
本日、6月10日は「時の記念日」。天智天皇が671年に、「漏刻(ろうこく:水時計)」と「鐘鼓(しょうこ:鐘と太鼓)」によって初めて時を知らせたことから、定められたそうだ。さまざまな記念日があるなかで、もっとも古いもののひとつが、時の記念日である。
さて皆さんは、時間を自由に行き来できたらいいと思ったことはないだろうか? 過ぎ去りし過去の出来事や、まだ見ぬ未来の出来事。時間を旅してそれらを確かめることができるとしたら……。もしくは同じ過去を何度も繰り返すとしたら? そんな時間をループするような小説についてお伝えしたいと思う。
・時間を旅する作品
私(佐藤)は最近、時間を旅するという設定の小説を立て続けに読んだ。何となく1冊読んでみたら、そこからその時間を行き来する設定にハマった。単純なミステリー作品も含めて、1カ月の間に10冊くらい読んだかもしれない。そのなかで、とりわけ印象に残っている作品を紹介したいと思う。
・『七回死んだ男』 西澤康彦(講談社文庫)
読み漁るきっかけになった本ではないのだが、いろいろと調べているうちに、この1冊に行きあたった。
物語の主人公大庭久太郎は、特殊な体質の持ち主である。久太郎は同じ日を9回繰り返すのだ。物語のなかで、この能力が「体質」とされているのには理由があり、久太郎自身は、繰り返される日々がいつ訪れるのかを選べない。
そんな久太郎の祖父の家で、ある日事件が起こる。祖父が殺害されるのだ。ループ(「反復落とし穴」と名付けられている)にハマった久太郎は、祖父の死を阻むために、さまざまな手を講じるのだが……。
・思わず叫びたくなる
書籍の帯にある「ダマされないで読み切れますか?」という問いかけは決して大げさではない。同じ日が繰り返されるうちに頭は混乱してきて、何度もページを遡って、一体何が進行しているのかを確かめる必要に駆られる。そして、最後に待ち構えていた事実に、思わず「ワッ!」と叫びたくなってしまった。
ひとつだけ引っかかるところがあったのだが、それでも納得の結末。物語の展開もさることながら、個性豊かな登場人物たちが繰り広げる人間模様も面白く、駆けるようにして読み進んでしまうはずだ。
・『リライト』 法条遥(早川書房)
立て続けにタイムループものを読むきっかけになったのは、こちらの作品。怒涛の勢いで読破してしまった。
主人公美雪は1992年、14歳の時に転校生の園田保彦と出会う。保彦は300年後の未来から来ていた。そのことは美雪と保彦の間だけの秘密。ある日、学校の旧校舎の崩壊に巻き込まれた2人。美雪は保彦を助けるべく、10年後の未来へと飛び、保彦を救う。
それから10年が経ち、自分が飛んだ未来、2002年の運命の日を迎えたのだが、来るべきはずの14歳の自分が来ない……。過去が改変された可能性を模索する美雪は、さまざまな事態に巻き込まれて行く。
・なぜ4部作にしたのか
本作は『リビジョン』、『リアクト』、『リライブ』の4部作となっている。本作は大変読み応えがあり、読んでいくうちに頭が混乱しそうになりながらも、最後にあらゆる謎がスッキリと解消するところが非常に心地よい。多少納得できないところもあるけど、それが気にならないほど、完結しているのだが……。
これに続く作品が正直残念だ。なくてもいいと思われる設定や、あとから思いついたような意味付けが繰り返され、なぜ1作で終わりにしなかったのかと、疑問を抱いてしまう。まずは本作を読んでみて、あとに続く作品はオマケのような気持ちで読むといいかも。
・『ターン』 北村薫(新潮文庫)
2001年に牧瀬里穂主演で映画化された作品。先の2作品が「動的」な小説とした場合、本作は大変「静的」な印象を受ける。
銅版画家の森真希は、トラックと正面衝突の事故に遭う。ふと目覚めると、彼女は自室で横になっていた。不可解なことに、前日の午後と同じ光景を繰り返していることに気づく。しかも、誰ひとりとしてほかに人を見つけることができない。人だけでなく犬や猫などの動物の姿も見つけることのできない世界。さらに午後2時15分になると、必ず前日に戻ってしまう。
同じ日を繰り返す孤独な世界で150日を過ぎた頃に、電話が鳴り、真希は驚くべき事実を知ることになる。
・夜中にひとりで読みたくない
誰もいないたったひとり切りの世界で、同じ日を繰り返していくことは、恐怖でしかない。現実にそんなことが起こったら、正気を保つのは不可能ではないだろうか。発狂に堪える主人公の姿は、健気というよりも、それ自体が狂気じみているように感じる。
他の作品に比べると、変化に乏しく、決して派手さはない。しかし「時間を繰り返す」という突飛な発想が、より自然に描かれているように感じる。夜中に独りで読んでいると、かなり不安になりそうな作品。
・『リプレイ』 ケン・グリムウッド(訳 杉山高之 新潮文庫)
ループものでは、名作と言われている本作。他の作品と比べて、文字量が多く、読むのに一番時間を要した。
主人公ジェフは1988年10月、心臓発作により43歳で突然死を迎える。死んだはずの自分が生きている、彼が目覚めたのは18歳、大学の時に過ごした寮だった。時は1963年。43年の人生の記憶を携えたまま、18歳として蘇った彼は、それまでとは別の人生を歩み、再び43歳を迎えて死ぬ。そしてまた18歳として蘇り、また死に。再び蘇り、そして死ぬ。
・作家の仕打ち
生と死をひたすら淡々と繰り返していく主人公の姿に、生きるとは何か? という意味を考えさせられる。誰にとっても死は免れえないものだ。
しかしまた生きるとわかっていれば、人は無限の可能性を描くことができるだろうか? 執拗に繰り返される死と生は、半ば狂気を感じ、作家が主人公に仕向ける残酷なまでの繰り返しの仕打ちに、読んでいて疲弊する思いがする。
大作であり、評価も高い作品なのだが、どうしても気になることがある。それは、何度も蘇るたびに、イチイチロマンチックなシーンが織り込まれていることだ。もしも、本当に人が若返ったりしたら、身体を生かしたいと思って、ロマンスに浸るかもしれないけど、正直「もういいよ」と思ってしまった。
作品に込められた大きな問いかけは、読者に深く考えさせるものがある。しかしロマンスの挿入により、度々その遠大なテーマが台無しになっているように感じる。
佐藤英典




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