旅には時に思いもよらない出会いがある。ちょっとそこに行く時間が違えば出会わなかったであろうこととの袖振り合う瞬間。先日、北海道に行った際もそういう瞬間に巡り合えた。

それは小樽で暴風雪警報が発令された夜の翌朝のこと。私(中澤)が凍った川を「スゲー!」という感じで撮影していると、隣から声がした。「この川は毎年鮭で埋め尽くされるんだ」と──。

・謎のおじさん

友達の今井くんと旅行していた私。その時はちょうど今井くんがお土産屋を見るかなんかで、暇をつぶしているところであった。そのため、今井くんがお土産を見終わって帰ってきたのだと思って振り向いたところ……

いや、誰やねん


そこには見知らぬおじさんが立っていた。冷静に考えてみれば、全然今井くんの声ではなかったし、今井くんにこの川の知識があるわけがない。

・返事してみた

しかし、基本的にこの町で私に話しかけるのは今井くんだけだと思っていたので混乱した。あれ? この人知り合いだっけ? そこで脳内で顔認証しながらもう1度顔をしっかり見てみる。

いや、誰やねん。絶対に知り合いではない。しかし、このまま黙っていて無視したみたいになるのも気まずいので、返事をしてみた。


私「鮭で埋め尽くされるって、この川鮭登ってくるってことですか!?」


おじさん「そうそう、鮭が100匹くらい登ってくるよ」


私「スゲェッ!」


──凄くはない。むしろ自然である。石狩湾に繋がってるわけだし鮭も川くらい登るだろう。なお、今googleで検索したところ、我々が話していた川の名前は「於古発川(おこばちかわ)」というようだ。鮭の川登りが見たい方は秋頃に行くと良いだろう。

・攻めてくるおじさん

さて置き、鮭トークが一瞬で終わってしまった。しかし、立ち去る気配を見せないおじさん。クッ、私にもっとトーク力があれば、鮭トークを広げておじさんを退屈させずに済んだかもしれないのに。反省していると、おじさんが次の球を投げる。


おじさん「うち来ない?」

──まさかの剛速球だった。実は、私は昔から変なおじさんに剛速球を投げられがちなキャッチャー体質である。小学校の時、電車で隣のおじさんに耳を触られて「君はきっと柔道強くなる」と言われたことあるし。でも、39歳になってこんな全盛期のダルビッシュみたいな火の玉ストレートが来るとは思ってもみなかった。

・雄大な石狩湾

どうしようかなあと考えていると、おじさんは言葉を続ける。「雪下ろし手伝ってくれない?」と。な~んだ雪下ろしか! この大雪だもんね!!

って、待ちたまえ。私はご近所さんか。10秒前に会った人に雪下ろしを頼んで、もし私が網走から逃げてきた『ゴールデンカムイ』的な人だったらどうするつもりなのかね? シャベルで雪ではなくおじさんを掘ることもできるんだよ?

と、こう思ってしまうのは私が東京在住で大都会に揉まれすぎたからだろうか。この町にいる人は全員ご近所さんと言わんばかりのおじさんの言葉に石狩湾の雄大さを感じずにはいられなかった

・自然の厳しさ

正直、記者としてはおじさんの家の雪下ろしを手伝いたい気持ちでいっぱいだったのだが、ネタを探しに来ているわけではなくただの旅行のため逆に時間がない。今井くんもいるし、今日は旭川で予定があるのだ。

その旨を伝えてみたところ、旭川でオススメのラーメン屋を教えてくれるおじさん。「おじさんが旭川に行ったら絶対に食べるラーメン屋」だという。

ラーメン屋を教えたことで気が済んだのか去っていくおじさん。その背中に小樽の自然の厳しさを感じずにはいられなかった

・オススメのラーメン屋に行ってみた

なんだったんだ……ということはこの際言わないでおこう。おそらく、あのおじさんは於古発川の精だったのだ。ならば、私ができることは1つ。於古発川がおじさんを遣わしてまで私に伝えたラーメン屋に行くことのみである。


というわけで、旭川の『天金』にやって来た

シンプルな外観はいかにも妖精が好きそうなラーメン屋ではないか。確か、おじさんのオススメは醤油ラーメン(税込み800円)だったが、塩、味噌、醤油しかないラインナップも昔ながらで逆に良い。八百万の神が通うならこんなラーメン屋だろう

とは言え、さすがなのはサイドメニューに「いくらごはん(税込み500円)」があること。於古発川は鮭が登ると言っていたし、おじさんの加護を感じずにはいられない。そこで醤油ラーメンといくらごはんを注文。

ラーメンもいくらごはんも見た目は素朴なのだが、町中華みたいな店でこのセットが可能なところがとても良い。絶妙な力の抜け方をしている。

しかし、味はただの町中華の味ではない。普通の醤油ラーメンよりちょっと曇った半分味噌ラーメンみたいな色のスープは、スッキリしていながらも深みがある味だ

素晴らしいのは、それでいて町中華の醤油ラーメンのような力の抜け方も感じられるところ。ラーメンの味も肩肘張らない絶妙な抜け具合なのである。1杯食べたくらいでは飽きないし、むしろ通いたくなる親しみやすさがあった。

・ありがとう石狩湾

ゴテゴテしたラーメンはあまり好きではないのだが、ここのラーメンはウマイと思う。私も旭川に行く度に通ってしまいそうだ。

旅には時に思いもよらない出会いがある。ちょっとそこに行く時間が違えば出会わなかったであろうこととの袖振り合う瞬間。だが、袖振り合うも他生の縁という言葉もある。ひょっとしたら、私もおじさんも前世は於古発川を登る鮭だったのかもしれない。ありがとう石狩湾。震える寒さの中で出会ったぬくもりを忘れない。


~fin~


執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.