推しと繋がることは人類の夢である。昨年、あのFANTASTIC♢CIRCUSさんがうっかりロケットニュースに出てくれたのち、私は関係者ヅラして楽屋へ挨拶に行くなど、バンギャの出世街道を爆進中だ。みんな、推しと繋がりたかったらライターになろう!!
そんなこんなで今年も取材を受けてもらえることになった。かつてヴィジュアル系に命を救われた田舎の中学生なので、何か力になりたい気持ちでいっぱいである。
とはいえ、実は私「音楽の話が全く分からない」という、わりとライターとして致命的な弱点を抱える身。 “ニューアルバムのコンセプト” とかを喋られたら詰むので、今日は絶対に音楽の話をさせぬよう、うまく先方を誘導しつつインタビューを進めたい!
・再び降臨である
『FANTASTIC♢CIRCUS(ファンタスティック サーカス)』さん(通称:ファンタ)とは …… 90年代後半〜2000年代前半にとても売れたバンド『 FANATIC♢CRISIS(ファナティック クライシス)』が色々あって転生したもの。詳しくは昨年の記事をご覧ください。
メンバーは石月努(いしづき つとむ)さん(Vo)、kazuyaさん(G)、SHUN.さん(G)の3人。
なお、この日は派手髪とおしゃべり担当でおなじみギターのSHUN.さんが都合により急遽欠席。SHUN.さんはとても親しみやすい人で、「困ったらSHUN.さんに話を振ればいい」と考えていたフシがある私は、結果的に顔面蒼白で取材に臨むことになったのだった。
(近い! 怖い! 細い!)
──今日はよろしくお願いします。先日バレンタインでしたね。チョコ何個もらいましたか?
石月「え〜〜〜と…………3万個」
──さすがですね!!!!!!
・カリスマのオーラである
「3億個」ならまだ処理できたが、「3万個」は絶対にありえないとは言い切れない数字であるため、不用意にツッコんでは失礼にあたる可能性がある。ヤバい。パニックで質問が全部飛んでしまった。ここはもう “ニューアルバムのコンセプト” でも聞いて茶を濁すか……?
いやしかし。それでも私は音楽の話をするわけにいかない。これまで音楽雑誌に100万円くらい費やしてきた結果、一度も「音楽の話を読みたい」と思わなかったからだ。そもそも音楽用語を知らないので読んでも意味が分からん。みんなもそうでしょ? 私だけですか?
──あ、え〜と。最近あった面白い話を聞かせてください
kazuya「なんかあったっけ……なんにもないですね。暗い毎日です。仕事以外何もしてないんで」
(元気出して!!!)
石月「あ! 面白かったというか……家の近くに大きな公園があるんですけど。このまえ散歩していたら、そこに野生のセキセイインコがいたんです」
──野生のセキセイインコ?
石月「飛べないんですよ、その子。で、コンクリートの階段にガンガンぶつかってて。ちょっと可哀そうで、 公園の事務局に連れて行ったんです。そしたら『自然のものなので、私たちはタッチできません』って言われてしまって」
──それで、それで?
石月「で、近くの動物病院に行ったら、『インコは診てません』って言われて」
──えー!
石月「どうしようか散々悩んだ挙げ句……野生なんだから、ここに置いて帰るしかない、と心を決めました。でも、それにしても、階段はちょっと、しんどいじゃないですか?」
kazuya「フフフ……」
──ですよね!
石月「てか、放っといたら絶対に死ぬじゃないですか? だから、とりあえず水場に連れて行きました。そしたら草とかを食べていたから、あぁ、本当に野生なんだなぁ、と思って。そこにインコを置いて帰りました」
──どうなったんですかね? 気になりますね
石月「で、後日『あいつどうしてるかな?』なんて思いながら、またその辺を散歩していたんです。 そしたら……パサパサ〜って、インコが飛んで来たんですよ!」
\ 先日助けていただいたインコです /
石月「たぶん、インコの恩返しでしたね。あ、これ面白い話じゃなくて、いい話でした」
──す、すんげぇぇええ!!! すごいじゃないですかァァァアアアア!!!!
なぜか出しゃばる中澤「でも、その時と同じインコか分からなくないですか?」
石月「そこがミソなんですよ。ただ、僕はそう思っている」
・石月努のインコの話ありがてぇ
石月努のインコの話を世に伝えるために、自分はライターになったのかもしれない……急にオタク丸出しで申し訳ないが、このとき私は本気でそう思った。「別の個体ではないか」「都内に野生のセキセイインコがいるのか」とか言い出す奴は凡人。マジ凡人。
やっぱ激動の90年代を生き抜いてきたバンドマンは普通じゃない。神に選ばれている。この人たちの力になりたい気持ちがとめどなく溢れてしまったので、どうすればFANTASTIC♢CIRCUSがもっと売れるか、あえてご本人たちと話し合ってみることにした。
──で、どうすればもっと売れますかね?
