西洋のオートマタから日本のからくり人形、最新ヒューマノイドまで、「人間そっくりの機械」を生み出す研究には絶え間がない。

たぶん理由は「便利だから」「役に立つから」だけではない。人間に似たモノを作るという行為には、人を夢中にさせる何かがあるようだ。

ちょっと不思議で怪しげで、どこかロマンのある「からくり人形」の世界。学研プラスの『大人の科学マガジン』で気軽に体験できるぞ! 


・『大人の科学マガジン BEST SELECTION 04』(税込3278円)

作れるのは江戸時代の「茶運び人形」。過去に好評だった号の復刻で、『大人の科学マガジン ミニ茶運び人形』(2007年)の改訂版となる。

開封すると、30個ほどに分かれたパーツが登場。マニュアルによると作業の目安時間はわずか30分なので、空き時間にサクッとできる手軽なキットといえるだろう。動力部など、複雑なパーツはすでに出来上がっている。

作業はネジ止めだけで進むので、機械工学の知識など一切なくてもOK。


素材は江戸時代とは違い、プラスチック、ゴム、金属バネなど現代のものだ。ただし動きの仕組みは、日本最古の機械設計書といわれる『機巧図彙』にもとづいているという。動力はゼンマイで、当時はクジラのヒゲを使っていたのだそう!

『大人の科学マガジン』シリーズに共通していえるかもしれないが、手順は非常に簡単だ。ほとんど完成に近いところまで各部が出来上がっていて、組み立てるだけの状態になっている。少し物足りないくらいだ。

しかし時計の調速機構を応用した「テンプ」「テンプ歯車」「調節駒」「動輪歯車」などなど、背後には専門的な技術が見え隠れする。理数アレルギーの筆者には「なんのこっちゃ」だが、付属のマガジンを読めば深掘りできる。

また、複数の接続部がズレないよう押さえたまま、隙間からバネを入れるという「手がもう1本ないと無理!」な難所も地味に存在した。何が大変なのか文章だとまっっったく伝わらないと思うが、間違いなく作業のクライマックスだった。

最大の難関は過ぎたので、あとはサクサク進む。足袋(たび)をはいた足をつける。


さらに人形の命、頭部を装着。顔はあらかじめプリントされているので、だれでも失敗することはない。

もし顔がデカールだったり、手描きだったりしたら……いろいろな失敗作が爆誕しそうでニヤニヤしてしまうが、ここは学研。あくまで真面目なキットなので、ネタのような展開にはならない。

本体が完成! しかしこのままでは機械部分がむき出しだ。ロボットといえども、これでは気の毒。

付属の和紙で衣装が作れる。簡単な洋装か、ちょっと難しい和装からチョイス可能。

洋装はシャツとジャケットの2種類あり、文化服装学院の森本慧氏のデザイン。和装よりも少ないパーツで、短時間に完成するようになっている。型紙をダウンロードすればオリジナル衣装も作れるぞ。

佐川急便の制服なんてどうだろう……と思ったが、結局は雰囲気重視で伝統的な和装にした。

ペーパークラフトのようにカッターと接着剤で衣装を作っていく。省略できる部分もあるが、帯など細かいところを作り込むとグッとリアルになる。本体の組み立てよりも遥かに時間がかかったのはここだけの話だ。

今度こそ完成である! 服を着せたら、とたんに人間らしくなった。厚手の丈夫な和紙で、質感もばっちり。高級感のある仕上がりに。

いわゆる「大五郎カット」だろうか? 江戸時代、子どもの頭髪は手間がかからないよう一部を残して坊主にすることが多かったのだという。前髪を残したり、頭頂部だけ筆のように残したり、いろいろなパターンがあったのだそう。流行りのツーブロックの原型では……。


それでは動かしてみるぞ。ゼンマイを巻いて、トリガーとなる茶碗を置くと……


一直線に向かってくる!


盆から茶碗をとると静止する。


くるりと器用に方向転換もできるぞ。


なんか……可愛い! 無表情かつ一直線にこちらに向かってくる姿は、どことなくホラーちっくなのだが、人はやはり「ヒトに似たもの」に愛着を抱くらしい。

あれ、おかしいな……ちょっと不気味? なんとも風情のある、いい表情だと思いながら撮影したが、写真になると少し印象が違う。動いているのを見ると可愛いぞ。本当だぞ。

余談だが、ロボット工学や造形美術で観察される「不気味の谷」という現象をご存じだろうか。

人間に似せた造形物は、通常は似れば似るほど親近感や好感をもって迎えられるが、ある一定のラインを越えると逆に不気味に感じられて嫌悪感を抱かせるというもの。

さらに進んで人間に近くなると、また好感が戻ってV字になるといわれる。人間とロボットとの関係には、まだまだ不思議が多い。


まぁ、深夜にカタカタと1人で動いていたらガチでホラー映画だが、人間用の茶碗は運べないくらいのミニミニサイズなので脅威は感じない。

江戸時代、客の驚く顔を見た主人はさぞかし満足だっただろう。自慢の珍品だったに違いない。


・あふれんばかりのロマンがある

身長13cm、茶碗のサイズは2.5cmほどの手のひらサイズ。実際にものを運べるような実用性はまったくないが、飾っておくとなんだか嬉しくなるような愛嬌がある。

発売は2021年8月12日。筆者は近隣の書店で購入できたので、まだ多くの店舗で在庫があると思う。ちょっとでもピピッときた方は、ぜひコレクションに加えていただきたい。


参考リンク:学研プラス公式ブログ
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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