子どもの頃から慣れ親しんだ童謡を、意外なジャンルにアレンジしたらどうなるのか? 前回『どんぐりころころ』のロックアレンジに挑んでみたのだが、元の曲のメロディも歌詞もほのぼのとした内容であったため、上手くロックと調和させることが難しかった。

それなら元の曲のトーンが比較的暗いものなら、しっくり来るのでは? と考えて、今回は『こがね虫』で挑戦することにした。

曲のイメージに合わせてドゥームメタル・70年代ハードロック・70年代プログレッシブロックの3パターンを、楽曲制作AI「SUNO」を使って生成してみた。ところがアレンジ開始直後に、昨今のSUNOにまつわるひとつの問題に引っかかってしまった……。

・アカペラをアップロードできない

まずは前回の「どんぐりころころ」と同じく、私(佐藤)がアカペラで曲を歌い、それをスマホに録音。そのデータをSUNOに渡してメロディを教える。それを元に曲のスタイルを指定して、アレンジさせるのだが、今回はどういう訳か、何回やっても次の警告文が出てしまった

「This audio matches an existing recording Our system matched this upload to a known recording. If you own the rights, please contact 」

(この音声は既存の録音と一致します システムにより、このアップロードが既知の録音と一致することが確認されました。権利をお持ちの場合は、ご連絡ください。)


この曲はすでに著作権が消滅し「パブリックドメイン」(公共財産)になっている。作詞をした野口雨情(1945年没)も作曲した中山晋平(1952年没)も亡くなっており、その上、死後70年を経過しており、権利を問われることはないはずなのだが……。

なぜこうなるのか? これはあくまでも予測なのだが、SUNOは最近(2026年7月31日)、AIの学習などに著作権で保護された楽曲を無断利用したとして、ドイツの音楽著作権管理団体(日本のJASRACのような組織)から訴えられ、裁判で負けている

その影響でチェックを厳しくしているのではないだろうか? だから、権利の切れた曲をアカペラで歌っても、アップロードを弾かれたのでは? と私は考えた。

これではこがね虫のメロディをSUNOに教えることができない。どうしよう~……、考えた末に思いついたのは、「レコーディング機能」である。

曲のデータをアップロードしなくても直接録音できるので、それで挑んだところ、スムーズにアレンジすることができた。それにしても、この先、毎回録音しないといけないとなると、結構面倒だな……。



・ドゥームメタルでこがね虫

余計な手間がかかったが、その先は無事にアレンジをすることができた。まずは元の曲の歌詞とメロディがちょっと不気味で怖い印象があるので、それをさらに増長する意味で、引きずるような重さと暗さを持つ「ドゥームメタル」でアレンジしてみる。SUNOのスタイルのプロンプト(指示文)は次の通りだ。

「ultra slow doom metal, dark occult sludge, down-tuned fuzzy heavy bass, crushing slow drums, sinister atmospheric, eerie japanese traditional melody, male low growl vocal, haunting, ominous, slow tempo 60bpm」

(超スローなドゥームメタル、ダークでオカルト的なスラッジ、ダウンチューニングされたファジーでヘビーなベース、重厚なスロードラム、不気味な雰囲気、ゾッとするような日本の伝統的なメロディー、男性の低い唸り声、心に残る、不吉な、スローテンポ60bpm)


そうしたところ、予想以上にしっくり来た。


とくに指示をしていないのに、イントロに琴のような弦楽器の音が入っている。おそらく日本語の歌詞の影響で「和」の音が入ったのだろう。それがかなり良い効果を生んでいる。

それから七・五調の歌詞の収まりがよく、ビートと見事に調和している。重苦しいギターリフと低音のボーカル、そして再びソロで登場する琴の音色。私が幼少期に感じた、この曲の持つおどろおどろしさが表現されていて、とても満足のいくアレンジだ。重くてカッコいい!


