世界のヒップホップを聴いていると、日本の曲をバックトラックにサンプリングしている曲と出くわす事がたまにある。特にアニメソングやゲーム音楽が用いられる事が多いようだ。やはり日本のコンテンツで世界的に人気のあるものは、この2つのジャンルが多いからだろう。

しかし時々、「なんでその曲?」という珍しい曲がサンプリングされる事がある。筆者はYouTubeで色んな国のヒップホップチャンネルを登録しており、ラジオのように聞き流している事が多いのだが、唐突に日本語が流れてきて驚かされる事が度々ある。今回は意外すぎるサンプリング曲について、お伝えしたい。

・ジョージア(グルジア)のヒップホップを聴いていたら、いきなり日本語が

先日はコーカサスのジョージアのグループ「ჯუჯები」を聴いていたら、いきなり日本語で「誰かの声が どこか子供でいたいな いつも……」というフレーズが聞こえてきて、思わず巻き戻してみた。

確かにどう聴いても、それは日本語。最初の部分は早口なので、あまりよく分からないが、途中からはっきりと日本語に聞こえる。その後、あまり聴き慣れない言語で、甘い囁きのようなラップが始まる。一瞬ロシア語っぽくも感じられるのだが、耳をよくすまして聴いても、何を言っているのだかさっぱり分からない。

・ジョージア語はかなりマイナー

ジョージア語はコーカサス諸語のカルトヴェリ語族に属する言語で、周辺のスラヴ語系やテュルク語系の言語とも系統が異なり、非常に独特。またジョージア文字は丸みを帯びた形が多く、かなりインパクトがある。そういう不思議なところが、非英語圏ラップの面白さだ。

・スタジオを所有するほどの人気ラップグループ

さてこのグループ「ჯუჯები」は、アルファベットでは「JUJEBI」。意味は「妖精」といったといころだが、正確にはよく分からない。2001年にルスタヴィ出身のFredyと、カレリ出身のBoobaによって結成された(ちなみにフランスにはセネガル系のラッパーで、同じ名前の「Booba」というカリスマがいる。実はこちらのBoobaを検索していて、偶然ジョージアの方のBoobaを知ったのだった)。

2003年から本格的に活動を開始し、ジョージアのラジオチャートで人気を博す。隣国アゼルバイジャンのフェスティバル「Space」にも参加し、認知度を高める。そして2012年にはルスタヴィでJUJEBI STUDIOを設立するまでに至った。

「ჯუჯები」のプロフィールを調べると、大体以上の事が分かった。またこの日本語が聞こえてくる曲のタイトルは「Chage things」という意味らしい。

・日本のシンガーソングライター山崎ハコ

そしてこの日本語のフレーズ、「誰かの声が~」を調べてみると、どうやら山崎ハコというシンガーソングライターの『ヘルプミー』という曲の一節だとわかった。山崎ハコは1957年大分県生まれで、1975年から活動しているようだが、筆者は日本の歌謡曲に関する知識は全くないので、この方がどういう歌手なのか分からない。調べてみるとこの曲は、1976年にリリースされたセカンドアルバム『綱渡り』の5曲目だった。

「山崎ハコ」、「グルジア」、「ジョージア」、「Hako Yamasaki」、「ჯუჯები」などの組み合わせで検索しても、何ら両者を結びつけるものは出てこない。「Hako Yamasaki」をジョージア文字に変換して「ჰაქო yამასაქი」で検索したのだが、ジョージア文字に「y」がないらしく、何も出てこなかった。

結果的に、この両者間の結びつきは突き止められなかったのである。ジョージアのラッパーが一体どこでどうやってこの曲を知ったのか、謎は深まるばかりである。

そして先日、また日本語がサンプリングされた曲がYouTubeから聞こえてきた。巻き戻すと「冷たい北風吹きぬけ かざぐるま」と確かに言っている。何だか寂しげな曲調も山崎ハコと似ている。この歌詞を検索すると案の定、それは山崎ハコの『かざぐるま』という曲だった。

しかしこの曲は先の曲と別アルバムで、75年のデビューアルバム『飛・び・ま・す』の3曲目。2つの異なるアルバムからサンプリングしたとなると、同一のミュージシャンと認識しているという可能性が非常に高い。

・日本とジョージアの結びつきは薄い

そもそもジョージアと日本の関係は深くなく、駐ジョージア日本大使館は2009年にできたばかり。他にはジョージア出身の力士「黒海太」ぐらいしか、2国を結びつけるものはないだろう。それ以外に日本でジョージアが話題になる事と言えば、ロシア読みの「グルジア」から「ジョージア」に変えろと要請が出された事や、スターリン、シュワルナゼの出身地という事ぐらいしかない。

現代のジョージアのヒップホップグループが、日本の70年代のシンガーソングライターの曲をバックトラックにサンプリングするというシュールな組み合わせ。機会があれば、どうやって彼らが山崎ハコの事を知り、使おうと思ったのか? 日本との特別な関係があるのか? などを聞いてみたいものである。

執筆:ハマザキカク
イラスト:Rocketnews24

▼山崎ハコの『ヘルプミー』をバックにした曲「shevcvalot rame」

▼『かざぐるま』をバックにした曲「dumili」

▼突き止められなかったが、なんとなく山崎ハコ風の曲「ucxo qalaqi」