突然だが、あなたは停電に見舞われたらどうするだろうか? 私(中澤)は、ローソクに火をつけて、電気が復旧するまでジッと待つ。ちょっとした不安を感じながら復旧を待つのが関の山だ。

さて、ここで問題です。1977年のニューヨーク・ブロンクスでも停電が起きたのですが、その翌日からヒップホップが大流行します。なぜでしょうか? ヒントは現代日本の常識で考えるな

・自分なら停電時何ができるか

まずは、停電に対して一般市民が何をできるのかを考えてみよう。そうだなあ。ローソクを買いに行くことはできるな。缶詰を食べることもできる。お湯が出ないので浴びることはできない。なら、あとは寝るくらいじゃないだろうか。

いや、車だったらカーステレオが聞けるな。! ラジオをつける人は結構いるかもしれない。音楽も聴けるし、何か情報が流れるかもしれないしな。

・1977年のブロンクスでは…

しかし、1977年のブロンクスに住んでいた黒人たちの発想は全く違った。街で唯一光るのは車のライトだけ。そんな闇の中、彼らはこう考えたのである。「よし! 盗むかー!」と。そう、みんな店に押し入って、街単位で大規模な略奪が発生したのだ。ではなぜ略奪が起きたらヒップホップが流行るのか

時代はおりしも、伝説的ヒップホップグループ「ザ・フューリアス・ファイヴ」が人気になった頃。逆に言うと、当時、人気だったヒップホップグループは「ザ・フューリアス・ファイヴ」のみ。そのヒットにより種はまかれていたが、DJになりたくとも機材は高額。そこでDJ志望の人が、みんなターンテーブルを盗んだのである

・当時を知る者の声

ブロンクス出身で当時を知るDJディスコウィズはこう語る。「あの夜、誰もが機材を入手していた」と。また、ヒップホップのパイオニアの1人グランドマスター・カズはこう語る。「サツが来たから見つからないように身をかがめた」と。いや、ノリが文化祭で内緒で学校に泊まった時のそれですやん

で、この後、MCだらけになり、DJのパーティーも一気に増えて、そこから数多くのヒップホップグループが乱立。黄金期を迎えるのである。

・貧困

これはヒップホップ史における重要なエピソードとして知られているため、ジャンルに興味がある人はひょっとしたら知っているかもしれない。また、知らない人にとっては略奪ということが、ヒップホップのイメージを悪くするかもしれないが、この根底には差別と貧困があることを忘れてはならない。

職がなく、ギャングが支配していた当時のブロンクス。ヒップホップは、そんな殺伐とした状況に立ち向かい手を取るために生まれたものなのだ。事実、「ヒップホップ」という言葉の生みの親であるアフリカ・バンバータは、ギャング同士の抗争をパーティーによって終わらせている

・実はヒップホップ苦手でした

と、ここまで語っておいてアレだが、私はヒップホップのことを全然知らない。むしろ、ギターをクソほど練習して弾けるようになった身としてはメロディーがない感じがちょっと苦手だったくらいである。じゃあ、なぜこんなに語っているのかと言うと……

Netflixの『ヒップホップエボリューション』を見たから。重要人物に話を聞きながらヒップホップの歴史を追う本作。ビッグウェーブさんことBUTCH (ブッチ)さんにオススメされたから見た程度だったのだが見事にハマってしまった。ヒップホップへの興味のあるなし以前に、ドキュメントとしてめちゃくちゃ面白いのだ

しかも、ちゃんと地域ごとに分けて、現代のヒップホップまで繋がる筋道が作られているため、素人でも分かりやすくなっている。まさに私が大学生の頃嫌いだった「クラシックをサンプリングしてラップが乗ってる感じの曲」も、産声を上げる瞬間にかかわった人の生の声を聞くと見方が変わった。

というわけで、シンプルにオススメしたい作品である。さすがNetflix! 機会があれば見てみてくれ。まあ、1話50分で4話が4シーズンあるけどな。

参考リンク:Netflix「ヒップホップエボリューション
執筆:中澤星児
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