kazuya「時代が今あまり、そういう流れじゃないですよね。要は、ヴィジュアル系がカッコイイと思われる時代じゃない」
石月「僕らがインディーズの頃(90年代中期)なんかは、たとえばメタルバンドと対バンとか、違う界隈へアプローチする機会が色々あったんです。でも今って、 SNSくらいしか宣伝する場がないじゃない? 昔を知っている方が気づいてくれることはあるとしても、全然知らない方にアプローチするのはなかなか……ね? そこは、みんなどうしてるんだろう?」
kazuya「がんばって発信しているんですけどね。『やってたんだ』って後から言われたら辛いです。あんなに悲しい言葉はないですよ」
──需要を増やすために、既存のファンにできることは?
kazuya「話題にしてくれることじゃないですか。重要なのが、SNSでハッシュタグをつけてくれること。軽んじられているけど、これ大事です」
石月「あのね、みんなライブに来てくれて、本当にありがたいと思っています。でも、もしみんなが友達を1人ずつ連れてきてくれたら……もっと大きな箱(ライブハウス)でできるようになる。そしたら俺もハッピーだし、みんなもハッピーだよ? ……って、いつも言ってるんですけどね(笑)。なかなか」
──もっと即効性のあるやつ、ないですか?
kazuya「えー? 最近だと、駅とかに誕生日広告を打ってくれるとか? ……あ、それから『お目当てのバンド』をきちんと申告してくれること(※)も重要です」
( ※ 複数のバンドが出演するイベントへ行った際、受付で「お目当てのバンドは?」と訊かれる風習。目当てが1バンドじゃない場合など、つい適当に答えがち)
kazuya「動員が少ないと、本当に2度とイベントに呼ばれなくなりますからね。そこは基礎として大事です。超基礎なんだけど、考えてみてください(笑)。迷ったときは『AバンドとBバンド、どっちがいなくなったら悲しい?』って想像してほしいです」
──なんか泣けますね
石月「そういえば去年、何十年ぶりに従兄弟に会ったんですけど、『ロケットニュースで見た』って言われました。なので、ロケットニュースさんに頑張っていただくことも重要です(笑)」
kazuya「そうそう! 一番効果的なのは『ファン自身が力を持つこと』じゃないですか。影響力でも経済力でも、なんでもいいので力を持って、バンドを支えてください(笑)」
・【衝撃】答え、出てしまう
……はい! ってことで協議の結果『ヴィジュアル系バンドを売るためにファンができること5選』が判明しました。難易度順に並べると以下の通りである。
①SNSでハッシュタグ(バンド名、新曲タイトルなど)をつけて話題にする
②ライブで「お目当てのバンド」を疎かにせずキッパリと答える
③友達を1人ライブに連れて行く
④バンドマンの誕生日に広告を打つ
⑤自分自身が力を持つ
これはヴィジュアル系界隈以外にもほぼ当てはまるハズなので、推し活をしている方はぜひ参考にしてほしい! ……にしても、衝撃的なのは⑤である。言われてみればファン10人が全員ヒカキンだったとして、動画で新譜を紹介すれば、その時点でバンドは売れたも同然かもしれない。
まぁヒカキンは極端だが、とりあえずみんな、家で飼っている猫の画像をSNSに投稿しまくろう。すると少しづつフォロワーが増えるので、同時にバンドに関する投稿もする。みんながそれをすることでバンドは少しずつ、でも確実に売れていくだろう。私がこうやって記事を書いていることも、実は応援の一種だったと考えると感慨深いなぁ。
……さて! なんとなく伏線が回収できたところで、ここからは趣味と仕事を完全に混同させていきたい。冒頭からお伝えしているとおり、私は音楽の話が苦手で、音楽雑誌を買ってもインタビューページをほぼ飛ばしていたクチだ。
しかし唯一、破れるくらい読み込んでいたのが、当時ありがちだった『アーティストに100の質問』的コーナー。バンドマンのパーソナルな情報を収集し、つなぎ合わせ、推理を重ね、 “どんな女の子が好みか” を探ろうとしていたんだと思う。
今日は実家から昔の雑誌を引っ張り出してきたので、FANTASTIC♢CIRCUSさんに当時と同じ質問をし、同じ答えを返してくるか確かめてみたい。まさに(一部のオタクにとって)夢の企画!!
Q:自分を信長・秀吉・家康に例えると?
石月「ま、信長かな僕は」
kazuya「僕、歴史わかんないから。名前は知ってるけど、その人が何をした人なのか……」
【97年の答え】
石月:どっちでもない
kazuya:信長
kazuya「うん、知ったかぶりです。バカなんですよ」
一同「(笑)」
kazuya「可愛いくらいバカってことにしといてください」
Q:好みのタイプのアイドルは?
