
今までに、この「辺境音楽マニア」では、ドイツの「Genetikk」や、フランスの「IAM」など、インチキ日本かぶれヒップホップを紹介している。ドイツとともに、ビデオクリップに日本的要素を取り込むことが大流行しているのが、今のロシアのヒップホップシーンだ。そのロシアとドイツは、アメリカに次いで世界最大規模のヒップホップシーンを形成している。
以前紹介したサハリンのロシアンヒップホップに続いて、日本好きなロシアのヒップホップシーンについてお伝えしよう。
・独ロ両国ヒップホップシーンのボスが日本好き
ドイツとロシア、この両国のヒップホップシーンには意外な共通点がある。それは、両国それぞれのヒップホップシーンのボスが、日本好きであることだ。ドイツの方は「Bushido」というチュニジア系ギャングスタラッパーで、彼のおかげでドイツでは「Chakuza」や「Alligatoah」「Joshi Mizu」など日本語風の名前のラッパーが増殖してしまっている。
一方ロシアのヒップホップ界に君臨するボスは、ロストフ・ナ・ドヌ出身の「Баста」。この第一名称自体は日本語ではないが、彼は3つの名前を使い分けており、2つ目の名前は「N1NT3ND0」、つまり日本のゲーム「任天堂」である。3つ目の名前は「Noggano」だ。「Баста」はロシア最大のヒップホップレーベル「Gazgolder」を運営しており、傘下には数多くの優良ラッパーを従えている。
以前紹介したサハリンのビデオクリップもそうだが、「Gazgolder」のチャンネルを見ていると、日常的に日本要素・日本趣味に彩られた映像がアップされる。もはや、当たり前すぎて無感覚になってしまうレベルだ。
・「サムライ」という名のトンデモ日本PV
今日に至るまでに、最も強烈なインパクトを放っていた、インチキ日本風ヒップホップPVを紹介しよう。その映像は、2011年に発表された「Самурай」。ちなみにこの言葉、アルファベットに置き換えると「Samurai」である。先に挙げた「Баста」と、ロシアンヒップホップ界もう1人のカリスマとのカップリングだ。
ビデオを再生してみると、神秘的で幻想的なメロディーをバックに、白い化粧をした芸者を装った白人女性が登場する。シーンの随所に日本茶や急須などがこれ見よがしに登場する。「能」のような真っ白なお面を被った、今にも切腹しそうな武士が姿をあらわし、「Баста」のラップが始まる。そこからさらに押しつけがましい日本テイストのオンパレード。
はっきり言ってここまで来ると、もはや滅茶苦茶である。ロシア人の典型的な「日本イメージ」をそのまま具現化したかのようだ。日本人としては失笑せざるを得ない。
そしてさらには、映像後半で宇宙空間に移動して、隕石が飛び交ったり、光が爆発したりと意味不明な展開を遂げて唐突に終わる。一体「日本」なのか「宇宙」なのか、あるいはロシア人の中では両者が切っても切り離せないものなのか……。とにかくあまりにシュールな展開に衝撃を受けるばかり。
・歌詞に「葉隠れ」、「上海」、「ニーハオ」
歌詞の意味を読み解いてみると、非常にポエティックな内容で、あまり深い意味は無いようなのだ。随所に「葉隠れ」、「上海」、「ニーハオ」など日本語っぽいもの(中国語も多い)が散りばめられている。そしてサビの部分で、「孤独なサムライは歩み続ける」と言った意味の言葉が終始連呼されるのである。
・ロシア特有の陰鬱感に溢れる曲は中毒性が高い
さて一見珍妙に見えるこのビデオクリップだが、曲のクオリティーは高い。神秘的なバックトラックに2人のラッパーの声が相まって、脳内で無限ループしてしまう程の癖の強さ。また他国のヒップホップにはあまり感じられない、ロシア特有の陰鬱なトランス感に溢れている。
ドイツとロシアではびこる珍妙トンデモ日本ビデオクリップ。ほとんどが実際の日本とは乖離した、想像上の日本になってしまっている。正直なところ、いくら日本を題材にしてくれても素直には喜びづらいところもある……。
またビデオを作る側も、日本人に見られているとはあまり意識していないだろう。ヒップホップはメタルなどと違って、言語の壁が高く、他国のリスナーがあまりいないからだ。
いつか本人達に、日本人の熱心なファンがいるという事を伝え、そしてビデオクリップのトンデモさを指摘したいところである。
▼ドイツのギャンスタラップなどと異なり、メロウでどんよりした典型的なロシアンランプ調「Баста / Гуф – Самурай」
ハマザキカク
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