島根県といえば出雲大社。起源に神話が絡んでくるレベルの神社だし間違いないだろう。だが、実は日本酒も同じくらい強いらしい。世間的には諸説あるが、県は日本における米を使った酒造り発祥の地を主張しているのだ。

スサノオノミコトがヤマタノオロチ退治に用いた八塩折之酒(やしおりのさけ)が根拠なもよう。なるほど、神話絡みでしたか。まあ、討伐のドロップ武器(天叢雲剣)は日本のレガリアだし、キーアイテムの酒もガチかもしれない。

そんな島根県から、県内で今もっとも勢いがある酒造の1つとして紹介されたのが、日本酒「石見銀山」で知られる一宮酒造。明治44年から続く全国新酒鑑評会にて令和2年、3年と続けて「石見銀山 大吟醸」が金賞を受賞するなど、アツいらしいのだ。

・石見銀山

昨年末に県が主催したプレスツアーで酒造を見学させて頂いたのだが、肝心の「石見銀山」シリーズは大半が売り切れていた。

ぶっちゃけ記事自体は酒造の紹介だけで終わるのも手だったが、読者にも酒好きが多いであろう当サイト的に、飲まないという選択肢は無し寄りな気がする

ということで、私の独断で酒も買ってレビューすることに。そのうち新酒ができるだろうと待っていたが、ついに公式HPで買えたのだ……! 関東圏で現物を見る機会は限られていると思う。

左から 石見銀山 特別純米「改良八反流」と、目玉の 石見銀山 純米吟醸「改良八反流」。そして右端が、公式HPでめちゃくちゃ限定感が出ていて思わず買ってしまった石見銀山 特別純米 しぼりたて生原酒


大吟醸じゃないんか? と思った方もいるかもしれない。私も迷ったのだが、今回はあえて商品名に「改良八反流(かいりょうはったんながれ)」とついているものを選択した。理由は後でお伝えする。

それぞれどんな味わいなのか非常に楽しみだ……が、その前に島根県と一宮酒造の協力で見学させて頂いた日本酒造りの現場を紹介していこう。


・一宮酒造

やってきたのは島根県大田市。近所に中学や高校がある、普通の住宅街の一角で酒造りは行われている。


入り口の暖簾には「石見銀山」の文字。ちなみにここから世界遺産の石見銀山までは、車で20分程度の距離だ。


昔は兵庫の但馬杜氏に作ってもらっていたらしいが、今は蔵元の三姉妹の次女 浅野理可氏が杜氏を務め、夫の浅野怜稀氏と共に夫婦が中心となって酒造りをしているそう。


・改良八反流

そんな一宮酒造の日本酒「石見銀山」を語るうえで外せないのが、契約農家から買い付けている「改良八反流」という酒米だ。


この酒米は、栽培の難しさから1度は生産が途絶えたこともあるレアな品種だという。復活したのは先代のころ。なんだかスゴそうな米だ。急速に興味がわいてくる。

さて、冒頭で「改良八反流」シリーズをあえて選んだと述べたが、理由はまあそういうことだ

実は「石見銀山 大吟醸」に使用されている酒米は山田錦。精米歩合が40%と磨かれまくった大吟醸か、レア度の「改良八反流」か……で、レアな酒米への好奇心が勝った感じ。

話を酒造りに戻そう。一宮酒造では米を10キロずつの袋に細かく分けて洗うのがこだわりの1つだという。洗った米は、巨大な甑(こしき)で蒸していく。


蒸された米は、2階の室(むろ)に運ばれる。温度が高く保たれており、ここに米を広げて麹菌をふりかけるなどするのだ。このパートは酒造りを紹介するTV番組などで写されがちなシーンの1つだと思う。


