前編のあらすじ〜 チェコからクロアチア行きの寝台列車に乗った私は同部屋の女子たちにハミゴにされ、ようやく寝かけたところをオマワリに起こされ震え上がるなどした。とかやってたら、うっかり目的地を通過してしまって……!?


……というわけで東ヨーロッパ寝台列車旅・後半である。目的地(ザグレブ)で下車しそびれたことに気づいた私は、ガチ泣きで乗務員に「今すぐ降ろしてくれ」と懇願したが、「無理」と軽くあしらわれてしまった。当たり前である。マジどうすんの?

・私の落ち度は何パーか

乗務員氏は「次の駅で降りるしかねぇんだから、あんま考えすぎんな」と言った。

「たしかに」と思い直した私は、ひとまず再び寝台に横になってみる。Googleマップで確認すると本来の目的地・ザグレブからは、すでに50km以上離れてしまっているようだ。一体どこへ向かっているのだろう?

これが日本なら「普通に電車で戻りゃいい」となるが、メジャーとは言い難い外国、それもビックリするような田舎での出来事である。戻りの電車なんて無かったら、私は一体どうなっちゃうんだろう? 野宿? ヒッチハイク? ロクな未来が見えない。

不安を隠せずにいる私の元に、お茶とクロワッサンが運ばれてきた。朝食付きプランだったのである。クロワッサンを食べながら、あまり生産性のない話ではあるけれど、今回の一件について “私と鉄道会社どちらに非があるのか” を考えてみたい。


・目的地到着の時点で予定時刻を2時間近く過ぎていた
・にも関わらず到着を知らせる車内アナウンスが無かった
・スマホの電波はほぼゼロだった


……うん。この時点ですでに “鉄道会社側の気の利かなさ” は言い逃れできないレベルに達している気がする。とはいえ、それは日本の常識に当てはめた場合の話。少し気が緩んでいたのは事実であり、なんにせよ100%の非は私にあると言わざるを得ないのだった。ぐっ……!



・謎の町オグリン

なお車内を注意深く観察したところ、到着(予定)時刻が書かれた張り紙を発見。

恐るべきことに、この次の駅を出発すると、終点まで約6時間ノンストップで走行するっぽい。私が乗り過ごした区間は約2時間半なので、まだマシな部類だったワケだ。マジか。

のどかさを増す風景。だんだん開き直ってきた。

長距離列車に乗るたびに思うけど、この一瞬の景色の中に生活している人がいるなんて、なんだか信じられない気持ちだよな。

9時10分。ついに電車は止まった。転がるように下車。

運命のイタズラにより私が立ち寄った駅の名は『OGULIN(オグリン)』という。 小椋さんのニックネームみがある。

たまたま近くを歩いていた人に「ザグレブへ行きたい」と伝えたところ、電車の時刻を調べて窓口に連れて行ってくれた。親切すぎて泣く。

幸い2時間後にザグレブ行きの電車が来るとのこと。料金は64.6(約1366円)。よかった!!!

ヒンヤリと静まり返ったオグリン駅舎。もしザグレブ行きの列車がなければ、ここで一夜を過ごすのも悪くなかった気がする……というのはもちろん、ピンチを脱した今だから言えることだが。



・ここに来た証を

さて…………電車が来るまでの2時間、どこかで時間をつぶしたい。本当は付近を散策したいが、体力ゲージ的に、あまりウロウロするのもキツい。

駅前にはのどかな住宅街が広がるばかりで、この先にスタバ的なものがある可能性は極めて低そうである。

1軒だけ、駅前にたたずむ小さな小屋が、どうやら飲食店のようだ。通常時なら絶対に立ち入らない雰囲気だが、他に選択肢もないので、思い切って入店してみることに。


わ〜! どう見ても常連のみが集う店!!


・オグリンのルイーダ

常連さんの視線を浴びて震えていた私だが、お店を1人で切り盛りするお姉さんが「何飲むん?」と話しかけてくれたことで一瞬にして市民権を得た。

お姉さんとビールの種類について言葉を交わしながら、私は「ここルイーダの酒場みたいだなぁ」と思っていた。いや、実際にルイーダの酒場に行ったことはないが、仮にルイーダの酒場が3次元に存在したとして、たぶんこんな雰囲気なのかな? って気がしたのだ。


( ※ ルイーダの酒場 …… ゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズ内に登場するルイーダさんという女性が営む店)

ルイーダさんはいい人で、オグリンへ来たいきさつを話すと、すごく同情してくれた。お客は全員中年男性。ルイーダさん目当てで店へ通っているのかどうかは知らんが、私が中年男性ならルイーダさん目当てで店へ通うと思う。

常連さんたちも「Oh……」という表情で私の話を聞いていたが、さりとて過度な絡み(欧米でありがち)をしてくるわけではなく、イイ感じの距離感で私の存在を認めてくれている様子だ。クロアチアの国民性が少しだけ見えた気がした。

ビールを3杯飲んだころ、なんと! 先ほどの親切な男性が「電車がくるぞ」と呼びに来てくれた。いよいよ泣きそう! さよならオグリン!!

この先の人生で “オグリンへ来る用事” が発生する可能性はゼロだと思う。しかしクロアチア、あるいは近隣諸国を訪れる機会は多分、ある。その時もしも余裕があったら、きっと私は「オグリンへ行ってみよう」と思うだろう。

寝台電車を乗り過ごすのはもう2度とイヤだ。ただ無事に帰れた今となっては「乗り過ごしたおかげで素晴らしい体験ができた」と感じている自分がいる。ワザと乗り過ごすんじゃダメ。この加減が難しい。だからこそオグリンは私にとって、この先ずっと特別な場所になるのだろう。

寝台列車の10倍くらい快適だった特急は、あっという間にザグレブへ到着。首都とは思えないくらい田舎なのだが、オグリンから来ると「街だな〜」って思う。今さらだけど、もう1本くらい電車を遅らせてもよかったかなぁ?

執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.