【自称マッサージ嬢とのパンツ際攻防戦(その6)】

・ラストダンス

部屋に戻ってきたマラドーナは、なんと先ほどの白衣のエドワルダを連れて来たではないか! そして部屋のテレビをつけ、大人のDVDを流し……2人して上半身裸になって踊り始めたのだ!!

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清々しいまでの、完全なるマッサージ放棄。ダンスとDVDで “その気” にさせようって作戦だろうが、そうはいくか……いや、いや、待て! もしかして……もしかして……このまま最後までダンスを見続けていたら「はい、ダンス分の追加料金ちょーだい」とか、「2人分だから料金は2倍よ、ムッシュ」となるのか? それが狙いなのか? 

そうだ、数分前に見たクレジットカードリーダー! あれが出てくる布石ってことか? ……はっきりとは分からないが、明らかなのは「やっぱ1人でラブホに入るべきじゃなかったし、なるはやで出た方がいい」ということだ。でも、一体どうすれば早く幕引きできるのか……。

・一発逆転のひらめき

そのとき! 不毛なこの戦いに一瞬で終止符を打つ必殺のクロスカウンターのアイディアが、私の中に降りてきた。これならば、お互いの摩擦を最小にして一時的に麻痺状態を作り出せる……はず。

そこで生まれる “間” をうまく利用すれば……ウォー・イズ・オーバー! ソーディスイズクリスマス!! スーパーハッピー! マンモスラッチー! ごちそうさまでしたーーーーーー!!

──これに賭けるしかない! 

覚悟を決めた私は、ウリャーと気合いを入れて、自分の両手をパチンと力強く合わせた。手にもマッサージローションが塗られていたのでやりにくいが、気にしていられない。さらに続けてパチン、もういっちょパチン! ……つまり、私は拍手をしたのだ。本気でダンスに感動している風を装って。

──要はこうだ。ダンスの上手さに感動している様子で拍手をしているということは、私が全く“その気” になってないということ。「いろいろ仕掛けてきても無駄だよ〜ん」という現実を、なるべく相手の顔を立てる形で分かってもらうのが、ダンス賞賛拍手攻撃だったのである。

相手を活かして自分が勝つ。日本の古武道精神が、パリのラブホの地下で炸裂したのであった。

・風向きが変わる

そして、それはまさに目の間で功を奏しつつある。私の拍手に女性2人は一瞬軽く驚いた表情を見せたが、すぐにニッコリスマイル。艶かしさ全開の部屋に、乾いた明るい空気が流れ込んできたのだ。風向きが変わり、部屋の雰囲気が中和されつつある!

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行けるぞ! あとはDVDのタイミングを見計らって、「素晴らしいダンスを見せてくれてありがとう。そろそろ帰るよ」とか適当に言って強行突破! そこが勝負。その際、女性2人が「こちらこそありがとう。さようなら」と言いやすい空気を作り出しておきたい。ってことは……もっともっと拍手&拍手&賞賛しなければ!!

そんな私の気持ちを煽るかのように、隣の部屋から一定のリズムでベッドを打ちつける『たたかいのドラム』みたいな音が聞こえてくる。……負けてられない! こっちは倍の速さでやってやる! ……いや、3倍じゃい!! 

マラドーナ&エドワルダよ、目に焼き付けよ! 東洋武術の奥深さを! 覚悟せい!! 私は一度深呼吸をすると、心の中で「ほわたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた」と絶叫しながら、全身ローションまみれの状態で狂ったように手を叩き続けた。

[完]

Report:和才雄一郎
イラスト:稲葉翔子
Photo:RocketNews24.
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