楽曲制作AIの「SUNO」を使った私(佐藤)の実験は日々続いている。それはまるで、中世の時代に極秘で禁書を紐解いたように、誰に期待されるわけでも、また知られることもなく……。いずれ私は革命を起こす。そう固く誓って、細々と夜な夜な実験は繰り返されているのだった……。

それはさておき、実は先月末に『平家物語』の冒頭をSUNOでアレンジしたところ、これがYouTubeで意外と好評だったため、気を良くして文学シリーズの第2弾に挑んでみた。

今回は宮沢賢治の『雨ニモマケズ』である。誰もが知るこの詩に曲をつけるとどうなるのか? いろいろ試してみた!

・『雨ニモマケズ』を曲に

これは賢治を代表する作品として知られてはいるのだが、実は没後に発見されたメモ書きで、後に詩として広く知られることになった。

この作品を曲にするに当たって、私は最初にどう形にすべきか迷った。平家物語はすんなり「ジャパニーズラップにしたら面白そう」と思いついたのだが、この作品は内容からラップはふさわしくない。かといって、他にふさわしい音楽ジャンルが思い浮かばなかったのである。

そこで、相棒のGeminiに相談したところ、「オルタナティブ・フォーク」はどうか? と提案を受けたのだ。それを聞いてイメージしたのは、中島みゆきさんの楽曲のようなフォークサウンドを基本に持ちつつ、オーケストラを交えてダイナミックに展開するサウンドである。


そこでさっそくそのオルタナティブ・フォーク、中島みゆき風で曲を生成してみた。指定したスタイルはこうだ。

「Epic alternative folk ballad, acoustic guitar, heavy orchestration, deep emotional male vocals, slow-tempo, solemn, profound, cinematic storytelling」

「壮大なオルタナティブ・フォーク・バラード。アコースティック・ギター、重厚なオーケストレーション、深く情感豊かな男性ボーカル。スローテンポで厳粛かつ深みがあり、映画のような物語性を感じさせる楽曲」


物悲しいストリングスのイントロから中盤・終盤に向けて、次第に展開が盛り上がっていく。賢治が見た荒涼とした大地が浮かぶようだ。寂しさを感じさせつつも、自らに生き様を問う、強い決意が垣間見える。

中島みゆきさんの『地上の星』や『ヘッドライト・テールライト』を想起させる、優れた構成である。



この曲から私が着想を得たのは、ケルト音楽である。素朴で温かみのある音色は、この詩に合う気がする。それからフィドル(バイオリン)やホイッスル(縦笛)などの音も合いそうだ。そこで以下のようにスタイルを指定した。


「Celtic folk ballad, melancholy tin whistle, sad fiddle, acoustic guitar, rustic, driving rhythm, ancient wilderness」

「ケルトのフォーク・バラード、哀愁漂うティン・ホイッスル、物悲しいフィドル、アコースティック・ギター、素朴な響き、疾走感のあるリズム、太古の荒野」


どことなく、昭和のアニメの主題歌のようなおもむき。宮崎駿作品が思い浮かぶのは気のせいだろうか。音色と旋律は、詩の世界観をうまく再現できている気がする。


とにかくこの詩には、荒涼とした風景のイメージが伴っている。それはおそらく賢治の暮らした岩手の風景が影響しているのだろう。大正から昭和初期の岩手は、「やませ」による冷害をはじめ、干ばつや洪水などの自然災害にもたびたび見舞われた土地とされている。

そんな荒れた土地で生まれた音楽なら、この詩に合うのではないかと考えて、最後に「マカロニウェスタン風」にも挑んでみた。スタイルはこうだ。


「Cinematic spaghetti western, acoustic guitar, lonesome whistling, melancholic trumpet, gritty, slow-tempo」

「映画的なマカロニ・ウェスタン、アコースティック・ギター、哀愁漂う口笛、物悲しいトランペット、無骨で荒削りな質感、スローテンポ」


昭和の演歌、ムード歌謡みたいになってしまった。マカロニウェスタンでは五音音階(ペンタトニックスケール)的な旋律が用いられることもあり、日本の演歌でも同系統のヨナ抜き音階がよく用いられる。

そのためだろうか、詩の持つわびしさが演歌の音階と妙に符合し、一層演歌感を演出してしまう結果となった。



・詩の本質

これと別にダーク・カントリーミュージックでも試してみたのだが、全然ダメだった。というのも、詩の持つ静かな決意や、自己を見つめるまなざしが音楽によってまったく損なわれてしまって、変に能天気な曲になってしまったのである。

これらの実験を通して、私は『雨ニモマケズ』の持つ、本質的なメッセージの一部を感じとることができた。それは、この詩からは哀愁とも寂しさともとれるネガティブな感情がうかがえる。しかしながら、賢治はそれを引き受け、受け入れ、「そういうものに私はなりたい」と決意しているのだ。

孤独ではあるが弱くない。決意の強さはあるものの、闘争心ではない。荒涼とした大地を見つめ、静かに立ち上がり1歩を踏み出す意志がある。そういう内側のダイナミックなうねりこそが、この詩には合う。したがって、中島みゆきさんの曲調は1番しっくりくるのではないか? という結論に至った。

今までの実験では「この文章に曲をのせるとどうなる?」という単純な興味で曲づくりしていたが、今回の実験では曲をつけることを通して、詩の本質に触れた気がする

今後もいろいろ試して、言葉や音楽の持つ未知なる側面を紐解いてみたいと思う。実験は夜な夜な続く……。


参考リンク:SUNO
執筆:佐藤英典
イラスト:Gemini