ずっと前から行こう行こうと思いながら、なかなか行くことのできなかった場所がある。それは東京・新橋駅前のニュー新橋ビルの2階フロアだ。そこには数多くのマッサージ店がある。

1度は体験してみたいと思いつつも、いたずらに月日が流れるのを見送ってきた……。そしてついに勇気を振り絞って、1軒のお店に入ってみたところ……。気持ち良すぎだろ! ってなってしまった。もっと早く行けばよかったよ。

・お兄さん、マッサージ

この建物2階には中国・台湾系のマッサージ店がズラリと並んでいる。その気がなくても、お店の前を通ろうものなら、「お兄さん、マッサージ」の声がアチコチから聞こえてくる。立ち止まったら引き込まれるんじゃないか? とさえ思うほど次から次へと声がかかってくる。

その様子が怖くて、体験に踏み切ることができなかった。よく考えてみたら何も恐れることはないというのに……。50歳手前のおっさんのクセに何を怖がっているんだ! と自らを鼓舞して、今日こそ体験してやる!! と2階へと向かった。


2階にあがると、目の前の左右のお店に、客待ちの女性がそれぞれ2人ずついるのが見える。行くぞ! と自分を奮い立たせて、彼女らの目の前に差し掛かると……。


「お兄さん、マッサージは?」

「今なら1000円引き」


と来た。囲むな! それが怖いんだよ。何かひどい仕打ちを受けるんじゃないか? と警戒してしまうからワラワラと寄ってくるんじゃない! ダメだ、この店には入れない。動物的な本能が「危険」と判断してしまっている。

くそ、今日もダメかもしれない。潜在的に感じる恐怖に打ち勝つことができないかも……。もう少し歩いて、またワラワラと囲まれたら帰るぞ。


・すでに術中

そう思いながら、1つ角を曲がったところに、やはり客待ちの女性が1人で座っていた。とくにこちらに声をかけることもなく、ただ私を見ている。マッサージ内容や料金がわからないから、とりあえず話だけでも聞いてみるかな。

そう思いながら近づいていくと……。


「お兄さん、マッサージ。今なら1000円引き」


とまくし立ててきた。一緒かよ!

まあいいや、ここでマッサージをしてもらうかな。話を聞こうとしたら、すぐに店に促されて「ここで靴脱いで、スリッパはいてください」と言われた。

一瞬でペース取られた、もう引き返せる気がしない。不思議なもので、靴を脱いだら逃走する気持ちが萎えるもんだな。土足で入る店なら、サッと出ることができるのだろうけど、靴を脱ぐとそういう訳にはいかない。そのまま個室まで直行。もはや相手の術中である。


・紙パンツ

メニューを見ると、一般的なマッサージ店の相場とだいたい同じかな。身体の部位とマッサージ内容によって多少値段は変わるけど、おおむね30分3000~5000円くらい。どっぷり全身マッサージするほど時間もなかったので、足だけを20分でお願いした。リンパマッサージ20分3000円。まあ普通の価格でしょう。

ズボンだけを脱いだらいいのかな? と思っていたら、「下だけコレに変えてください」と言われて紙パンツを出された。え? 足だけマッサージでも紙パンツはくの? そうか、紙パンツなのか……


はき替えて少ししたら別の女性が入ってきた。うつ伏せになってふくらはぎを中心にマッサージをしてもらうことに。

足だけをお願いしたのには理由がある。今年の初め頃からずっと踵の高い厚底ブーツとロンドンブーツをはきつづけていた。7月頃から平靴の戻したら、ふくらはぎの力が衰えてしまっていて足が痛くなってしまったのだ。気づけば足首がむくんで、わずかではあるけど痛みもある。


自宅ではサポーターをして、生活することがしばらく続いていた。


病院に行くかもどうか迷ったけど、歩けないってほどではない。いずれ整体にでも行こうかなと思っていたので、この機会に足をもみほぐしてもらうことにしたのである。


・気持ち良すぎだろ!

さてマッサージが始まり、まずはふくらはぎを揉むところからだったのだが、これが痛くて仕方がない。きっと軽く揉んでもらっているだけなんだろうけど、悶絶するほと痛かった

オイルを垂らしながら、ふくらはぎからアキレス腱、足首へともみほぐしは続いていく。最初こそ悶えるような痛みだったけど、それが段々痛くなくなり、次第に足がほぐれているのがわかる。

まるでめちゃくちゃに絡まった電気コードを、丁寧に解いていくように、足の疲れと緊張がやわらいでいく


マジかよ、マッサージ気持ち良すぎだろ!


アッという間の20分間。終わる頃にはウソみたいに足が軽くなっていた。こんなことならもっと早くくれば良かったよ。帰り際に冷たいお茶を頂いて、2000円支払ってお店を後にした。また新橋に来たら、マッサージをしてもらうとしよう。


それにしても、紙パンツにはき替える必要はあったのだろうか……


執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24