大阪の鉄道ってムズイ。例えば難波駅ひとつもJR、メトロ、近鉄、南海に分かれ、各駅同士かなり離れている。逆に梅田駅と大阪駅は近すぎる。しかし大阪人に言わせると「東京のほうがムズイ」らしく、とにかく鉄道ってのは地域によって特色がありすぎるんだよな〜。

それが海外ともなると、都市ごとのルールを理解するのは至難の業だ。先日ヨーロッパの国チェコを訪れた私は、なんと地下鉄内で見知らぬ男に「罰金払え」と詰め寄られる事態に遭遇してしまった。旅行者なら誰の身にも起こり得る悲劇……あなたなら、どう乗り切っただろうか?

・海外の地下鉄事情

地続きのヨーロッパ内でも、鉄道の仕組みは都市ごとに異なる。まず大きく違うのが “改札のある・なし” だ。

チェコの首都・プラハは “改札なし” スタイル。タッチパネル式の黄色い券売機は、ヨーロッパ内でもトップクラスの操作しやすさ。

「乗車時間ごと(乗車時間で料金が変わる)」 「ゾーンごと(一定ゾーン内なら同一料金)」「行き先ごと(日本と同じ)」など、国によって切符の値段分けも異なる。プラハは「乗車時間ごと」スタイル。

「乗車時間ごと」の国へ行くたび思うのが、「もしも電車が遅れた場合はどうなるのだろう?」という点だ。プラハなら “30分以内30コルナ” という料金設定だが、遅延によって30分を過ぎてしまったら? 日本のように遅延証明書を発行してくれたりするんだろうか?

そんな疑問を持ちつつも、私が確認を怠ったまま旅していたのには理由がある。たとえば先日ドイツを訪れた際、私は “普通料金でうっかり特急に乗車してしまう” というヘマをやった。日本ではありえないことだが、ドイツでは “山手線と新幹線が同じホームに到着する” といった状況が普通に起こるためだ。

しかし切符チェックの車掌さんは「次回から気をつけてくれればOK」と笑顔で見逃してくれたものである。ヨーロッパ人は旅行者に対して基本的に親切。仮に間違いを犯したとしても、ワザとじゃなければ勘弁してくれる可能性が高い。

……という甘えた気持ちが今回の悲劇の引き金となったわけだが、まぁ順を追ってお話していこう。プラハでは切符購入後、そのままホームへ下って電車に乗り込める。このシステムを悪用すれば無賃乗車も可能だが、切符を購入した私には関係のないことだ。


・今年最大のピンチ到来

そんなこんなでプラハの鉄道にも慣れてきたころ、事件は起きた。

この日、私は滞在先からプラハ城へ向かうところ。乗車から3駅目、目つきの鋭い1人の中年男性が乗り込み、中国人とおぼしき乗客に声をかけた。どうやらこの中年男性、ぬきうちの検札官(切符の検札をする職員)らしい。

座席がほぼ埋まるほどの乗客がいる中、続いて彼は真っすぐ私の方へ歩み寄ってきた。アジア人を狙い撃ちしていることは明らかだ。「どうだ」とばかりに購入したての切符を見せる私。すると……


「テメー電車降りろ!」と怒鳴られてしまった!!!!!


ワケも分からず電車を降りる私の横で、どこかへ電話をかける検札官(仮)の男性。ほどなくして仲間が登場し、私は駅ホームで完全に包囲されるかたちとなった。彼らいわく、私の切符には「スタンプが押されていない」とのことである。

実はプラハではホーム手前に小さな自動スタンプ機があり、客は乗車前に手動で切符にスタンプを押すルール。気づかなかった私に非があるのは間違いないが、それにしても外国人にはなかなか理解しづらい仕組みだ。

「ごめんなさい、知らなかった」と謝る私に、非情にも告げられた罰金は1000コルナ(約6000円)。「罰金払え、今すぐ払え!」と、ホームじゅうの人が振り返るくらいの大声で私を怒鳴りつける検札官(仮)の男。

ルールを破ったのは事実なので、私は罰金を払うべきである。しかしながら……どう見ても観光客である私が「ルールを知らなかった」という状況は、客観的にも信憑性があるはずだ。いきなり「犯罪者め!」と怒鳴りつけるのは、少しやりすぎではないのか?

