「10年ひと昔」というが、時は音もなく流れ、気が付けば多くの物事を過去へと押し流していく。10年も経てば新しかったもののすべてが古くなり、今の流行りでさえも「思い出」の一部と化していく。鮮やかな色彩は輝きを失い、遠くを見るような眼でその存在が認められるのみ。

そんな時間の理(ことわり)を覆すバンドがいる、「人間椅子」だ。彼らは活動歴30年を迎えて、ますます衰えという言葉から遠ざかっている。30年もの長きにわたって活動を続け、なお勢いを増すその理由が知りたい。ということで、今回は率直に30年の活動について質問をぶつけてみた。

・自然な選択


佐藤 「今日もよろしくお願いします。今まで何度もインタビューはさせて頂いてますが、今日は率直、いや愚直な質問をぶつけさせてください。なぜ30年も続けることができたんでしょうか? 活動を休止したりやめることは考えなかったのでしょうか?」

和嶋慎治(ギターボーカル) 「何かのタイミングがあるとしたら、10年が1つの節目なんですよね。10年を超えると、物事って割と続けられる気がするんですよね」

佐藤 「では、活動を始めてから10年というところで、今に至る20年30年は想像できてましたか?」

和嶋 「僕個人としては活動を始めた頃に、30歳を超えてバンドをやっていることをイメージできなかったんですよね。それで30過ぎた時に『あ、バンドやってるな』ってことを感じて、このままずっとやっていくのかなってのを自分なりに感じましたね」



佐藤 「その時に、バンドをやめるみたいな考えはありましたか?」

和嶋 「30代って、まあみんなそうだと思うけど、仕事でも責任ある立場になったり、家庭を持つようになったりするタイミングだと思うんだけど、自分たちは『バンドをやる』って選択をしたので、この道で行くって決めて後戻りするつもりはなかったですよね」

佐藤 「いわゆる社会生活とバンド生活を天秤にかけて、『バンドをやめる』っていう選択は……」

和嶋 「なかった。全然なかったですね。『人間椅子』ってバンドがほかのバンドとは違うって自負がありましたし、自分たちの音楽に自信があったんですよね。当時売れてはいなかったけど、とにかく続けられるって自信は何かありましたよね。厳しくなったのは、20周年くらいかな? 30年の間で1番売れてなかった頃だから」

佐藤 「では、最初の10年は自然に通過して、自然とバンドを続ける選択をした訳ですね」

和嶋 「そう、自然な選択ですね」

佐藤 「20周年の時も、バンド活動を継続することについて、迷いは感じましたか?」

和嶋 「先ほども言いましたけど、10年よりも20年の方がより苦しくなってますからね。でも、『ここでやめてなるものか!』と歯を食いしばる感じになってた気がしますね(笑)


・やめる選択肢はなかった


佐藤 「鈴木さんは10年経った頃、活動を続けることに迷いってありましたか?」

鈴木研一(ベースボーカル) 「結構最初の方から、売れなくなったら一生懸命バイトして、バンドを続けるってつもりでやってましたね。ここ3~4年は他に仕事をせずに安定して活動を出来てますけど、この先、また売れなくなったらまたバイトするし。日本に生まれてよかったですよ、東京ならいろんなバイトがあるから(笑)」

佐藤 「バイトをしてでも、バンドを続けるって気持ちがあったんですね」

鈴木 「そうですね。和嶋くんもそうだと思うけど、金がないのが苦痛じゃないというか、金がないなりの生活をすることがずっと何十年も続いていたから。米と塩だけあればいいって生活にも、今だって戻れるしね。生活にそういう起伏があっても、バンドをやめるって選択肢はなかったですね」



佐藤 「では、この先もやめるってことはお考えではないと」

鈴木 「この先は~……。さすがに大病を患ったら、もうやめる」

一同笑い (※ 鈴木氏は2019年9月、尿管結石を患ったばかり)

