新シリーズが絶賛放送中のアニメ『鬼滅の刃』。今回の舞台となっている「刀鍛冶の里」は、柱でさえも正確な場所を知らない山中の隠れ里だが、作画のモデルではないか!? と一部で話題になっている場所がある。

ウワサの真相を確認すべく山形県尾花沢(おばなざわ)市、銀山温泉にやってきた。


・大正時代の建物が並ぶ「銀山温泉」

ガス灯に照らされた雪景色で知られ、インバウンド客にも人気の銀山温泉だが、アクセスは決してよいとは言えない。最寄りの大石田駅からだと路線バスで約40分。江戸時代には1日がかりだったという。

自家用車がもっとも便利だが、冬季には駐車場が閉鎖されたり、隣市から続く県道29号線(背あぶり峠)は県道なのに「決して通行しないでください」と公式から注意喚起される難所。

走りやすい道もたくさんあるものの、日帰り客は温泉街の中までは入れず、台数の限られた共同駐車場に停めるか、ずっと手前の銀山観光センター「大正ろまん館」からシャトルバス(300円)で向かうことになる。

観光センターから温泉街までは2㎞ほどの距離だが、吹雪のときに徒歩で街に向かうことは「命にかかわる行為」として禁止されている。

運良く共同駐車場に停められたなら、急勾配の道を徒歩で下ること数分。足の不自由な方だとおそらく大変なので注意。

しばらく歩くと見えてくるのが銀山温泉だ!



その名のとおり江戸時代に銀山があり、閉山後は秘湯としてひっそりと湯治客を迎えていた。水害や湧出量減少で一度は衰退するも、大正時代の発電所開設で復興したという。

中央に川が流れているが、それを大通りに置き換えると、なるほど似ている!!

「山に囲まれた小さな集落」「楼閣のような多層建築」「大正後期から昭和初期の街並」「かつて鉱山だった」「湯治場として栄え、いまも温泉街」など、刀鍛冶の里を思わせる要素が多数ある。

直線的に建物が並ぶ里に対し、銀山温泉のほうが戸数が多く、川に沿ってカーブしているという点は異なるものの、全体的な雰囲気が近い。

原作を読み返してみると、たしかに高欄(こうらん / 建物の周囲などに設置されたらんかん)や吊り灯籠などが描かれ、無骨な鍛冶場というよりは湯治場の雰囲気。

炭治郎も「すごい建物ですね!!」と驚いている。そのイメージをより膨らませたのがアニメ版に思える。

とくに能登屋旅館の特徴的な展望室(大正10年完成、現在は談話室)は、アニメ版でそっくりの建物が描かれており、モデルとささやかれる大きな根拠となっているようだ。

なお、筆者がもっとも鬼滅ポイントを感じたのはこちら、温泉旅館「銀山荘」のバスに描かれたイラスト。作品とはなんら関係がないが、とてもきれいで、とても鬼滅っぽい。

ちなみに里で炭治郎が感じているような強い温泉臭はしない。旅館の出入口など、源泉に近づいたときにわずかに香る程度。

刀鍛冶の里の温泉効能は怪我や生活習慣病のほか、性格の歪み、思いやりの欠如、失恋の痛みだそうだが、玄弥や時透くんにも効果が……?



・『鬼滅の刃』ファンでなくとも楽しい場所

温泉街は一本道で、端から端まで歩いても10分もかからない。同行者と別行動しても迷子になることもない広さだ。街の入口にある観光案内所でマップをもらって散策を始めるのがおすすめ。

至るところに足湯、縁台、ベンチなど自由に休憩できるスポットが点在し、街全体がひとつの公園のよう。ぶらぶら歩いては、好きなところに腰かけて川音を聴きながらボーッとする。大規模観光地にはない、ゆったりした時間が流れている。

街の中央に流れる銀山川は魚が泳ぐ清流で、目にも涼やかだ。こぢんまりした場所なので観光客向け店舗は多くはないが、レトロカフェやそば屋などで飲食も可能。

街の最奥まで行くと、見事な「白銀の滝」が! ここから昔の坑道跡などを巡る山道ウォーキングに出かけることもできる。健脚度ゼロの筆者には無理だが。

もちろん大正ロマンな建造物をウォッチするのも楽しい。左官職人の技術の粋である鏝絵(こてえ)やノスタルジックなガス灯を眺めたり、共同浴場で日帰り入浴したり。



一定年齢以上の方なら「なんだよキメツって、銀山温泉といえば『おしん』の舞台だろがぁぁぁ」と言いたいかもしれない。

山形の貧しい農家に生まれ、明治・大正・昭和の激動の時代を駆け抜けたひとりの女性を描いた同作。泉ピン子さん演じるおしんの母が出稼ぎに来たのが銀山温泉なのだ。

また、楼閣のような多層建築の建物は『千と千尋の神隠し』に登場する湯屋のモデルとも言われているらしい。

しんしんと雪が降る温泉街にオレンジ色のガス灯がともる幻想的なイメージが先行するが、夏場や昼間には先述のとおり街全体をひとつの公園のように気ままに散策するのがおすすめだ。

とくに、あちこちにあるテーブル、イス、ベンチなどの休憩スポットは、特定の店舗の利用者だけでなく街全体の来客として歓迎されているようで、とても好印象だった。全国の小規模な観光地振興の参考になるのではと感心してしまった。

鬼滅ファンのみならず、レトロ建築好きな方も、道路事情にだけ気をつけてぜひ訪ねてみて欲しい。


参考リンク:銀山温泉公式サイト
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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