処方法である。そこでX(旧Twitter)を開いたわけである。

「がん患者 コロナ」 「がん コロナ陽性」 「がん コロナ 看病」

などのキーワードで検索したのだが……


出てきたのはほとんどが陰謀論と反ワクチンに関する投稿だった


医療機関からの発信や、がん患者と家族の投稿をかき消す勢いで、陰謀論と反ワクチンが続々と出てくるのだ。まさに地獄。

中には「コロナのワクチンを打ってからガン患者が増えた」などの投稿もあって、頭がクラクラしてくる。

欲しい情報は1個も出てこなくて、陰謀論ばかりが出てくるのを見て、私はマジでスマホをぶん投げそうになった。こちとら、家族の生死がかかっていて必死なのである。

幸い私はニュースサイトのライターであり、ネットリテラシー(情報の真偽と正確性の判断)が多少なりともある。どんなに沢山の「いいね」がついていようと、陰謀論や反ワクチンの投稿を鵜呑みにすることはない。

しかし、ネットに免疫がない人がパニック状態でこうした投稿を見たら……。溺れる者は藁をもつかむのだ。「いいね」が沢山ついていることを根拠に、うっかり信じてしまう可能性だってあるだろう。


・WELQ問題のことをみんな忘れたのか

2016年にWELQという健康・医療情報サイトが、医師の監修などもない真偽不明の医療記事を大量に公開して大問題になった。

WELQは、検索すると上位にくるような記事の書き方をしていた。そのため「風邪のときは家系ラーメンを食べよう」、「熱のときは頭にキャベツの葉っぱを巻くといい」といったトンデモ医療記事が表示されていたのだ。

体調が悪い中でこんな記事が出てきたらどうなるか。風邪ならまだマシで、突然血を吐いたとかの一刻を争うような状態だったら……? 最悪死んでしまう。

その後、Google検索では医療や金融、法律などユーザーの生活に直接影響を与える情報は厳格な評価基準を設けるようになった……という経緯がある。



・イーロン・マスクに買収されてから…

かつてのTwitterも医療に関する検索では、公式マークがついた医療機関やニュースが上位にくるように設定されていた。特にコロナ関連の情報はかなり慎重に扱われていて、検索時に注意文が出てきていた。


ところが、2022年10月にイーロン・マスク氏がTwitterを買収し、Twitterのいろんな部署が解雇されて混乱がおきた。


怪しいアカウントからのスパムが激増したり、表示でも不具合が起こるようになったり、医療や金融関連でも怪しい情報が上位に来るようになったように思う。コロナ関係の情報をTwitterで検索すると、もう陰謀論と反ワクチンだらけ。

実際、BBCの報道によると、Twitterは2022年11月に新型コロナウイルスの誤情報を規制するポリシーの運用を停止していたことが明らかになっている。これによって、新型コロナの誤情報投稿で停止されていた1万1000件以上のアカウントが復活した……ということだ。

これが、地獄の釜のフタが開いた瞬間なのかもしれない。


TwitterからXという名前に変わったことを考えると、もう別物なのかもしれない。

何も問題が起こってないときは陰謀論を目にしても「あーあ、また言ってるよ」とスルーするだけだった。しかし、いざ家族の生死が関わる場面で、陰謀論や反ワクチンに阻まれて欲しい情報にアクセスできなかったとき、私は絶望的な気持ちになった。


ネットの情報を信じるほうが悪い……と言う人もいると思うが、何度もそうした情報を目にするうちに「マスコミで語られない真実」として信じてしまう人だっていると思う。

言論の自由があるから、陰謀論も反ワクチンも止めることはできないだろう。ならば、せめてXも医療や金融情報に関しては、ちゃんとエビデンスのあるものが上位に表示されるようにしてほしい。


参考リンク:がん情報サービス
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.