石月「……アムロちゃん(とんでもない小声で)」
【97年の答え】
石月:テレビ観ないから知らない
kazuya:葉月里緒菜
2人「あ〜!」
kazuya「好きだったぁ〜〜!!」
石月「ちなみにね、当時の僕のアイドルは、南野陽子さん」
kazuya「え。違うでしょ? あなたは “伝説の少女になりたい いつも夢見てた” でしょ?」
(何言ってるか分かんないけど永遠に見てられる)
石月「ナンノちゃんの後に観月ありさ。すごく良い映画があったんですよ。『7月7日、晴れ』っていうね。10回ぐらい観て、そのうちの何回かは」
kazuya「連れて行かれましたね(笑)」
石月「アルマゲドンも一緒に行って泣いたよね」
kazuya「アルマゲドンで僕、映画を観に行くことをやめたんですよ。 感動して泣くのを我慢して外に出たら、おっさんが泣いてて。『こんなふうになるのヤダ!』って思ったのを覚えてます。長野の映画館」
石月「なんか……けっこう仲よかったんだよね(笑)」
──いや、かなり仲いいですよ。そんなお2人が今でも一緒にいるって、胸熱ですね!
石月「そうですよね。いろんな時期がありましたけど、一回転して……ね」
──ありがてぇ、ありがてぇ
Q:あなたの座右の銘は?
石月「これ1番難しいクイズですね。分からないです」
【2001年の答え】
石月:犬も歩け
一同「(爆笑)」
kazuya「ふざけとる上にスベっとる(笑)。何十年かの時を超えて」
石月「今ウケてるからいいでしょ。玉手箱ですよ」
【2001年の答え】
kazuya:気合い
kazuya「つらい!!!!! ヤンキーが抜けてない!! 座右の銘『気合い』って、俺……」
石月「しかも『合』じゃなくて『愛』ね(笑)」
kazuya「かわいそう俺……恥ずかしい。人生恥ずかしい」
──これ20代ですもんね
石月「このころはね、音楽の話は真面目にやるんだけど、それ以外はもう、ほぼふざけてました。逆にまともに受け取られると、ちょっと困っちゃったりするんですけど(笑)」
──当時は雑誌くらいしか情報なかったですから、けっこう真面目に受け止めてました
kazuya「 “気合いの人” だと思ってたんですか?」
──思ってたと思います
石月「そうか。座右の銘『気合い』か……」
kazuya「謝罪行脚したい。みなさん、ごめんなさい」
石月「昔、アンケートっていっぱいあったもんね」
kazuya「うんうん」
石月「だから、ネタを作んなきゃいけない。いつも同じこと書いててもさ、皆さんを飽きさせちゃうじゃない?」
──これまで1番多かった質問って何ですか?
kazuya「 “あなたのマイブーム” ですね。そんなに無いよって話なんです。あれは今だにキツい。昔からの癖で、普段から答えを作ったりしてます。当時は遊ぶのもメンバーとばっかりでしたし、何も知らなかったんですよね」
──他のバンドさんとも、あまり交流がなかったっていう話でしたよね
kazuya「昔はさ、楽屋入る時なんか、いわされんように、気合い入れていくわけですよ。『あ”ぁ!?』みたいな感じで。最悪ケンカしちゃえばいい、みたいな。今はさ…………全然違う(遠い目)」
──気合いの人だったんですねぇ
・音楽苦手民に朗報
そんなメンバー間の仲がいいことで知られるFANTASTIC♢CIRCUSさんは本日2月28日、約1年ぶりのニューアルバム『TENSEISM BEST SINGLES【2001-2004】』を発売。 FANATIC♢CRISIS後期のシングル曲を集めたリテイクベスト盤となっている。
言うまでもなく良いアルバムなのだが、何度もお伝えするとおり、私はアルバムの感想を伝えるのが何より苦手な人間。そこでご本人たちに “今回のアルバムの正しい感想” を伺ったところ……「音が整理されていますね」が最適解であるとの回答をいただいたぞ! なんでも答えてくれるな、この人たちは。
ってことなので、これを見た読者は全員「音が整理されている」等の感想に「# FANTASTIC♢CIRCUS」をつけ、すみやかに投稿なりポストなりするように。くれぐれもハッシュタグだけは忘れるな!
それから3月10日(日)にZepp Shinjukuでワンマンライブ、他にもインストアイベントやら色々予定されているが、春以降の活動は今のところ未定。この機会を逃すと一生後悔する可能性もあるので、詳しくはバンドの公式サイトをチェックだ。
あと、石月さんはソロ活動、kazuyaさんとSHUN.さんはTHE MICRO HEAD 4N’Sというバンドでも活躍されているからそっちもヨロシクな! 私……いま最高にバンドに貢献してません!?
参考リンク:FANTASTIC♢CIRCUS
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
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▼取材中、何かの気まぐれでカメラに興味を持つ石月さん
▼これは「なぜか出しゃばる中澤を亀沢が撮影する様子を石月努が撮影した写真」という、情報量が多すぎるうえ価値が分かりにくい1枚である。音楽史を語るうえで貴重な資料であることは間違いない
▼今回の取材テープをアプリで文字に起こした状態。冒頭で「推しと繋がりたかったらライターになれ」とお伝えしたが、実はけっこう大変な仕事なので、よく考えてから目指してくれよな