Appleの忘れ物防止タグ『AirTag』(税込3800円)。ボタンのような小さなBluetooth機器で、ペアとなるスマートフォンから一定距離、離れると持ち主に知らせてくれる便利なガジェットだ。

いまや財布や鍵は忘れても、スマホだけは肌身離さないという人も多いはず。小中学校へのスマホ持ち込み指針も緩和されてきており、近い将来はのび太も忘れ物とは無縁に!

ところでこの仕組み、愛車の盗難対策に使えないだろうか?


・結論からいうと……

最初に結論を述べてしまうと、AirTagは「乗り物の盗難対策には最適化されていない」「ただし盗難後の位置検知には役に立ちそう」という結果だった。

すでによく知っているという方は読み飛ばしていただきたいのだが、AirTagが活躍するのは以下のようなシーンだろう。財布にAirTagを入れていると仮定して……


<AirTagの主な活用シーン>
1. 自宅で財布を見失ったときなどAirTagの位置をiPhoneに表示する
2. 自宅で財布を見失ったときなどAirTagの音を鳴らす
3. 財布を置き忘れるなど、AirTagから一定距離離れるとiPhoneに通知が届く
4. 財布を完全になくしたときなど「紛失モード」で拾った人に連絡を促す
(拾った人がAirTagにスマホをかざすとメッセージを表示。Androidスマホにも対応)
5. 財布を完全になくしたときなど、現在のAirTagの位置をiPhoneに表示する
(周囲のAppleデバイスと匿名でBluetooth通信をして現在地を特定する)


※ここではiPhoneを想定しているが、他のAppleデバイスに読み替え可。たとえばAirTagの位置を表示する「探す」機能はMacなどでも使えるし、通知はApple Watchにも届く。


・車の盗難防止になる?

ここからが本題だが、車やバイク、自転車などの盗難対策にAirTagを使えないだろうか。

最近の窃盗団は、監視カメラや盗難防止装置など気にもせず、チームプレイの早技で車を盗んでいくという。しかも地方都市を移動しながら組織的犯行を繰り返しているというので、筆者は恐怖にふるえていた。

AirTagがあるからといって抑止力にはならないだろうが、誰かが車を動かしたら通知が来る、といった設定なら現場に駆けつけることも可能だ。警察への通報も格段に早くなり、犯人検挙のチャンスや、車を無傷で取り戻せるチャンスも生まれる。

そう思っていろいろと試してみたのだが、次のような課題があることがわかった。


・課題1:「手元から離れたときに通知」は不向き

AirTagのメイン機能ともいえるのが「手元から離れたときに通知」だ。

たとえばAirTagの入った財布をどこかに置き忘れたりすると、iPhoneに通知が来るのですぐにわかる。職場や自宅の敷地内を動き回るときには不要な機能なので、例外となる場所も登録できる。

ところが、置き忘れを検知する「一定距離」が車の場合は微妙。正確な値は不明だが(約9mまたは約10mという解説サイトあり)ショッピングモールの駐車場などでは、自分が店舗に入っただけで通知がくる。

複数の店舗をめぐるときなど、これを繰り返すことになる。そのうち わずらわしくなり、通知をオフにしてしまった。

あくまでタグをつける対象は「自分と一緒に持ち歩くもの」であり、一カ所に留め置いておくようなものは想定されていないことがわかる。


・課題2:リアルタイム追跡は条件が限られる

上述の自動通知は使えないが、自らMacやiPhoneの「探す」機能を起動すれば、いつでもAirTagの現在地を地図上で捕捉できる。こまめに確認することで、想定した位置に無事に車があることはわかる。

ただしAirTagの位置特定の仕組みは、近くのデバイスとのBluetooth通信だ。もっとも精度がよかったのが自分のiPhoneと一緒に移動しているときで、地図上でもコマ送りのようにほぼリアルタイムで移動経路を追うことができた。

ところが付近にAppleデバイスがない環境、たとえば人口の少ない地方都市だったりすると最後に位置情報を捉えたのが数十分前だったりする。

夜間はさらに捕捉が難しくなるだろう。人が密集する都市部ではともかく、「人通りが少ない夜の駐車場」などでは実効性はなさそうだ。

こうした理由から、子どもや高齢者の防犯用タグ、ペットの捜索などにも不向きとされている。リアルタイム追跡は難しいと考えた方がよい。


・課題3:迷惑追跡対策と逆行する

いかにも犯罪的なGPS発信器と違い、一見おしゃれな近未来ガジェットであるAirTag。

「狙った相手の持ち物にこっそり入れて行動を追跡する」「プレゼントなどに仕込んで自宅を特定する」といった使い方ができるため、かねて悪用の危険性が指摘されていた。

海外では「ショッピングモールの駐車場などで、盗む目星をつけた車にこっそりAirTagを装着して自宅まで追跡する」といった使い方もされているそう。防犯どころか犯罪者の役に立ってしまっている。

Appleでも対策に注力しており、身に覚えのないAirTagが近くにある場合に発見する機能が強化されつつある。

現状では「即時通知」はできないものの、一定時間の経過後に見知らぬAirTagの存在を通知する機能のほか、AirTagのサウンドを鳴らして探しやすくしたり、Android 端末でAirTagを検出するアプリを提供したりしている。


これは、盗品からAirTagを捨てたい窃盗犯にとっても好都合だ。

車の場合、簡単にはAirTagを取り外せないようネジ止めなどの加工も可能だと思うが、窃盗犯なら手持ちの工具で簡単に除去できるだろう。

「AirTagの存在を隠せる」ことはストーカー対策に逆行してしまうので、アップデートにも期待できない。


・こんなケースなら有効!

いまのところ、以下のようなケースに限れば車の防犯に使い道がありそうだ。

自宅駐車場など、自分のiPhoneとの通信圏内で「手元から離れたときに通知」は有効。自分は家にいるのに車が離れたとなれば、それは異常事態を意味する。

また、窃盗犯がAirTagの存在に気づかないまま車を移動させた場合、位置情報を確認できる可能性がある。仮に窃盗犯がiPhoneユーザーならBluetooth電波を拾い続けるので、かなり正確に捕捉できることになる。

AirTagを捨てられたり、工場地帯や港湾地区など人気(ひとけ)のないところに保管されてしまえば終わりだが、それでも最終通過地点が確認できれば捜査の手がかりになるのではないだろうか。(現状では過去にさかのぼっての移動経路の閲覧は不可)

欲をいえば自動車ユーザー向けにアップデート希望。たとえば持ち主が車から離れた時点で「駐車モード」が発動し、次に車に戻ってくるまでの動きを検知する……といった使い方ができればいいのだが。

基本的にアップデートは「見知らぬAirTagを見つけやすくする」方向に向かうことが予告&予想されている。不正な追跡を防ぐ仕組みを盛り込むほど、防犯目的には不向きということになり “痛しかゆし” である。

とりあえず筆者は「過剰な期待はせず、車内に入れておく」という結論に落ち着いた。愛車はキャンピングカーであるため、温度変化の少ない収納庫が複数ある。

もし同じことを検討している方は、夏場に車内が高温になることをしっかり考慮していただきたい。携帯電話、パソコン、乾電池など、高温の車内に放置してはいけないものと同様に考えるのが安全だ。


参考リンク:Apple「AirTag」
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
ScreenShot:iPhone 12 Pro Max