「人生は長い旅」と言うが、その旅路は複雑な小道で入り組んでいる。筆者がいま迷い込んでいるのは、「PCマウスの小道」である。

仕事柄、PCと顔を突き合わせる時間が長いため、なるべく手に負担が少なく使いやすいマウスを探しているのだが、なかなか見つからない。一度見つかっても、それが壊れた時には既に製造が中止されていたりして、今生の別れに落涙することも多い。

生涯の伴侶となるマウスは、容易には得難い。旅の足取りが重くなりつつあった筆者だったが、しかしこのたび2023年6月末に新発売された商品には、かなりの期待を抱いていた。メーカーであるエレコムが「握らないマウス」と謳うその商品こそ、今回の記事の主役である。

改めて説明すると、件(くだん)の商品は2013年から続く “EX-G” シリーズの最新モデルであり、整形外科医との共同開発のもと、「マウスを動かす際にかかる身体の負担を極限まで抑えた」とアピールされている。

手を乗せるだけで自然に使えるらしく、その特徴をもって「握らない」と表しているようだ。「AskDoctors評価サービス」という、エムスリー株式会社が実施した調査において、医師100名のうち99名が「本製品を勧めたい」と答えたそうである。

そこまで行くと残りの1名の真意が無性に気になるところだが、さておき、曲がりなりにもマウス求道者の末席を汚す者としての嗅覚が働いた筆者は、さっそく本商品を入手することにした。

ラインナップには「有線・2.4GHz無線・Bluetooth(R)」の3種類のタイプが用意されており、それぞれについて「S・M」のサイズ(L・XLは後日発売)、「ブラック・ブルー・ホワイト」のカラーバリエーションが選べる。

サイズの目安は、「中指の先端から手のひらの下までの長さが165mm以下ならSサイズ、165~180mmならMサイズ」とのこと。

ちなみに筆者は絶妙に165mmであったため甚だ悩んだが、「大は小を兼ねる」という先人の教えに従い、今回はMサイズのブラック・無線タイプを購入した。価格は4280円。安いマウスよりは高い、といったところか。

より詳しい仕様に関しては公式HPを確認してもらうとして、ここからはざっくり良い点、気になった点をレビューしていきたい。

真っ先に言及せねばならないのは、その特徴的な見た目だろう。「握らない」という触れ込み通り、マウスの表面には右手の指に沿った起伏がくっきりと施されている。

実際に触ってみると、その起伏が指に吸い付いてくるような感覚があった。そしてしばらく使ってみると、完全に脱力した、本当に手を乗せているだけの状態でも大変扱いやすいことが判明した。

他のマウスを使っている時よりも、明らかに肩と肘が下がる。腕全体が整形外科の叡智に覆われる。「何だその言い草は」と思われるかもしれない。何と言うか、腕全体が整形外科の叡智に覆われたことのない方にはわからないだろうが、そうとしか言いようがないのだ。

個人的には、かつてない「負担のなさ」だ。結果としてサイズも丁度良かったし、ややマット感のある手触りも心地良く、ホイールの動きもなめらか。素直に良いマウスだと思える。

また、このマウスには「負担」の面以外にもアピールポイントがあるので紹介しておく。まずは、親指部分に備えられた2つのサイドボタンである。

これらサイドボタンと、さらに左右ボタンとホイールボタンの計5ボタンに、専用のソフトによって好みの機能を割り当てられる。「ブラウザの戻る・進む」機能を始め、「コピー・ペースト」機能や、「マイコンピュータの起動」なども搭載可能なので、かなり便利だ。

加えて、忘れてはならないのがボタンの静音性である。押し込んだ時にカチカチとは鳴らず、通常のマウスよりもカコカコと音が低いため、場所や時間帯を気にせず使いやすい。

いわゆる「静音マウス」のカテゴリの中では少し音が大きめにも感じるが、十分アピールポイントにはなる。マウス筐体とホイール部分が、抜かりなく抗菌仕様に仕上げられているのも嬉しい。

最後に、あえてケチをつけるとするなら、指に起伏が吸い付くゆえの「遊びのなさ」だろうか。通常のマウスなら、指のどの部分で、どの角度からクリックするかは割と自由だが、このマウスの場合はほぼ固定される。それを窮屈に感じる方もいるかもしれない。

筆者も正直、全くそう感じていないと言えば噓になる。これまで薄型のマウスを使っていたことも影響していると思う。とはいえ同時に、慣れれば気にならなくなる予感もある。

「結局のところどうなのか」と聞かれれば、「生涯の伴侶とは断言できないが、その候補にグイグイ食い込んできているマウス」と答える。

前述したL・XLサイズの追加も含め、今後は左手専用モデルや、最高の機能性を持つ “EX-G PRO” の販売なども予定されているらしいので、末永く開発が進むことを願うばかりだ。

読者の方々も、気になったなら是非入手して、使用感を味わってみて頂きたい。マウスは握らずとも、その存続と繁栄の鍵を握るのは、他ならぬ我々である。

参考リンク:ELECOM「EX-G」商品HPPR TIMES
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.