私は今、長崎県南島原市に来ている。南島原市の提供によるプレスツアーだ。来ないかと誘われた時には、スケジュールの問題で断ろうと思っていたのだが……行程に特定の場所が入っていると知り、参加を決めた。

その場所とは、1991年に雲仙・普賢岳で起きた、噴火による災害の跡地だ。私は実は、27年くらい前の、まだ復興される前の現場を知っている。あれからどうなったのか、興味がわいたのだ。

・雲仙岳と南島原

件の噴火以降は特に全国区で名前を聞くことも無くなったため、雲仙岳など知らんという方も、恐らくいるだろう。それどころか南島原市すら知らんという方がいてもおかしくない。

簡単に紹介すると、長崎県は長崎県でも、全日本人が知ってそうなグラバー邸や浦上天主堂がある方ではなく、有明海を挟んで熊本県の対岸に位置する島原半島の方。雲仙岳は、その中心にある火山群の総称だ。普賢岳は、雲仙岳を形成する火山群で2番目に高い山のこと。

わかる。長崎に観光に行くとなっても、あまり選ばれないエリアっすよね

最近じゃイケメンになって色んなゲームに登場するなどして人気が上がった、天草四郎が反乱してた場所と言った方が通じるかもしれない。

南島原の原城跡には「四郎家(一揆当時)」もあるので、四郎ファンの方は聖地巡礼などもいいでしょう。



・砂漠みたいだった

場所が分かったところで、話を1991年の雲仙岳界隈にもどそう。噴火の詳しい経緯については、Wikipediaにまとめられているのでそちらをどうぞ。

凄まじい火砕流が発生して多くの人が命を落としたのだ。当時の映像はYouTubeにアップされまくっているので、興味のある方は検索してみてくれ。

私は小学生だったが、新聞のトップからTVのニュースまで、とにかくしょっちゅう雲仙・普賢岳の噴火についてやっていたのを覚えている。

取材班を乗せた自衛隊のヘリがエンジントラブルを起こして不時着し、徒歩で脱出するという事故も起きるなど、子供の目線でもとにかく凄かった

しかし、世間の注目は95年の阪神・淡路大震災に移ることになり、普賢岳云々の報道は終息。何だかんだで、雲仙・普賢岳の噴火の終息宣言が出されたのは96年のことだった。

奇しくもその時、私は対岸の熊本県に住んでいた。弁当箱みたいな初代ゲームボーイが現役で、「ポケットモンスター 赤・緑」が最もアツいゲームだった。ガンダムWは終わり、ガンダムXが始まっていたが、プラモはガンダムWの方が人気だった気がする。そういう時代だ。

私は連休や土日などに、天草の海に釣りなどに連れて行ってもらっていた。噴火中はヤバそうな雲仙岳がよく見えたものだが、文字通り対岸の火事。大人は騒いでるが、あんま関係ねぇよなって感じだった。

それがある時、突如として現場を見る機会が訪れた。終息宣言のほぼ直後に、謎に家族旅行の行き先が島原に決まり、土石流で埋もれた深江町に降り立ったのだ。

当時の写真は持っていないが、風景はよく覚えている。海辺から山までの5キロほどが灰色の土砂で覆われており、デカい岩が沢山転がっていた。そして所々に、2階部分や屋根だけが地面から出ている家がそこそこ残っているみたいな感じだったのだ。

特に印象が残っているのが、土石流で壁が崩壊して地面と同じ高さになった2階部分の廊下が剥き出しになっている、赤い屋根の家だ。廊下の奥の部屋にはミッフィさんだかキティさんみたいなキャラのカレンダーがかけられていた。

その家に入ってみようとしたところで、親父から酷くぶん殴られた。我々はしばらく全てを埋め尽くした土石流の上を歩き、何件か地面から出ている家を眺めるなどしたのち、車に戻った。



・道の駅

当時から30年弱。恐らくほぼ同じであろう場所に来てみると、道の駅ができていた

そしてそばには「土石流被災家屋保存公園」なるものが。

被災直後は放棄された家屋がフリー素材みたいになっていたものだが、今では屋根付きの展示場みたいな場所で保存されているではないか!

ちなみに、外にはいくつか屋外で保存されているタイプの家もあるもよう。私が覚えている赤い屋根の家は、残念ながら保存対象には入っていないようだった。

1件は移築したもので、他は元からこの場所にあった家屋とのこと。

すぐ後ろは海なので、マジで山から海まで全部やられたことが分かる。

ということで、小学生の頃……というか、96年の噴火の終息宣言の直後以来ぶりの雲仙・普賢岳の災害跡。特に整備も復興も行われていない頃の状況を最後に現地を見ていなかったため、かなり様変わりしていて驚いた。

ちなみにGoogleMapで空から見ると、わりと今でもどこがやられたのかわかる。当時を知らずとも、最近の衛星写真で見てもわかるという時点で、いかに凄まじかったかは理解できるだろう。

災害の状況が保全された火山の被害の跡地というのはそんなに多くない。ぶっちぎりはヴェスヴィオ山のポンペイだと思うが、雲仙・普賢岳と南島原は、それに次ぐくらいに生々しさが残っていると思う。火山だらけの国に住んでいる皆さんも、一度は見に来てみてはいかがだろう。


ちなみに、南島原には他にも年中見られるイルカウォッチングだとか、名産の「島原手延そうめん」だとか、そういう楽しかったり美味しかったりするものもあるぞ!

参考リンク:土石流被災家屋保存公園
執筆&写真:江川資具
ScreenShots:GoogleMap


▼熱風で被災した小学校

▼小学校の隣の「大野木場監視所(愛称:大野木場砂防みらい館)」から見た、例の定点。ここで噴火の状況を取材したり調査していたメディア関係者と学者、消防団員などが亡くなった。