その後、ほど良い環境で保管すると、麹菌が繁殖していくのだそう。右がBeforeで左がAfter。酒米が真っ白になっていた。


こちらが醪(もろみ)が入った仕込み用のタンク。


中はこんな感じ。この時点でウマそうなイイ香りがしている。仕込み終わったところで、搾って液体の酒を分離し、日本酒ができるのだそう。


伺った話の中で個人的にもっとも印象深かったのは、同じ「石見銀山」であっても日々クオリティの改良に努めているという点だ。

歴史ある酒造。代々変わらぬ製法で同じものを作り続けているのだと思っていたが、いい方向への変化は厭わないという柔軟な姿勢なのだ。

長年のファンからも、年々良くなっているという声が実際に届いているとのことだった。その成果が2年連続での金賞受賞などに顕れているのだろう。

日本酒を飲むことこそしょっちゅうだが、実際に作っている現場を見る機会はあまり無い。実に興味深い体験だった。



・けっこう違う

それではいよいよお待ちかねの実飲パートにいこう。トップバッターは 石見銀山 特別純米「改良八反流」。他は公式HPのオンラインショップで購入したが、こいつだけは世界遺産の石見銀山の駐車場そばの土産物屋で見つけて1650円で買ったもの。


もし純米吟醸が手に入らなかった場合はこれだけでもレビューしようと考え、おさえておいたのだ。

精米歩合は60%で、アルコール度数は16度。


開けると、瓶の口から米の透き通ったいい匂いが立ち上る。飲むと、甘すぎず辛すぎず、よく澄んでいて、軽くまろやかだ。

飲み込んだら素早く消えて、クセらしいものが無い。素晴らしく飲みやすいタイプの日本酒だ! 単体で飲んでも何かの料理と合わせても戦えそう。

これが嫌いな人はいないと思う。何も考えずあらゆるシーンに出して大丈夫な気がする。酒を飲んでる感じが希薄で止まらねぇ!

日本酒デビューにも適した1本ではなかろうか。慣れない人でも美味しいという感覚を実感できるだろうし、まだ知らぬ己の好みを深く探っていく起点になると思う。

カメラのレンズで例えるなら撒き餌レンズみたいな。沼にいざなう第一歩。お値段も手ごろで、常備すればQOLが上がると思う。


続いては石見銀山 特別純米 しぼりたて生原酒。数量限定。


名称的に、加熱処理も加水もしていないのだろう。酒造が意図した風味に対して日持ちしなさそうなので、急いで飲む必要があると思われる。

違いは開封した時から明らかだ。やや酸味のある果物のような匂いが最初に感じられた気がする。その後から米の匂いがするのだが、そこにも違いがある。

香りの透明感の差を例えるなら、ノーマルの特別純米が水の入った透明なガラス瓶なのに対し、生原酒は無色のベビーオイルが入ったガラス瓶みたいな。確実なクセの存在を予感させる。

飲むと違いはいっそう明らかだ! ノーマルよりやや辛口か。今回は全て常温よりやや低めの温度で飲んでいるのだが、温度で風味の感じられ方が大きく変わりそうな気がする。

味は複雑で難しい。色んな風味が、まるでアナログ放送だった頃のテレビの砂荒らしみたいに混ざり合っている。あとに心地いいビター感が残る。探究心を刺激する楽しい味わいだ。

ノーマルに物足りなさを感じる人は試してみたらいいと思う。脂がのったヘヴィな刺身とか、あん肝、ウニあたりと一緒に食ったら映えそうな気がしている。



ラストは石見銀山 純米吟醸「改良八反流」。精米歩合は50%で、度数は16度。


特別純米との比較が面白い。どちらも華のある澄んだ香りには違いないが、特別純米の方が粘度を感じさせる。

味も完全に別物だ。純米吟醸は華やかな甘さで、特別純米よりもあとを引くように感じた。どちらが優れているというのは無く、方向性が違う。こんなにも違いがあるとは……!

万能感は特別純米の方が上だと思うが、それは個性が控えめだと言えなくもない。改良八反流を使用した「石見銀山」の特徴をわかりやすく味わえるのは純米吟醸なのかもしれない。

ということで島根の日本酒「石見銀山」と一宮酒造についてお伝えしてきたが……そろそろ思考が曖昧になってきたので締めようと思う。気づけば瓶の半分くらい飲んでしまった。16度だけど水より飲みやすい。

味わいは異なるものの、ウマさは全てガチだ! 飲むことにしたのは正解だった。ネット以外で買えるとしたらアンテナショップ等でワンチャンあるかという感じだが、見つけたら買いだ!

参考リンク:一宮酒造
執筆&写真:江川資具

▼世界遺産の石見銀山も雰囲気あって良かったぞ!