Masimong

2015年9月に発刊された『デスメタルアフリカ』が話題を呼んでいる。いまだかつてアフリカのメタルシーンについて、詳細に紐解かれた書籍はほかになく、発売前から注目を集めていた。その著者のハマザキカクさんに、アフリカのヒップホップシーンについても紹介してもらった。以下はハマザキさんによる寄稿である。

アフリカ大陸のデスメタルシーンが熱くなってきているのは、広く知られるようになった。では、ヒップホップはどうなのだろうか? 今回はヒップホップシーンについて、お伝えしたい。

・膨大な数のラッパー

元々アメリカの黒人によって始められた音楽なだけあって、アフリカでもヒップホップは大人気。あまり楽器や録音環境が整っていなくても、歌うだけでそれなりに出来てしまうので、膨大なラッパー達が日々誕生している。正直な話、メタルと違って全体像を把握するのは、ほとんど不可能だ。

そうなると一国ずつ地道に調査を進めるしかないのだが、今のところ最も面白いシーンを形成しつつあると思われるのが、アフリカ大陸南部に位置するレソト王国だ。

・ドメスティックなレソトのヒップホップ

レソトと聞いて、「南アフリカ共和国に囲まれてる国でしょ?」と思った地理マニアは鋭い。実は周囲を一国だけに囲まれている内陸国は世界でもバチカン市国・サンマリノ・そしてレソトしか存在しない。その結果、南アフリカの影響を濃厚に受けつつも、超孤立したドメスティックなヒップホップシーンが形成されているようなのだ。「レソト、面白そうだね」と思って頂いて結構だ。

・農業ヒップホップ

その中でも特に超絶気怠いヒップホップが、農業学校の生徒によるビデオクリップ「MasimongH F ft T HERBS & Morena Monyane」である。

この動画に対する説明は一切掲載されておらず、リンクなども貼られていない。動画の中では「In Masimong」と表示されているのだが、YouTubeのタイトルとは異なり、正確な曲名さえ不明。

・限られた情報

Facebookページやオフィシャルサイトなども存在せず、アーティスト名「H.F」や「Boena」といった名前はあまりにもありふれ過ぎていて調査は不可能だった。少しはSEO対策を施して欲しいものだ。

・なぞの中毒性

結果的に、レソトの農業学校の生徒によるものしか分からないという謎のビデオクリップ。しかし聴いてみると、意外とモザンビークのデスメタルバンド「Scratch」並に中毒性があり、頭にこびりついてしまい、ついつい何度も再生してしまう。決して好きではないのだが、なぜか気になってしまう困った曲だ。

・農業全開

曲は置いておくとして、問題は映像だ。冒頭からかなり牧歌的。ハーモニカなのかアコーディオンなのか、かなり緩やかな出だし。「School of Agriculture」とプリントされたジャンパーや、なぜかソ連を意味するCCCPのシャツを着る人物の姿。桑で畑を耕したり、地面で寝そべってたり。さらには鶏に餌をあげたり、作物の虫食いを気にしたり、乳を絞るラッパー達。農業を全面に押し出している。

ちなみに日本で唯一出版されているレソトに関する本は松本美代著『レント山岳部の社会変動と土地利用変化』、松香堂書店。これからもわかる通り、農業が同国の主要な産業だ。

・明るい未来を切り拓く

ビデオクリップに出てくる若者のジャンパーには「School of Agriculture」(農業学校)と書かれているが、その下には「Our Future is Green」(私たちの未来は緑)とある。一見マヌケなヒップホップを披露している彼らだが、実はレソトの未来を切り拓く有望な若者たちなのかもしれない。

参照元:YouTube
執筆:ハマザキカク佐藤英典

▼ラッパーたちの動きに注目。農業全開である