残念ながら、私(佐藤)の上司は鈍感である。人のささいな変化に気付かない。編集長のGO羽鳥も、ボスのYoshioも私のメガネにレンズが入っていないことに全く気付かなかった

これはもしかしたら、何をやっても気づかないのではないか? そう考えた私は、思い切って付けヒゲをつけて出社してみることにした。「テキサスの暴れん坊」の異名を持つ、元プロレスラーのスタン・ハンセン風の付けヒゲで出社に挑んだのである。

・ハンセン × ホーガン

熱心なプロレスファンの皆さんのために、ヒゲについてきちんと説明した方が良いだろう。ヒゲの形状としては、ハンセンよりもむしろ “超人” ハルク・ホーガンに近いのではないだろうか。しかしながら、色がホーガンのように金髪(もしくは白髪)ではなく、黒色であるために、今回は「ハンセンみたい」と表現したことを、ここにお伝えしておきたい。


・初めての付けヒゲ

ここからが本題だ。私は最近ヒゲを伸ばすようにしている。とくに理由はないが、季節の変わり目にヒゲを伸ばしたくなる性分であるために、「なぜ?」と言われても困る。そういう性分であるとご理解頂きたい。


普段からずっとツルツルに剃っていれば、突然付けヒゲをつけても違和感アリアリなのだが、ヒゲを伸ばしているからこそ、付けヒゲっが有効であると思い立った。今回準備したのは、100パーセント人毛のバングラディシュ産の付けヒゲ。それにメイクアップ用の接着剤である。


私のように口ヒゲがまばらで、キレイに生え揃わない人間にとって、立派な口ヒゲは憧れである。ビシッと毛が揃っていると、それだけで何だか威厳があるようにさえ見えてしまう。


・失敗のしようがないのに……

これをどうやって付けるかというと、メイク用接着剤をヒゲの裏面のメッシュ部分にまんべんなく塗り、30秒程度放置した後に、口元に貼り付けるのである。


何も難しいことはない。むしろ、「裏面に接着剤を塗る」、それだけなのに失敗するヤツなんかいるのか? というレベルだ。付けヒゲに失敗するヤツがいたら、そいつの顔を見てみたいものである。


ということで、さっそく接着剤をヒゲに丁寧に塗布してみたところ……。


失敗した……


………さっき確認したのに………


………裏表を間違えて接着剤を塗ってしまったのだ………



付けヒゲに失敗したヤツの顔をご覧ください。




もうヤダ。こんな簡単なこと失敗する? する訳ないよね。それをしちゃうんだよ。もう~。なんでこんな単純なこと失敗するの? 俺。バカじゃないの! だから、いつまで経ってもうだつが上がらないんだよ!! 45歳にもなって付けヒゲもつけらないなんて、どんな人生歩んできたんだよ! バカバカ! 俺のバカ!!


今すぐおうちに帰りたい! そう思ったけど、一応つけてみよう。


めちゃくちゃ接着剤が表側についてしまってる。なんでこうなったのか……。


でも、良く見ると結構似合ってない? 馴染んでるっていうか。ハンセンっぽいと言えばハンセンっぽいし。たぶん、付けヒゲしてることも、ヒゲに接着剤がついていることさえも、羽鳥は気づかないんじゃないか? きっと気づかない! 絶対気づかない! これはイケる!! 行くで! やる気出てきたッ!!


ウィーーーッ!!



・緊張の瞬間

この日は午前中は取材に出ていたので、編集部に到着したのは、13時半を過ぎていた。もちろん、先ほど付けヒゲに手こずったのも、この時間になった要因の1つである。編集部のある建物のエレベーターに乗り……。


4階まで上がる。あの扉の向こうにみんなが、そしてGO羽鳥がいる。バレてはいけない。付けヒゲしていることを。


扉を開くといつもの景色。みんなパソコンに向かっていて、こちらを見る者はいない。私が入ってきたことには気づいているものの、みんな目線はパソコンの画面に注がれている。


私が私の席まで無事にたどり着き、着席してしまえば、私の勝ちだ。なぜなら、羽鳥の席とは背中合わせ。椅子に座ってしまえば、彼から私の姿は見えなくなる。したがって、私が動かない限り付けヒゲに気付く可能性はほぼゼロだ。


ところが!


ヤツは見てる!


!!!!!!!! めっちゃ見てるーーー !!!!!!!!


普段は無関心なのに、なぜ今日に限って見てんだよ! いや、待て。慌てるな。たぶん気づいてない。なにしろ鈍感だから、多少ヒゲが長くなったところで、全然気づかないはずだ。そういう男だ、GO羽鳥は。きっと私なんかに1ミリも関心を払っていないはず。もしかしたら、全裸で出勤して来ても気づかないはず。そうだ、そういう男が羽鳥だ。焦る必要は全然ない……。


できるだけ自然な言い方で「おーす!」と挨拶したのだが、羽鳥および原田の様子はおかしかった。やはりメチャクチャこっちを見ている。


そして羽鳥は、普段私などに見向きもしないのに振り返り、「何やってんの?」と言ったのだ。


なぜわかった! 鈍感なはずなのに、どうしてわかってしまったんだ! これはきっと、私が接着剤を付けるのに失敗したからに違いない。あのミスさえなければ、きっと1日が終わるまで私の付けヒゲに気付かなかったというのに。チキショー!!!!

これに懲りずに、私は再び仕掛けていきたい。羽鳥が鈍感であることを証明するその日までッ!


Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24