・ハードロックでこがね虫

ドゥームメタルおよびヘビーメタルの礎を作ったのが「ブラック・サバス」である。先のアレンジが成立するということは、当然ブラックサバス的なアレンジも成り立つはず。ってことで、次は70年代ハードロックのアレンジに挑戦。当然、指示文にはブラックサバスの要素を盛り込んでいる。

「mid-tempo doom metal, heavy 70s hard rock, Black Sabbath style heavy riff, swinging heavy drums, thick distorted bassline, eerie Japanese traditional melody, dark theatrical male vocals, sinister groovy rhythm, 85bpm」

(ミドルテンポのドゥーム・メタル、ヘヴィな70年代ハード・ロック、ブラック・サバス風のヘヴィなリフ、スウィング感のある重厚なドラム、分厚く歪んだベースライン、不気味な和風の旋律、ダークで演劇的な男性ボーカル、邪悪かつグルーヴィーなリズム、85BPM)


「邪悪かつグルーヴィーなリズム」がミソだ。これもまた秀逸な出来栄え。


今回も主旋律をなぞったリフが素晴らしい。さらに2番でボーカルがオクターブのユニゾンを組んでおり、それがまた渋い! いいぞ、こがね虫!

そしてソロでドラムの刻みが変わって、ドライブ感が増している。フロアで横揺れしながら、気怠いビートに身を委ねたくなる。このアレンジもなかなか良い。好きだ。


・プログレッシブでこがね虫

最後に少し方向性を変えて、70年代のプログレッシブロックに挑戦しよう。サウンド的には先の2つとそれほど大きく変わらないだろう。音色としてはキーボードが加わることが予想される。

アレンジはこれまでよりも、より複雑になり、音数が飛躍的に増えるに違いない。さあ、どんなこがね虫が姿をあらわすのか? プロンプトは次の通り。

「70s progressive rock, King Crimson and Yes style, Mellotron synth, complex time signature, aggressive distorted bass, virtuosic organ solo, eerie Japanese traditional melody, dramatic male vocals, dynamic contrast, 90bpm」

(70年代プログレッシブ・ロック(キング・クリムゾンやイエス風)、メロトロン・シンセ、複雑な拍子、攻撃的で歪んだベース、超絶技巧のオルガン・ソロ、不気味な和風の旋律、ドラマチックな男性ボーカル、ダイナミックな強弱の対比、BPM 90)


「メロトロン・シンセ」と「超絶技巧のオルガン・ソロ」が、童謡の旋律にどう作用するか? 出来上がったのがこの曲である。


先の2つよりも、イントロから開けた音がして、宇宙的な広がりを感じさせる。ドゥームメタル・ハードロックのこがね虫が地球の生き物であるとしたら、プログレは宇宙生物の佇まいを感じさせる。

そしてソロの途中で唐突に倍テンポになったと思ったら、間髪入れずにブレイク。そこにのびやかなボーカルが乗っている。これほどまでに複雑な構成でも、元の曲のメロディラインは乱されることなく、自然に鳴り響く。これは元の旋律が完成されたものであるからにほかならない。



・中山晋平のすごさ

3パターンのアレンジを経て、見えてきたのは、元曲の強さだ。どこか暗示的な歌詞もさることながら、1度聞いたら耳から離れないメロディライン。その骨組みの強さと安定感は、どんなアレンジを重ねても、まったくブレることがない。

今さらながら、この曲を作った中山晋平について調べたところ、生涯で1805曲も作っており、その中には『シャボン玉』『肩たたき』『あめふり』など誰にでもなじみ深い童謡も多数含まれている。

その天才的な作曲の才能を評して「日本のフォスター(スティーブン・フォスター)」と呼ばれていたそうだ。それゆえのこの旋律、力強いメロディラインであることにも納得である。

もしも彼が今の時代に存命だったなら、AIをどのように使っただろうか? おそらく私のような凡人には思いつかないような、面白い活用方法を見出したに違いない。いずれにしても、今後もいろいろアレンジを重ねて行きたいと思う。


参考リンク:SUNOヤフーニュース長野県中野市
執筆:佐藤英典
イラスト:Gemini