おまけに、そもそも私は「払う」と明言しているのだ……が、怒れる男には全く通用しない様子。「この悪党が」と叱責されながら、果たしてどちらの感覚が世界のスタンダードなのだろう? と底知れぬ不安をおぼえた。


・じゃ、どうすりゃよかったのか

男のあまりの粗暴さに、このとき私の心には “ある疑惑” が浮かんでいた。それはガイドブックに書かれていた『プラハ旅行で注意すべきこと』の一節。

在チェコ日本大使館のホームページによると、チェコでは “ニセ警察官” ならびに ”ニセ検札官” による犯罪が横行しているとのこと。その手口は “「検査だ」などと言って貴重品を奪う” というもの……それ、なんか今の状況と似てないか?

ニセ検札官に遭遇した場合の対策は、ズバリ「チェコ警察へ電話する」。私はなるべく平静な態度をつくり、「罰金は払う。しかしその前に、あなたの事務所へ行こう」と男に告げた。


すると……



「この野郎、牢屋にブチ込むぞ!!!」と凄まれてしまったァ!!!!!!


「あなたを疑うのは当然だ」と釈明する私に、「お前は俺を怒らせた」というジェスチャーを作りながら、男はどこかへ電話をかけ始めた。「今から警官が来る。もう謝っても許さない」とのこと。ちょっと怖いが、望むところである。

すると3分ほど経過したころ……男は「お前に最後のチャンスをやる」と言い出した。そして「今すぐ1000コルナ支払えば、俺はお前を許す。しかし警察が来たら……罰金は1万コルナだ!」と、にわかには信じられないシステムを説明し始めたのだ。

助けを求めるべきはずの警察が、私に10倍の罰金を課す?? 日本では絶対にありえない話だが、チェコではそうなのだろうか? 分からないし、調べる時間もない。


・で、結局……

わずかな時間の中で、私はいつかテレビで見た「外国の刑務所に入れられた日本人のドキュメンタリー」を思い出していた。言葉の通じない外国で罪に問われると、とんでもなく非道な扱いを受ける可能性もなくはない。こんな時、あなたならどうするか?


私は…………言われるがまま1000コルナ支払った。


一般常識に照らせば「罰金10倍」の可能性は極めて低い。しかし、それは “警察が私の証言を理解してくれた場合” の話だ。この男の人間性を考えれば、警官に虚偽の報告をする可能性もありえる。チェコ語を話せない私は圧倒的に不利だ。

「悪質なアジア人」のレッテルを貼られてしまえば、どんな扱いを受けるか分かったものではない。私はこの一件に関して、無念ながら「6000円で済むならやむなし」という決断を下したのである。

誤解のなきよう改めて説明しておくと、私は「罰金を払いたくなかった」とか「自分は悪くなかった」と言っているのではない。知らなかったとはいえ、悪いのは他国のルールを破った私だ。早合点せず、事前に下調べをするべきであった。

しかしながら、問題は「仮にあの男がニセ検札官だったとしても、結果は同じだっただろう」ということである。

詐欺を十分に警戒していた私は、詐欺かもしれない場面に直面し、マニュアルに従って模範的な対応をした。にも関わらず “模範的な対応” はまるで通用しなかった……要するに、ピンチってのは遭遇した時点で負けが確定している場合もあるってこと。

その後さらに調べたところ、実はプラハの鉄道では “大きめのバッグ” を持ち込むにも『バッグ用の切符』が必要であるなど、独自のルールが続々と判明。旅慣れた気になっていた私の目を覚まさせた。


今となってはある意味「たった6000円であの体験ができてよかった」と感じている今回の出来事。ちょっとでも気を抜くと足元をすくわれかねないのが海外旅行だ。皆さんも事前の下調べはくれぐれも慎重に……そう切に願う次第なのである。

繰り返すが私は今回「罰金に納得がいかない」と言っているわけではないので、くれぐれも誤解なきよう。またチェコがとてもいい国であることも、併せてご理解いただけると幸いだ。

執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.