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マッチョっぽいイメージから、ドイツのヒップホップでは「武士道」や「吉光」など、日本語の言葉を名前にするのが流行っている。一方、神秘的なイメージから日本語の言葉を、バンド名にするメタルバンドも世界には多く存在する。例えばラトヴィアの神道メタル「黄泉」などだ。

普通の日本人の感覚からすると「神道」や「黄泉」は、それほど日常生活に密接した感じはしないが、外国の人からすると神秘的でミステリアスな日本イメージなのだろう。今回はなぜかブラックメタルで定着している「青木ヶ原(Aokigahara)」という言葉にフォーカスしてみよう。

・世界のバンドで定着する「青木ヶ原」、「樹海」

外国のブラックメタルバンドの間で、日本イメージとして用いられている言葉がある、それが青木ヶ原だ。日本の一般市民にとってはそこまで日常的なテーマではない。自殺の名所として知られる、青木ヶ原。ブラックメタルを聴いていると、やたらとそのAokigaharaと遭遇するのだ。

日本人の会話で話題にする事もそれほど多くないし、青木ヶ原と言うよりは「樹海」と言う事の方が多くないだろうか? そこで海外のブラックメタルで散見されるAokigaharaを集めてみた。

・バージニアのバンドAokigahara

名前そのものが『Aokigahara』というバージニア出身のブラックメタルバンド。日本語の曲名や日本風のイメージは特にせず、自然崇拝風カスケイディアン・ブラックメタルに近い。

バンド名そのものが「Aokigahara」はこのバンドしかいない様だが、アルバム名がAokigaharaは複数存在する。

・ウィーンのHarakiri for the Sky

ウィーン出身のバンド名自体が笑える『Harakiri for the Sky』という、ポストブラックメタルが2014年に出したアルバム名が『Aokigahara』。悲しげなメロディが特徴だ。このバンドは元々音楽的評価も結構高く、割と知名度がある。

・スペインバンドのAokigahara Jukai

スペイン南部アンダルシアのマラガというと、日光がさんさんと降り注ぐ地中海に面したリゾート地というイメージだが『HateHordes』というブラックメタルが『Aokigahara Jukai』というアルバムを2010年にリリースした。こちらはあまりにポンコツ過ぎるサウンド。

・オーストラリアのバンドもAokigahara Jukai

オーストラリアのタスマニアも自然のイメージだが、2013年に『Aokigahara Jukai』というアルバムをリリースした「Thrall」を輩出している。5曲目は『Ubasute(姥捨て)』というタイトルだ。ブラックエンドクラスト風に近いスタイル。

・ニュージーランドでもAokigahara

羊やキウイのイメージが強いニュージーランド出身のバンド『Cailleach』も、2013年に『Aokigahara』(EP)をリリース。他のバンドと違って、聴きやすい泣きメロが特徴のアトモスフェリック・メロディアス・ブラックメタル。『Here Among the Dead』という曲の3分20秒頃から樹海の関係者と見られる、日本人中年男性の声がサンプリングされている。

・ロシアでもAokigahara

ロシアのモスクワ出身のアンビエント・ブラックバンド『Frozen Ocean』もまた、2011年に『Aokigahara』というアルバムを出している。最初から最後まで、まるで樹海青木ヶ原に彷徨ってしまったかの様な残響音だけしか聴こえず、これら紹介しているバンドのなかで最も恐ろしいサウンドを体現している。

・オランダでもAokigahara

オランダのデプレッシヴ・ブラックメタル『Sea of Trees』も2011年に、『Aokigahara』をリリース。悲痛な叫びと悲しげなメロディ。2008年以降音沙汰がないが、青木ヶ原に行っていないか心配である。

・米ニュージャージーでもAokigahara

ニュージャージーの打ち込みアトモスフェリック・ブラックメタル『Terraforms』が、音楽配信サイトBandcampで発表した音源も『Aokigahara』。こちらはやや単調な印象。

・スウェーデンでもAokigahara

スウェーデンのバンド『Astolat』もBandcampで『Aokigahara』を発表。ジャケットは青木ヶ原風の森林の写真。こちらはブラックメタルではなく、クリーントーンで歌い上げるプログレッシヴ・ドゥームスタイルに近い。

以上のように、バンド名やアルバム名に「Aokigahara」を掲げるブラックメタルバンドが、これほどまで世界中に存在するのだ。さらに曲名に「Aokigahara」が入っているものを含めると、実際の所、全てを集めるのは不可能なほど。

日本人にとって、それほど日常会話や日常生活で頻出する訳ではない「青木ヶ原」が、世界のブラックメタラーの間ではいつの間にか「クールジャパン」となっていたのである。

執筆:ハマザキカク
イラスト:Rocketnews24.

▼ウィーンのバンド「Harakiri for the Sky」のアルバム『Aokigahara』

▼スペイン「HateHordes」

▼オーストラリア「THRALL」の『Aokigahara Jukai』

▼ニュージーランドの「cailleach」

▼ロシア「Frozen Ocean」のアルバム「Aokigahara」