鈴木 「もうやめて、終活して、好きなことする」

佐藤 「体力の続く限りやるってことですね(笑)。活動を続けるのに、金のあるなしは関係ないと」

鈴木 「そうですね」


・自分の人生はバンドをやり続ける


佐藤 「ノブさんは、人間椅子在籍15年。1988年(当時の在籍バンド「GEN」)からバンド活動を続けてきて、10年、20年と節目の度にやめようみたいに考えたことはないんですか?」

ナカジマノブ(ドラムボーカル) 「一度もバンド活動をやめるなんて、考えたこともないですね。頭をよぎったことすらない。俺も30年活動をしてきて、経済的にゆとりがあったことなんかほとんどなくて、多分、今が一番、いろんな意味で充実してると思うんですよね。だから、若い頃は工事現場で働いたりもしてるしね。

お金のことも、まあ活動に影響あるとは思うんだけど、和嶋くんも研ちゃん(鈴木)も言ってたけど、結局バンドが好きなんですよね。音楽をやる人の呼び方っていろいろあるでしょ? 『ミュージシャン』とか『アーティスト』とかあるけど、僕は自分のことを『バンドマン』だと思っていて、それくらいバンドが好きなんですよ。だから、『音楽で食っていく』ってことよりも『自分の人生はバンドをやり続ける』と捉えているんですよね



佐藤 「それはもう経済的な理由に、バンド活動が左右されていないことになりますね」

ナカジマ 「そうかもしれないですね。バンドが好きでバンドでドラムを叩くのが好きですね。それさえ続いてたら、何も苦じゃない。だから、バンドをやめる選択は元々ないですよね」

佐藤 「この先も体力が続く限りですか?」

ナカジマ 「う~ん、体力が続かなくなってもやりたいですよね(笑)」


・生きている実感


佐藤 「楽曲の創作についてもお尋ねしたいんですが、創作意欲はデビュー当時と比べて変化したと感じていますか? それとも変わらないですか?」

和嶋 「それは変わらないですね。多少の波はありますよ。ありますけど、自分が1番好きなのは創作すること。『生きている実感』を得られるのが、創作することなんですよね。だから、それがなくなったら、生きてる甲斐がなくなる感じがするなあ」

佐藤 「和嶋さんが生きてる所以(ゆえん)が、人間椅子での曲を作ることにあると」

和嶋 「そういうことになりますよね」

佐藤 「もし仮にですが、アイディアが枯渇したとかで、楽曲を作れなくなったとしたら?」

和嶋 「作れなくなったら、ダメになるでしょうねえ。僕は怠け者だから。でも、作れなくなるとは思っていないなあ。というか作れると思ってるから、作れるんですよ。作れると思っている限り、作品を作り続けます」


佐藤 「この先もまだまだ作品を聞くことができるのは、こちらとしても嬉しいです。アルバム制作についてもう1つ伺いたいんですが、毎回作品ごとに持てるすべてを出し切ってると思います。いつもベストを尽くされていると思うんですが、次の作品を作る時に、またゼロからのモチベーションで挑むんですか?」

和嶋 「毎回出し切ってますよ。でもね、1つの作品が出来上がったその瞬間から、自分のなかで批判精神が働くんですよね。鈴木くんとも時々そんな話をしますけど、すべてを出し切ったのは確かなんですけど、出来た作品を聞き直してみた時に『何か足りない』と感じるところがあるんですよね。

毎回、作ったものに100点って絶対につけられないんだよね。がんばって90点行ったけど、足りない10点あるなって。アルバム出来たその瞬間から『次は100点とれるようにがんばろう』って思ってるんですよね」

佐藤 「でも、アルバム制作を始められる時は100点を目指している」

和嶋 「そう。だからすごく苦しいんですけど。創作は生きてる充実感を得ることが出来るけど、挑み続けているから苦しいですよね。先ほど『20周年の頃は苦しかった』と言いましたが、あの頃があって本当によかったと思ってるんですよ。

