原宿でなにやら興味深い試みが始まっている。タピオカ専用のゴミ箱が設置されたのだ。設置したのはタピオカ専門店の「謝謝珍味」と、街のゴミ拾いを行っている「グリーンバード」というNPO法人。
しかも、専用ゴミ箱や併設されたコワーキングスペースの利用が、NPO法人への寄付につながる仕組みになっているそう。本件について、筆者が個人的に不便だと感じている日本の都市の「あること」に通じるものがあった。そこで、タピオカ専用ゴミ箱の紹介ついでに一つ書いてみたいと思う。
・明治神宮前
まずはタピオカ専用ゴミ箱について。設置場所は、原宿の明治通りと表参道の交差点に面した場所にある「subaCO」というコミュニティスペース内。明治神宮前駅の5出口……ラフォーレ原宿などに一番近い出口……から表参道を渡ったところというのが一番わかりやすいだろうか。
「グリーンバード」によると、街のゴミ拾い活動のさなかにタピオカ飲料に関連したゴミを拾う機会が急激に増えたそうだ。また、原宿周辺に設置されている公共のゴミ箱の投入口を、大きいサイズのタピオカ容器が塞いでしまい、周辺にゴミがあふれてしまっていることも多いとか。
その状況を解決せんと、このたびタピオカ専用のゴミ箱を作成したのだそう。冒頭でも触れたが、回収した容器1つにつき1円が彼らの活動に寄付されるようになっているそうだ。
自発的に街のゴミを掃除してくれるというありがたすぎる活動に、金銭的なターンバックが発生するシステムとは素晴らしい。かなり微々たる額なのでは……とも思うが、それでもお金はお金である。
なお、設置期間は2019年12月26日までと比較的長い。毎日13時~18時までの営業で、火曜日は休みだ。よく原宿でタピオカを飲む方は、利用してみてはいかがだろう。コワーキングスペースも併設されていて中々に便利だ。筆者が日曜に訪れたときにはがら空きで、穴場じみていたぞ。
・海外の場合
……と、一通りタピオカ専用ゴミ箱について紹介させていただいたわけだが、この情報を知ったとき、真っ先に思ったことがある。
そもそも日本の都市はゴミ箱が少なすぎる
真っ先に思ったというより、社会人として日本で生活するようになってからずっと思っていた……というのが正しいかもしれない。およそ6年前に帰国するまで、主にアメリカ西海岸を中心に活動していた筆者。
例えば、帰国直前に住んでいたのはサンフランシスコなのだが、あの街はそれこそ1ブロック毎くらいに公共のゴミ箱がある。その前に住んでいたロサンゼルスも、サンフランシスコほどではないが、結構な頻度でゴミ箱が設置されていた。
アメリカ以外では、ドイツのフランクフルトを拠点に、スカンジナビア半島あたりまで何度か赴いたことがあるが……差はあれど適当に歩いていれば大きい交差点の角や、ショッピング街などの栄えた通りに出ればちゃんと使えるゴミ箱が設置されているものだ。
・ゴミ箱だけがやたら不便
それが日本だとどうだろう。ひとたびゴミを発生させた場合、地獄が凍りつくまでか、あるいは帰宅するまでそのゴミと運命を共にすることになる。時おり公共のゴミ箱を見つけられることもあるが、都内の場合はだいたいあふれかえっていて、追加でゴミを受け入れる余地など無いのがデフォルト。
今では最初から公共のゴミ箱に期待していないので、鞄の中にゴミを入れるためのビニール袋を常備している。ということで、筆者個人としては既に解決している。しかし、グローバルな大都市としてはいかがなものだろう。
言うまでも無いことだが、東京や京都、大阪などは世界的にも重要な都市である。海外で生活していただけの日本人が不思議に思うレベルなのだから、海外から来訪した外国人からすればもはや意味不明なレベルだと思う。
ためしに「Japan public garbage bin(日本 公共 ゴミ箱)」やら「Japan trash cans(日本 ゴミ箱)」でググってみると、笑えるレベルでゴミ箱が無いことに言及する英語のウェブサイトがヒットしまくる。
外国人にとって、日本のゴミ箱少ない問題は注目に値するようだ。日本の都市部の公共のサービスは、諸外国と比べてけっこう質が高い。しかし、なぜか公共のゴミ箱については驚くべきレベルで不便。そのギャップが、ゴミ箱が少ない不便さをより強く意識させるのかもしれない。
・ゴミ箱は不要なのか
なぜゴミ箱が無いのか。日本人はゴミを率先して持ち帰るから不要……というわけではないだろう。歩道脇の植え込みやら、停めてある他人の自転車のカゴやらが即席のゴミ箱として利用されるのはよくある光景じゃないか。
時には、誰かが捨てた最初のゴミが呼び水となったのか、なんでもない場所が急にポイ捨てゴミのホットスポットと化している光景も見る。これはやはり、公共のゴミ箱が少ないからだと思うのだ。
中には「ゴミ箱があると周囲にゴミが散らばって汚くなる」なんていう意見もネットで見かけたが、これについては馬鹿な話だというのが個人的な意見。ゴミ箱があるから周囲にゴミが散らばるのではない。ゴミ箱が足りないから、数少ないゴミ箱の周辺にゴミがあふれるのだ。
想像してみて欲しい。あなたは道を歩いていて、どうしても捨てたいゴミを持っている。そしてゴミ箱を発見するとしよう。たとえゴミ箱がいっぱいになっていたとしても、数メートル先に別のゴミ箱があればそちらに持っていくだろう。
例えそのゴミ箱もいっぱいだったとしても、「ゴミ箱は沢山あり、遠からず捨てられる」という認識が当たり前な環境なら、捨てられるゴミ箱にたどり着くまでポイ捨てなどしないはずだ。あなたが熱心なポイ捨て促進派でもないかぎり。
というか、その頻度でゴミ箱があれば、そもそもゴミ箱もそう簡単にあふれかえらないものである。そしてこのシステムは、少なくともロサンゼルスやサンフランシスコといったアメリカの都市、あるいはドイツのフランクフルトなどでは十全に機能していた。
・テロ対策?
