手を出したら “終わり” 。私にとって、コンビニの赤と青の「鬼ころし」はそういうイメージが強い酒だ。「ワンカップ大関」や、4リットル入りの「大五郎」もその類いだが、「鬼ころし」は1歩リードしている感がある。

そういうわけで、40年間1度も手を出さずに生きてきた。しかし、何事も試さずジャッジするのはよろしくない。様々なものをレビューし、それなりに経験値が高まってきたであろう今こそ、こいつと向き合う時。

・色々ある

実は「鬼ころし」自体は日本中に色々な種類が存在している。例えば愛知の清洲桜醸造の「鬼ころし」や、埼玉の東亜酒造の「鬼ころし」などだ。

ネーミングの理由がだいたい「鬼を殺すほど〇〇」なので、おおむね酒呑童子の伝説あたりの影響を受けたものなのだろう。

しかし、特に酒に強いこだわりのない一般人が「鬼ころし」と聞いてイメージするのは、全国の大手コンビニでほぼ100%売られている、あの赤と青の紙パックの「鬼ころし」だと思う。私もそうだ。

あれは兵庫県の日本盛株式会社によるもので、お値段は恐らくどこでも税込み100円か、±数円程度の範囲内だと思う。


・イメージ

なぜ私はその「鬼ころし」に対し、”終わり” だと思っていたのか。全ては若いころに夜のコンビニで見た、クソすぎる見知らぬおっさんのせいだ。

話は20年ほど前にさかのぼる。とある海辺の町で、私は夜釣りをしていた。近くには釣り人に寛容で、餌や簡単な仕掛けの取り扱いや、トイレの貸し出しもしているコンビニがあった。そのコンビニが舞台だ。

最初におっさんを見たのは、夜の10時頃だった。バサバサでギトついた髪と脂ぎった顔。真っ赤に充血した目。全身から、生臭く鼻につく酒飲み特有の、恐らくアセトアルデヒドに関連する体臭をまき散らしており、もはやモンスターだ。

彼は常に震え続けている手に、小銭と赤いパックの「鬼ころし」を握り、レジに並んでいた。くせぇしやべぇなぁと思いつつも、初見時はそこまで気にすること無くスルー。

次に見たのは、午前2時頃だった。おっさんはコンビニの駐車場に座り込み、「鬼ころし」を吸っていた。彼の周囲には、平たく潰された「鬼ころし」の紙パックがいくつも散らばっている。飲み続けていたのだろう。

店内でサンドイッチ等を買いつつ、夜勤バイトと思しき兄ちゃんに「駐車場のアレ、やべぇっすね」というと「10分おきくらいに買いに来るんだよ」「いつも散らかしていくんだよなァ……」と。常連かよ。

私は釣りに戻り、日の出の時間を迎えて帰ることに。再びコンビニに立ち寄ると、駐車場におっさんの姿は無かった。

かわりに大量の潰れた「鬼ころし」の紙パックと、まき散らされた反吐、そして人糞(アスファルトが濡れていたので、恐らく尿も)が残されていた。

店内のバイトの兄ちゃんは、杖が折れた時のロン・ウィーズリーみたいな表情をしていた。この40年、色んな人を見てきたが、あのおっさんは最底辺のうちの一人として殿堂入りしている。

紙パックの「鬼ころし」を見ると、常にその時の記憶が思い起こされる。あのおっさんみたいな顧客層に人気の酒というイメージ。最悪だろう。


・いざ

しかし時は満ちた。定番のウマいものはもちろん、なかなか手が出ない超高級品から、ゲテモノや正体不明なものまでレビューして経験を積んできた。心象と味覚を分離する技術は、我ながら結構な領域に至っていると思う。

皿に盛ったカレーと新品の便器に盛ったカレーだって、便器に惑わされずにどちらも同じ味だとジャッジできる。あののおっさんの反吐を思い出しながらでも、冷静かつ公正に「鬼ころし」のクオリティを吟味できるはずだ!


いざ! まずは青い「鬼ころし」、お前からだ!! 


あっ

……

……

……

……

……


_人人人人_
> 普通 <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄


びっくりするほど普通だなこれ。てっきり、血中アルコール濃度を上げることだけを目的としたゲロマズ酒なのかと思ったが、全くそんなことはない。普通に飲める

某チェーンのオリジナルブランドのマジでやべぇウィスキーのような、ヒドロキシ基付きの液状悪意ではなく、飲めるクオリティの日本酒だ

はぁん、こんなもんだったのか。なんだか拍子抜けだ。ウマいかと言われると、まあ、特別ウマいというほどではない。

例えばかつてレビューした石見銀山ははっきりウマかったが、青い「鬼ころし」はそれなりに角があるし、酸味の中にあまり好ましくない雑味も感じる。

しかし近所のファミマで101円だったことを考えると、値段対クオリティの面では健闘しているとすらいえる。


続いて赤も飲んでみよう。


あー、なるほど。ちゃんと味が違うんだな! 事前のイメージが上述の通り悪すぎるので、同じモノをパッケージの色だけ変えて、雰囲気で売ってんじゃないかくらいまで思っていた。これは失敬。

赤はキレッキレに冴えわたっているかというと、そこまでかなぁとは思うが、そこそこキレてる辛口だ。お前、わりと普通の酒だったんだな……。

赤も青も、味と香りともに好ましくないポイントはあるが、まあまあやれるぞこれ。なるほどね。紙パックの「鬼ころし」は、100円程度という低価格であらゆる層が手にしやすく、そこそこ飲めるクオリティ

アルコールの質としては、国民的飲料のストゼロに使われている謎ウォッカよりも、ぶっちゃけ良さそうな気すらする。ストゼロは甘味と強い香りづけで、だいぶごまかされているからな。

慣れてくると、“今日はこれでいいや” くらいにはなってくる。庶民のための、誰でもどこからでもアクセス可能な “救い” のような、そういう存在か。

ちなみに、私が試したのはファミマの「鬼ころし」だが、これはファミマと日本盛が共同開発したものらしい。なので、セブンやローソンのモノと味が同じかはわからない。

執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.
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