『アーティスト』として、あの頃にアートの “核” みたいなものを、自分のなかでつかんだんですよ。うまく言葉で表現できないんですけど。その確信があるから、作品を作れなくなるとは全然思わなくなったんですよね。苦しい頃もあってこそ、今の作品があると思っています。だから、30年やってきて良かったと思っていますね」

佐藤 「売れない時代があったとしても、その時間は糧になっているんですね」

和嶋 「そうですね。無駄ではなかったと思っています」


・瀬戸際でいいモノが作れる

佐藤 「鈴木さんはこの30年で創作に変化を感じますか?」

鈴木 「自分の場合は、和嶋くんが言うような感じとは少し違うと思うんですけど、いいリフが浮かぶうちはまだ作れると思ってますね。幸いハードロックはいいリフさえ浮かべば、いい曲に発展する可能性を秘めているので、そこにいいメロディがのせられるうちは、まだまだやっていけると思ってますよ」

佐藤 「鈴木さんは、アルバム制作の前段階で、毎回500個くらいリフを作られるじゃないですか。それはいつも500を目指して作るんですか?」

鈴木 「いや、500個全部を使う訳ではなくて、ほとんどボツになってしまいますけど、500個くらい作っておけばアルバム5曲分にはなるかなと思ってます。そのリフを元に、パズルを組み立てるみたいに曲に組み上げていくんですけど、500個のリフを聞き直すのも時間かかるんだよね。

イマイチだなあと思ったリフを、翌日に聞くとさらにイマイチだなって思ったりしてね。イマイチイマイチ……を繰り返していると、砂の中に “キレイな石” を発見するみたいに、キラリと光るものを見つけたりするんだよね


佐藤 「作品が出来上がった後に、作ったリフはどうするんですか? また次の作品のために保管するんでしょうか?」

鈴木 「録音したものは全部消しますね

佐藤 「え!? もったいなくないですか? せっかく作ったのに」

鈴木 「だって、次のレコーディングの時に『リフができない!』って苦しかったりしたら、前のアルバム用に作ったリフを聞いちゃうから。出来損ないを引っ張り出してそれをあてにするのが嫌なので、レコーディングが終わったら消します」

佐藤 「でも、もったいないですよね」

鈴木 「前の作品の時に使わなかったってことは、イマイチだったってことでしょ。だから消した方がいいんですよ(笑)」

和嶋 「文章ならまだ再利用出来るかもしれないけど『音』はねえ。言葉じゃないものは、過去のものを掘り出して使うって良くないと思うんですよ。レコーディングの期間中に、創作に没頭していると、イケてる瞬間ってあるんです。いわゆる『ゾーンに入る(極度の集中状態のことを指す)』みたいなタイミングが。その時に生まれたモノと、そうじゃない時に生まれたモノって、輝き方がまったく違うんだよねえ。だから残してもしょうがないんですよ。

作品を制作している期間中、その集中している時のゾーン状態って、作り出すモノにちゃんとつながってるんですよ。次の作品の時に前のモノを持ち出しても、やっぱりつながってない。しっくり来ないね」

鈴木 「レコーディング期間は4カ月あるんだけど、4カ月毎日やってても、スッといいモノは生まれない。時間にゆとりがある時に、じっくり考えて作ってみても、次の日に聞くとイマイチだったりね。最後の何日間に、偶然集中できる時があってね、いきなりその集中期間に入っていけるかっていうと、そうでもない。その前に無駄な時間を過ごすから、最後の方の集中期間に入れるみたいなんだよねえ。その瀬戸際でいいモノが作れる」

和嶋 「そうだよね、その前段階の創作の苦しさみたいなものを通らないと、集中できる期間にたどり着けない」


・小さな変化


佐藤 「ノブさんも創作の意欲について感じることはありますか?」

ナカジマ 「創作については和嶋くん・研ちゃんよりも少ないんですけど、この30年、少なくとも人間椅子に入ってから、少しずつ自分でステップアップしている実感はありますよ。メンバーになってから、初めてリフからの曲作りを経験したし。機材面も最初の頃より充実して来てるし。そんなもの含めて、創作に対する面白味が増えている感じですかね」

