海辺の岩場や防波堤にくっついている ”タニシっぽい貝” は、『クボガイ』に代表される小型の巻貝だ。触ればポロリと落ちるので、取ってきて塩ゆでにするとおいしい。その横には、逆に岩にビッタリくっついて離れない貝もある。あえて力づくで取ろうとしたことはなかったのだが……。

「すごくおいしいんですよ」と教えてくれたのは、以前の記事で漁業法について教えてくれた “漁協の古田さん” である。傘っぽいビジュアルのあの貝はそのまんま『カサガイ』というらしい。

古田さんイチオシのカサガイメニューは意外にも『炊き込みごはん』とのことだ。お願いすると気前よくレシピを教えてくれた。海の男はケチケチしないのである。その足でさっそく海岸へ直行だ。海区によっては採取禁止なので事前に確認しておこうな!

・道具を忘れずに!

沿岸部で育った私には「あのへんに貝があるだろう」ということが感覚で分かるのだが、サッパリ分からないという人は ”子供が水遊びできそうな岩場” を探してみるといいのではないかと思う。

生息ゾーンは漠然と「海水に浸かるか浸からないかの瀬戸際くらい」と思っていたんだけど……

古田さんによれば「棲んでいる場所はカサガイは水面より上、クボガイは水面下です」とのことだ! その境目のことを専門用語で『飛沫帯(ひまつたい)』というらしい。勉強になって仕方ないな!

ちなみにカサガイとは「カサガイ類」の総称で、鳥取だけでも5種類以上が生息しているもよう。ここでは『カサガイ』と総称しているが、厳密には別の種類が混在しているかもしれない。

また『クボガイ』は種名。同じような場所に同じような形の貝がおり、素人に見分けるのは難しそうだが興味のある人は図鑑を見てみよう。古田さんいわく「伊豆半島などではクボガイにも漁業権があるかも」とのことなので海区によっては注意が必要だ。

岩場には様々な種類の貝がおり、中には食用に適さないものもあるので注意が必要である。古田さんによるとカサガイはサザエ等と同じ『巻貝』の一種だそう。巻貝アレルギーのある人は絶対に食べないように。そしてどの食材にも言えることだが、最後はくれぐれも自己責任でお願いしたい。

採取には金属製のヘラなどを用いるとよい。コツは「一発で決める」こと。ボーッとしている状態のカサガイは、岩との間に1ミリほどの隙間を空けている。そこをコン! と突くのである。ミスった瞬間に隙間を閉じてしまい、そうなると貝殻が砕けても離れないからね。

うまくいけばポロリと取れる。


・レシピを大公開

20〜30分で50個ほどのカサガイをゲットした。ウニョウニョと悔しげにうごめくカサガイは “ミニチュア版アワビ” のようである。

さあ、ここで海の男直伝のレシピを大公開だ。とても簡単なのでサッとメモを取るなどしていただければと思う。


・カサガイ:適量

・米:お好みで

・①醤油:適量

・②酒:適量

・③砂糖:適量

(※①、②、③は同量)

・水


材料は以上だ! ザックリしてるぅ〜!


まず①、②、③を合わせたものを約5倍の水で薄め、よく洗ったカサガイとともに弱火で煮る。このとき、不安になる気持ちをおさえて殻のまま煮るのがポイントだ。

水が湯へと変わるころ……あれほどの力でくっついていたカサガイがアラ不思議! ポコン! と殻から身が外れる。

そして5分の1ほどの面積に縮まってしまった “カサガイの身” と ”ダシ汁” とを分ける。

殻は捨てちゃってもよし、アクセサリーか何かに加工してもいいかもね!

研いだ米(今回は3合)に先ほどのダシ汁を入れ、足りないぶんの水を炊飯器の表示まで足す。

そこへカサガイの身も投入する。

あとはスイッチを押すだけだ!


・マズいワケがなかった

炊き上がったご飯からはほのかに磯の香りが漂っている。レシピを聞いた時は正直「醤油多すぎない?」「みりんはいらないの?」などと少しばかり不安になったものだが、ごはんの色合いを見た瞬間「コレはウマいやつ」と確信した。何なら食べずにこの記事を書き上げちゃってもいいくらいだ。

とはいえ食べないというのもアレだから食べてみた。あ〜はいはい。メチャクチャウマいですね。米粒の一つ一つに染み込んだ貝の旨みはメチャ濃厚。うっかりニンジンなんか入れなかったことを神に感謝するレベルである。

そしてこんなにちっちゃなカサガイは、驚くほどの柔らかさの中に不思議と弾力を残している。「俺は天然モノだぞ」と言いたげな、その堂々たる姿からは威厳すら感じられた。海へ行き貝を採ってきた者だけが味わえる絶品。これぞ『漁師メシ』といえるのではないだろうか。

ちなみに何匹かに1匹は砂でも入っていたのか、噛めば「ジャリッ」と音がした。砂抜きを行ってみるなど、今後も改良の余地アリである。慣れない人にはハードルが高いように感じられるかもしれないが、本当にカサガイはどこにでもいるからぜひ海へ行き探してみてほしい!

Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.