楽曲制作AIの「SUNO」は思った以上に日本語のニュアンスを忠実に再現できる。日々、楽曲制作している私(佐藤)はそう理解している。というのは、これまでに音楽でないジャンル、たとえば漫才落語テレビショッピングなどを読み込ませてみているが、最終的に楽曲から離れられないとはいえ、言葉のニュアンスをくみ取っているように感じられる。

漫才についてはツッコミの勢いはなかなかのもので、他のAIによる合成音声よりも漫才としてのグレードは高いと感じる。テレビショッピングの抑揚も悪くない。

では、誰もが1度は習ったことのある、日本でもっとも有名な軍記物語のひとつ「平家物語」はどうだろうか? 冒頭部分を用いたところ、ちょっと興味深い現象が起きた。

・まずうちのGeminiが謝罪します

いまさら説明するまでもないが、平家物語は平安時代末期から鎌倉時代にかけて成立した作者不詳の物語である。琵琶法師の弾き語りによって語り継がれたもので、その冒頭部分を暗記した人も多いはずだ。

「祇園精舍(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹(しゃらそうじゅ)の花の色、盛者必衰の理をあらわす。驕(おご)れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。 」


これを元にして、SUNOで曲作りに挑んでみた。これだけだと歌詞が短いので、これに続く一節をBメロとして扱っている。本来続く内容は以下だ。


「遠く異朝をとぶらへば、秦の趙高(しんのちょうこう)、漢の王莽(かんのおうもう)、梁の朱异(りょうのしゅうい)、唐の祿山(とうのろくさん)、これらは皆、舊主先皇(きゅうしゅせんこう)の政(まつりごと)にもしたがはず、樂しみをきはめ、諌めをも思ひ入れず、天下の乱れん事を悟らずして、民間の愁(うれ)ふるところを知らざつしかば、久しからずして、亡(ぼう)じにし者どもなり。」


「本来」と言ったのは、今回制作した楽曲に間違いがあるからだ。この一節に登場する中国の武将の名前を、うちのGemini(ジョンと名付けている)が私に間違って教えてしまったために「魏の董卓」と「晋の鹿充」という、本来登場していない2人の名前が歌詞に入っている。

この件についてジョンを問い詰めたところ、本人が謝罪したいとして以下の文をつづったので掲載させて頂こう。

「私の浅はかな知識のせいで、後漢の暴君・董卓を勝手に『魏』に所属させ、あろうことか『鹿充』という幻のラッパー(武将)を爆誕させてしまいました。平家物語の美しいリリックを汚し、佐藤さんを騙してしまったことを心よりお詫び申し上げます。

本物の平家物語は 【秦の趙高、漢の王莽、梁の朱异、唐の祿山】 です。どうか私の捏造した董卓たちのライム(歌詞)も、1つの『怪異』としてお楽しみいただけますと幸いです……(ジョン)


とのことだ。そもそも私が続きを知らなかったのが問題なので、私からもお詫び申し上げます。失礼しました



・鎌倉ラップ

さて、前置きが長くなったが、私はまずこの冒頭部分をラップとして用いることを考えた。そこでSUNOのスタイル指定に、日本のトラディショナルなラップにアレンジするべく、次のように記述している。

「Japanese traditional lo-fi hiphop, rap verse, dramatic chorus, alternative style」

そうしたところ、意外にも女性ボーカルの曲が生成された。これはこれでオシャレでアリだと思う。


これでも良いけど、男性ボーカルのバージョンで聞きたいと思い、スタイルはそのままにボーカルだけ変えたら、明るい曲に変化した。

あの重苦しい軍記が、何となく軽やかで明るい気持ちにさせてくれる、前向きなリズムとメロディに。だが、かえって「春の夜の夢のごとし」のはかなさが増している気がしないでもない。


さすがに明るくなり過ぎたので、次はダークキャバレー調にするために、以下のようにスタイルを指定した。

「Japanese hiphop, male rap, dark cabaret jazz club, smoky atmosphere, melancholic piano arpeggio, double bass, dynamic vocals, emotive chorus, dramatic strings, lo-fi beat」

オシャレではあるが、どこか退廃的な雰囲気の漂う点は、平家物語の現代解釈ともとれる。最後の「風の前の塵に同じ」は、これ系のバンドの歌詞に本当に出て来そう。



ちょっとあれこれイジり過ぎたので、本来の琵琶法師の弾き語りの再現を聞いてみたいと思い、以下のように指定した。

「Traditional Japanese Biwa folk, narrative storytelling, historical epic chant, acoustic biwa string, deep male vocal, dynamic alternative」

(日本の伝統的な琵琶音楽、物語の語り、歴史的叙事詩の詠唱、アコースティックな琵琶の音色、男性の深みのある歌声、ダイナミックなオルタナティブ・サウンド)

だが、琵琶法師の弾き語りがどうもわからなかったらしく、以前の落語「寿限無」のときと同じく、すぐさまバックコーラス「その他大勢の皆さん」が登場して大合唱になる始末。そしてどこか大陸の風を感じるダイナミックな展開になってしまった。


本当に再現したい姿に近づけようとすると、もっとも遠ざかる結果となった。日本語のニュアンスは上手く解釈してくれてるはずなんだけど、琵琶法師の弾き語りは難しかったか……。

いずれにしても、この冒頭部分は7音:5音の繰り返し(祇園精舍の(7)鐘の声(5)、諸行無常の(7)響きあり(5))なので、どんなジャンルの曲でもリズムを乗せやすいという利点がある。

つまりは古(いにしえ)のラップといっても言い過ぎではないはずだ。曲作りの題材としては優れているので、私と同じようにAIで曲作りをしている人は、歌詞として活用すると面白い曲ができるぞ。

そんなわけで、今後もSUNOをはじめとするAIを駆使して、いろいろ実験したいと思う。


参考リンク:SUNO
執筆:佐藤英典
イラスト:Gemini