佐藤 「iPadの『GaregeBand(楽曲創作アプリ)』で作ってるって言ってましたね」

ナカジマ 「そうそう、iPadにつなぐインターフェイスを買ってみたり、エフェクターを借りてみたりね。レコーディング期間はギターも弾くんですけど、その期間中はゾーンってほどではないけど、集中してるからちょっとずつギターが上達するんですよ」

佐藤 「期間中にご自分のなかで、いろいろ変化を感じられるんですね」

ナカジマ 「小さな変化かもしれないけど、自分では感じてますよ。作ることも楽しいですね。その楽しみがある限り、創作意欲が衰える気がしないですね」

佐藤 「作品を経るごとに、できることが増えるって楽しいですね」

ナカジマ 「次は何をしてやろうかって思っちゃうよね(笑)」


・客観的に自分を見ること


佐藤 「長く活動してると、いろいろな声が耳に入ることがあると思います。作品ごとに肯定的な意見や否定的な意見。時には『昔の方が良かった』なんて言われることもあるんじゃないでしょうか?

和嶋 「そりゃありますよ。ところで、いわゆる『迷走』することって、誰にでも可能性のあることだと思うんですけど、それって自分の思い入れがあまりにも強いがゆえ、生じると思うんですよね。結局何をやりたいのかわかんなくなっちゃって。そういう時に有難いのは、『パブリックイメージ(一般に認識されているイメージ)』なんだよね。

周りが自分らに何を期待しているのか、求めているのか。一旦自分から離れて、客観的に自分を見てみると『ああ、自分が求められていたのは、これだったのか』って発見できると思うんですよね。それを認めると、迷いがなくなると思うんですよ。

例としていうなら、長年やってる定食屋さんが突然味を変えたりすると、足しげく通ってた常連さんとか、口コミで評判を聞いた新規のお客さんとか、みんなガッカリするんですよ。人が求めているものを分かっていれば、そんな悲劇は起きにくいよね」

佐藤 「外から聞こえる声は、自分たちの客観的な評価ってことですよね」

和嶋 「意見の内容を問わず、求めている声には耳を貸すべきでしょうね。長年やるには、良い意味で自分を殺すべきかなと思います。自分の思い入れだけで突っ走るなら、趣味で良いと思います。プロである以上は、客観的に自分を見ることも大事ですよね。求められているイメージを自ら壊さないようにして、ちょっとずつ冒険していくっていうのが良いと思います」


佐藤 「30周年記念のベスト盤『人間椅子名作選』のリリースと共に国内でのツアーを行い、来年はいよいよ海外で3日間のツアーが控えています。海外初公演な訳ですが、意気込みのほどは?」

和嶋 「実はですね、僕たち海外に行くのが初めてなんですよ。だから、新人バンドの気持ちで行ってきたいと思います。53~54歳の新人です。がんばって参ります」

佐藤 「海外のオーディエンスを震え上がらせてきてください。31年目のご活躍にも期待してます。本日はありがとうございました!」


なお、2019年12月13日、東京・中野サンプラザで行われる『バンド生活三十年~人間椅子三十周年記念ワンマンツアー』のファイナルの様子は、人間椅子の公式YouTubeチャンネルで、同日19時から生配信する予定だ。当日会場に足を運べないという人は、生配信でライブ参加できるぞ~!!


■「人間椅子名作選 三十周年記念ベスト盤」2019年12月11日発売

初回限定盤(2CD+30周年記念手拭い)4545円(税別)
通常盤(2CD)3545円(税別)

取材協力:人間椅子
Report:佐藤英典

▼海外視聴者からのコメント多数。再生回数320万回を突破した『無情のスキャット』