朝、テレビをつけるとエレファントカシマシの宮本浩次が出演していた。番組は日本テレビの情報番組『スッキリ』である。たまたまつけたテレビに宮本浩次が映ったことにテンションが上がって、じっくり見たわけだが、出演の尺が思っていたより長い。トークもガッツリやって30分くらい出ていた。

すっかりお茶の間に知られた感じがする。昔からのエレカシファンは多かれ少なかれこう思ってるに違いない。まさか、ミヤジがこうなるとは……

・1度目の最盛期

「ミヤジ」とは宮本浩次の愛称。1988年にデビューしたエレカシは1990年代後半に一度最盛期を迎える。『悲しみの果て』『今宵の月のように』『風に吹かれて』『ガストロンジャー』など、今でもライブのクライマックスで演奏されている名曲を連発するのだ。

私(中澤)が知ったのはこの時で、ガチ中のガチの人からすると「にわか」ではあるのだけれど、もう20年以上前だし、私も10代だったし「昔からのファン」と言わせてくれ。

・当時のポジション

さて置き、当時の空気感を思い出すに、メインストリームにMr.childrenやスピッツがいた上で、ダークホース的なエレカシがいるという感じ。ちょっと癖があるというか。ミスチルやスピッツは音楽に興味のない親世代でも知ってるけど、エレカシはあくまでライブに行くような音楽ファンが「好き」と言っていたイメージである。

似た雰囲気を感じていたのは、ミッシェル・ガン・エレファントとかブランキー・ジェット・シティとかHi-STANDARD。なんか荒々しい。私自身ライブハウスで15年以上活動した今なら、「あれはライブハウスから叩き上げたバンドの雰囲気だったんだな」と分かるが、当時はライブバンドってどういうものかとかも知らなかった

・話しているのを初めて見たら

そんな宮本浩次が話してるのを初めて見たのは『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』。「今宵の月のように」のMVのイメージしかなかった私にとって、頭を掻きむしりドモりながらまくし立てる姿は衝撃的すぎた。見ていて心が不安になったことを覚えている。

誤解を恐れずに言うとキモかった。他のアーティストがやたら社交的に受け答えするだけに宮本浩次のヤバさは際立っていた。「今宵の月のように」の伊達男は、スターでもカリスマでもなくただのキモイ人だったのである。

何回も『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』のトークを見返し、笑いながら私は思ったものだ。ああ、生きていても良いんだなあ……と。

・キモさ

当時、私は自分のキモさに悩んでいた。社交的に話そうと頑張れば頑張るほどキモくなる。クラスではみんな普通に話してるのに、上手くできない自分。そんなキモイ自分がとてつもなく嫌だった。

が、『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』での宮本浩次はそんな私の比ではなかったのである。なんていうかもう……怖い。例えば、ミッシェルとかブランキーの危なカッコ良い怖さともまた違う。ただただキモすぎて怖い

そんな人がテレビに出ていることに勇気が出た。何もしなくともカッコ良い他のアーティストと違い、音楽があるからこそこの人は輝けるのである。いつしか、そんな生き方がカッコ良いと思うようになった。

・ムーブメントの終焉

とは言え、音楽業界の流れは早い。バンドデビューを夢見て23歳で上京する頃には、エレファントカシマシの名前はチャートから消えていた。ミッシェルもブランキーも解散して90年代後半からのロックバンドムーブメントもひと区切り。エレカシはここで一度、新しい時代の波にのまれた。

・ある時見たライブ

それからバンド活動に明け暮れていた私。客0人から始め、やがてレーベルに拾われ、1つの夢だったタワレコの視聴機入りも3回くらい経験した。しかし、全然売れずにバンドは解散。また別のバンドで1から。気づけば10年が経っていた

そんな折、縁があってエレカシのライブを見ることが何度かあった。もはや、私はテレビなど見なくなっており、当時エレカシがどういう状況にあったのかはよく知らない。しかし、ライブの行われる300人くらいのハコに行くと、そこは人でいっぱいだった。

人の頭の隙間から垣間見えるライブハウスのステージ。照明の中に出てきた宮本浩次は、相変わらずキモ怖くて何を言っているのか分からなかった。しかし、なぜだろう? 涙がこぼれるのは。変わらない宮本浩次の姿に、生き様を感じた。

・世の中がミヤジに追いついた

宮本浩次のHPお知らせによると、「スッキリ」の後、27日「あさイチ」、12月8日「news every」、9日「FNS歌謡祭 第2夜」と出演が続いている。音楽好きだけではなくすっかりお茶の間に認識された感じだ。なんか気づけばみんな好きになっていた。

しかも、キャラはとんがったまま、生き方は変えないまま。これは世の中がミヤジに追いついたということだろうか? 50代にして。『スッキリ』や『あさイチ』での宮本浩次さんは、ライブでドラムのトミさんにキレてた時より大分大人しく、借りてきた猫みたいだった。が、挙動不審さは相変わらずである。

カバーアルバム『ROMANCE』の発売を知った時は驚いた。「まさかあの宮本浩次さんが」と。そういうのに乗っかるのはダサイと思っていそうな人物第1位である。しかし、テレビでのたどたどしい態度を見て私は安心した。ミヤジは今も戦っている──と。

参照元:宮本浩次(オフィシャルサイト)
執筆・イラスト:中澤星児

▼カバーアルバム「ROMANCE」収録曲「あなた」Music Video

▼今宵の月のように/エレファントカシマシ