『カイジ -闇の黙示録-』というスマホゲームが世間を揺るがしている。

原作は、いわずと知れた福本伸行氏の人気マンガ『カイジ』シリーズ。BGMは小室哲哉氏、主題歌は河村隆一氏の作詞・作曲・歌唱という超豪華な顔ぶれだ。

バランス調整のための配信延期を経ながらも、1月下旬にリリース。ところが、そのクオリティがヤバすぎてユーザーを震え上がらせているのだ。

iOS版リリースから数日経った1月24日現在で、App Storeのレビューが★5と★1に二極化しているというおかしな事態に。なんだこれ。


・衝撃のオープニング

オープニングには河村隆一氏の書き下ろし楽曲が流れる。聞き応えがあって素晴らしい。

ところが、背景は数秒ほどのアニメーションがあるだけで静止画。ぴくりとも動かない背景をバックに、楽曲だけが延々と流れるというシュールなオープニングとなっている。

その静止画も、ロゴも読みにくいほどカクカクの低解像度だったために「ガラケー」「ファミコン時代」などと話題になった。

しかしこれは、演出ではないかという節もある。というのもゲームのPR画像で「定期的なバージョンアップで昭和の時代から令和までを体感!」とあり、わざと古くさい演出をしているとも思われるのだ。

ゲームが進むにつれ、どんどんオープニングが豪華になっていったら……ワクワクする展開ではある。


・ゲーム内容は

さて、肝心のゲーム内容である。多くのユーザーから指摘されているとおりチュートリアルがなく、プレイヤーの置かれた状況がさっぱりわからないのだが、帝愛グループに監視されながら「地下労働施設」から「天界層」までの人生ピラミッドを勝ち抜いていくゲームらしい。

ゲーム内には「ぺリカ」と「エーン」という2つのゲーム内通貨がある。前者はいわゆる課金石・ガチャ石のような課金アイテムで、後者は人生ピラミッドを上るためのポイントのような役割だと思う。

メインコンテンツはブラックジャック、ハイ&ローなど、いくつかのミニゲームで構成されている。

地上専用「Eカード」、地下専用「チンチロ」など、カイジらしいゲームもあり、原作を知っていればニヤリとする演出も。

しかし同時に「準備中」など未実装の部分も多く、開発途上のゲームという印象は拭えない。


実際にゲームをやってみよう。賭け金はゲーム内通貨「エーン」。レベルが上がると高額のベットができるようになり、よりスリリングなギャンブルを楽しめるという仕様だ。

ところが、ミニゲームはいずれも完全に運任せの単純作業で、お世辞にも「オリジナリティがある」「ゲーム性がある」とはいいがたい。心理戦も駆け引きも存在しない。

グラフィックもリッチとはいえず、SNS上で「初代プレステ」などと揶揄(やゆ)されるのも納得してしまう出来栄え。


失礼な表現ながら、プログラミング教室で初学者が課題として作ったミニゲーム……とでもいおうか。

ネット上では「さすがの帝愛クオリティ」「黒服たちが徹夜で作った」「外界から隔絶された地下労働施設ではこれが最先端!」などと逆に賛辞が贈られる始末だ。


開発自ら「ミニゲームは何処かで見たようなゲーム性で、誰でも気軽に短時間で行える物が揃っております」と述べるとおり、最初から凝ったゲーム性は求めていないようだ。

むしろ『カイジ』のキャラクターや雰囲気に触れられるという世界観重視のゲームか。

おっと、大負けして所持金「エーン」がマイナスになってしまった! いったいどうなるんだ!?

……なんの演出も警告もなく、静か~に階層が「地下労働施設」に落ちていた。

いやいや、ここはドラマチックな展開だから、なにか演出入れて!! ピラミッドの下剋上はゲーム最大の見せ場じゃないのか!?

とくに所持金マイナスにペナルティはなく、人生ピラミッドが落ちるだけ。あとは借金でギャンブルを続けることになる。帝愛にしては優しい展開だ。

ちなみに借金を完済して地下から地上に戻る際も、とくに演出はなかった。


・多数のバグ

バグも多数報告されている。ランキング画面では謎の文字レイヤーが邪魔して、プレイヤー名が見えない。

チンチロでは椀が割れたように向こう側の畳が透過している。ゲームには影響ないのでいいのだが、これもまたシュールである。

合計数字が21に近い方が勝ちというブラックジャックでは、何度かに一度、相手の手札がオープンになっているターンが。これはバグなのか、あるいはボーナスタイムなのか。

最大の問題点は、「負けそう」と思ったらゲームを中断してホーム画面に戻ってしまえば、所持金が減らないという仕様。理論上は所持金マイナスを半永久的に回避できる。これは開発者の意図した挙動ではないと思う。

開発側でもこれらの問題点は把握しているようで、初期バージョンは停止して、新たなバージョンを配信することがアナウンスされている。また、これらのバグを悪用しないよう警告もある。

現在でも修正作業は進んでいるようなのだが、通常は変更内容がシェアされるApp Store「バージョン履歴」でも「アップデートいたしました。」のひとことで終わるという真っ白っぷりで、ちょっと心配になってしまう。

しかし恐ろしいのは、これらすべてが「演出」である可能性だ。なんだこのアプリ、と話題を振りまいておいて、あとからアップデートで奇跡の一発逆転を遂げる。


現にサウンド周りは素晴らしい。イヤホンでプレイしていたのだが、女性のウィスパーボイスで「ざわ・・ざわ・・」とささやかれるのは背筋がぞくっとするし、たまに入るカイジのCVは萩原聖人氏だ。

ゲームを邪魔するような広告や、課金を促す演出もまったく入らず、良心的な作りともいえる。失った所持金を取り戻すことも難しくない。

「1日外出券」や「ポテチ」など、原作ファンなら「あ~~~~~!」と叫びたくなるような、ゆかりのアイテムも実装されそうなのだ。


・神ゲーに化ける可能性

古めかしいUIデザイン、なんの説明もなしにゲームが始まる突き放し感、理不尽に勝敗が決まる運ゲー、はりぼてのようなチープさ、それらすべてが原作の世界観を再現する演出だとしたら、恐ろしい……!

まさに利根川から「甘えるな!」「大人は期待に応えたりしない!」と叱咤(しった)されているようだ。

伝説の神ゲーになる可能性を秘めているこのゲーム、レビューも大喜利状態になっているので、興味があればのぞいてみて欲しい。なおAndroid版は配信準備中だそうだ。


参考リンク:『カイジ -闇の黙示録-』公式ティザーサイト
執筆:冨樫さや
Photo:PR TIMES、RocketNews24.
ScreenShot:『カイジ -闇の黙示録-』(iOS)

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