スマートフォンのゲームアプリ、漫画アプリ、動画アプリなどで遊んでいると、かなりの頻度で目にするゲームの広告。

金銀財宝、溶岩、キャラクターなどが配置されて、プレイヤーが “ピンを抜いて事態を打開するゲーム” を、あなたも一度くらい見たことがあるはずだ。

いやもう「親の顔より見ている」というほど繰り返し見たかもしれない。しかし、これらのゲームの大部分はこの世に実在しないのである。


・ゲームアプリで横行する詐欺広告

過去記事でもサンジュン記者がレポートしているとおり、ゲーム広告はときに「プレイしてみたら内容がまったく違う」という詐欺まがいの事案が発生する。有名どころでは、某パズルゲームがあるだろう。

最近のバージョンでは、ボロボロの服を着た子連れの女性が、寒そうな部屋で震えている。容器をふさいでいるピンを上手く抜くと、彼女らに金貨が届くらしい。

しかし、かつて狂ったようにプレイしていた筆者の知る限り、同ゲームは絵柄を揃える「マッチ3パズル」であり、荒れ果てた庭や屋敷を修復していくご機嫌なリフォームゲームである。

同じくピン抜きゲーム広告といえば、勇者風のミニキャラが出てくるものは実はMMORPG。ピン抜きとはちょっと違うが、不敵な笑みを浮かべる老女が孫娘の眼前でパトカーに連行されていくゲームも、ミステリーではなく陽気なパズルゲームだ。


こういった「広告と実物の印象が違う」スマホゲームは枚挙にいとまがない。


そしてこれらの広告の特徴は、デモ画面のプレイが超絶下手なのである! イライラして「あぁもぅ、貸してみろ!」と言いたくなるヘタレっぷり。

こうなったらすでに相手の術中にはまっている。

実際にミニゲームをプレイできる「プレイアブル広告」も多いので、見ていられなくてデモに手を出す、何度も広告が表示されるようになる、ついにインストールする、「あれ全然違うじゃん」と思いつつもなんとなくプレイを続ける……という沼である。

疑問なのが、わざわざ「本編と違うゲーム内容」を広告にしなくても、上に挙げた例はそのままでも十分おもしろい優良ゲームなこと。

筆者がはまったものも箱庭のようなグラフィックがきれいだし、パズルゲームとしても中毒性があり、課金なしでもかなり遊べる。

本物のゲーム画面を見せたほうが、よっぽどインストールされるのではないかと長年疑問だった。


しかし、そこにはスマホ広告特有の事情があるらしい。スマホ広告は繰り返し何度も見ることになり、また配信期間も長期にわたるが、実際のゲーム画面はどうしても似通って「視聴者が見慣れて反応率が下がる」のだとか。

多くが失望して即アンインストでも、一部が課金ユーザーになれば成り立つビジネスモデルゆえ問題ないのだろう。ウソにならない程度に広告の内容をミニゲームとして実装した「本編は広告とは別モノのゲーム」がいまもなお存在し続けている。


・『どこかで見た “あのゲーム” たちを棒人間で作ってみたけれど、果たしてあなたはクリアできるのか?』

前置きが長くなったが、こんな事態に風穴を開けるべく(?)リリースされたのが『どこかで見た “あのゲー” ムたちを棒人間で作ってみたけれど、果たしてあなたはクリアできるのか?』だ。タイトル長。

Nintendo SwitchとSteam対象のダウンロード専売で、「ピンぬき」をはじめとしたミニゲーム全5種類、合計250ステージを収録。タイトルからして、例のゲーム広告たちが意識されていることは隠しきれない。というか隠していない。

価格は1111円(税込)と、この手のミニゲーム集にしてはなかなかのお値段……って棒人間を表現してるんかい!!

筆者もさっそくプレイしてみた。Steam Deckで問題なく動作した。

主人公はオリジナルの棒人間だが、ものすごぉぉぉく既視感のある、ピン、財宝、溶岩、消火のための水といったオブジェクトで画面が構成される。

ゲーム広告のデモ画面と違って、ちゃんと成功できるから気持ちがいい。

レベルが上がっていくと、敵が配置されるなどルールが増えて、それなりに難度が高くなっていく。終盤はしっかりピンを抜く順番を考えないと攻略不可で、リトライを繰り返す。なかなか解き応えがある。

なぜかちょっと頭が悪い感じがするが、チュートリアルも丁寧だ。ルールに戸惑うことはほぼない。

これまで、どこにも存在しなかった幻のゲームが実体をもって迫ってくる。ボタン入力にレスポンスを返し、失敗したり成功したりして、最後にはちゃんとクリアできる。

筆者はゲーム広告が表示されたとき、「自分が興味を抱いた」ということを知られるのがなんかシャクなために、「決して手を触れない」ことをモットーにしている。

「おあずけ」をくってモヤモヤしていたものが、思う存分プレイすることで昇華されていく……ような気がしないでもない。

そうか、こういうプレイフィールだったのか。もう、ゲーム広告にイライラさせられることは決してないだろう。欲求不満を感じたら、いつでもこれを起動すればいい。


しかしなぜだろう……ゲームが進むにつれて脱力感が募るのは。


課題をクリアするとゲーム内の「IQ」が上昇していくが、コレクターズアイテムがあるとか、ストーリーが進むとかはない。次の課題に進める、ただそれだけだ。いわば「解けた」という実感だけがご褒美で、クリアすべき動機がないと言ったらよいか。


どうしてか、ずっとやってみたかったはずのピン抜きなのに、プレイすればするほど目的を見失い、虚無を感じる……


・一片の後悔もない

すでにプレイした人からはそのクソゲ……失礼、ゆるく雑な世界観が「いつか見たゲーム」「BGMフリー素材じゃねぇか!」「存在自体がギャグ」と高評価を集め、Steamの「非常に好評」カテゴリーを獲得している。

クリア報酬でガチャを回すことができるのだが、手に入るのはプレイヤー名を飾る「しょうごう」や「プレート(背景)」という、微妙~に要らないものばかり。

射幸心をあおり、ときに社会問題となるソーシャルゲームのガチャ高額課金問題へのアンチテーゼになっている。かもしれない。

ほかに収録されているのは「すうじタワー」「カラーわけ」「クルマだし」「マネーあつめ」。すでに1時間以上遊んでいるが、筆者は購入をまっっったく後悔していない。ほかでは味わえない、すごい経験ができたと信じている。


参考リンク:公式サイト
執筆:冨樫さや
Photo:PR TIMES、RocketNews24.
Screen Shot:『どこかで見た “あのゲー” ムたちを棒人間で作ってみたけれど、果たしてあなたはクリアできるのか?』(Steam)