ゴミ箱が無い理由としては、「地下鉄サリン事件」がきっかけとなって、不審物がぶち込まれかねないゴミ箱が都市部から撤去されたという話がそれなりに一般的だ。それだけが理由かどうかは知らないが、海外から要人が来ると駅のゴミ箱が軒並み使用禁止となるのは確か。
日本の行政や各種公共サービスの運営団体が、ゴミ箱こそ爆発物やらの設置場所になりえると考えているのは、実にありそうな話である。個人的にも、テロリストがそういう目的で使うこともあるかもなぁとは思う。その上で、ゴミ箱を無くすという対策は的外れだと思っている。
何故か? それは、より治安の悪い場所ですらゴミ箱は急に爆発したりしないからである。個人的な経験談で申し訳ないが、ロサンゼルス近郊に住んでいたころの話をしよう。筆者が昼ごろに家に帰ろうと運転していると、家の近くで急にものすごい渋滞になっていたことがあった。
家までは3キロ程度だったので、歩くことにしてその辺の路肩に駐車(LAでは路駐が普通なのだ)。1ミリも動かない渋滞の先には、警察による封鎖。渋滞の原因は、筆者同様に封鎖線の先に住む人たちの車であった。
何が起きているのかさっぱりなので、テラスで野次馬をしていた封鎖線のちょうど手前の家のおっさんに事情を聞くと「どっかの馬鹿がガレージで爆弾を作ったらしい」と教えてくれた。
爆弾とはただ事ではない。これは世紀の大事件。住民は大パニック……とはならないのだ。近所のガレージで爆弾が製造されていて、FBIやらがエリアを封鎖していても、住民は「クソ暑いのに帰れねぇ……暇だしその辺でピザでも食うか」といった感じで、慣れている。
なぜなら、民家のガレージで爆弾が作られるのはよくあることで、警察がそれを察知して踏み込むのもまたよくあることだからだ。信じがたいなら「Pipe Bomb」でカリフォルニアのローカルニュースを検索してみるといい。年に数回の恒例行事で、独立記念日の花火よりも頻度は高い。
そんな日本からすれば嘘としか思えないような場所ですら、ストリートにゴミ箱は沢山ある。もちろんそれらのゴミ箱は、自家製爆弾で頻繁に吹っ飛んだりしない。
花火よりも自家製爆弾の方がメジャーな場所ですら、ゴミ箱は滅多に爆発しないのだ。自家製爆弾そのものが稀有であろう日本で、ストリートのゴミ箱を増やしたからといって、治安が著しく悪化することはあるまい。
大体考えてみて欲しい。ガチでテロを起こそうと考えているヤバいやつなら、ゴミ箱があろうと無かろうと関係ないだろう。都市の路上というのはわりと死角だらけだ。植え込みの中とか、ファストフードの紙袋に包んで放置とか、そのつもりがあれば無数にやり方を見出せると思う。
現状において、もしもゴミ箱を無くして予防できた気になっているのであれば、それこそ最悪だ。その油断から、起きてしまった場合の対策が疎かになっていやしないだろうか。悪いことというのは予防しようとするより、起きる前提で被害を最小限にするほうが効率的だと思うのだが。
やるヤツはどの道やらかすという話なら、公共のゴミ箱に家庭のゴミをぶち込むヤツも同じだろう。ゴミ箱が無い現在でも既にいるのだ。ゴミ箱を増やしたからといってその手のヤツが急増することは無いと思う。する奴はするし、しないヤツはどんな環境でもしないものだ。
とまぁ長々と色々書いてきたが、短くまとめると、ゴミ箱を減らす治安対策は不毛だし、むしろゴミ箱を増やすべき……ということである。原宿にNPOがタピオカ専用ゴミ箱を設置するに至ったストーリーで、ずっと感じていた「ゴミ箱が少なすぎる」という思いがあふれ出てしまった。
そういえば来年は東京オリンピックだ。例年以上に国内外から東京に人が集まってくるだろう。ゴミ箱が少ないことの弊害はきっと今まで以上に出ると思う。それでもゴミ箱は増えないのだろう。なんだかそんな気がする。オリンピック観戦に初来日した外国人たち、絶対東京のゴミ箱の少なさにびっくりするだろうなぁ。
参照元:PR TIMES
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.
▼誰かが最初の1つ目を捨てたからだろう。ゴミ捨て場じゃない場所がゴミ捨て場みたいになっていて、思わず撮った目黒川の花見の時の写真。
▼青い紙袋の中身は全部ゴミ。このサイズのポイ捨てに誰も見向きしないんだから、ゴミ箱なくしても不審物対策にはならないと思うんですよ。
▼こういうのはもう定番ですよね。
▼カラフル。きっとフォトジェニックだったんだろうけど、こうなってはどうだろう。
▼サンフランシスコ在住時のある夜の写真。近隣住民がポリスに踏み込まれるのは日常茶飯事だぜ! ガレージ爆弾か、大量の銃器か、イリーガルな植物の栽培がだいたいの相場。この時は植物だったらしい。