南の島のような美しいビーチ。高い岩山があるから南米か、南アジアだろうか。映画やゲームのゲリラ戦で見たことがありそうな光景だ。

実はこれ、世界中のどこにもない架空の風景だ。しかも私が描いた。子ども時代の夢は漫画家だった筆者だが、典型的な「左向きの顔しか書けない」素人であり、もちろんCG職人などでもない。

クレヨンで描いたラクガキみたいな絵を、AIが状況判断して美麗な風景画に変換してくれるフリーソフト「NVIDIA Canvas」を使ったのだ。百聞は一見にしかず、どういうことか見ていただきたい。


・「NVIDIA Canvas」(Windows / フリーソフト)

ソフトを起動すると、左右に分割された画面が現れる。デフォルトでは空(そら)マテリアルで塗りつぶされた状態になっていて、右側に「Cloud」「Sea」「Forest」などのアイコンが並んでいる。

たとえば「Cloud(雲)」を選んで左エリアでマウスをぐりぐりすると、右エリアにリアルな雲が描画される! この間、ほぼタイムラグなし。


この状態で、すでに美しい!!


「海」マテリアルを選んで、さっと横線を引けば水平線が生まれるし……


「山」のシルエットを示してやれば、遠景にぼんやりとかすんだ山が生まれる! 嘘でしょ!?


スタイルを変更すれば、一瞬で夕景や夜景にすることも可能。インターフェイスは英語だが、ボタンも少なく直感的に操作できる。誰でも迷わずいじれると思う。


驚くのが、パーツとパーツが重なる境界線を、AIが自然に馴染ませてくれること。よ~く見ると不自然なところもあるが、遠目だったり、なにかの背景として使う分にはまったく問題ない。

AIは近接領域になにがあるか、塗られた面積はどれくらいかなど、複合的な要素でユーザーの意図を判断しているよう。たとえば同じ「草」マテリアルでも、青空を背景にして画面の下半分に塗られた場合は遠景、画面全体に塗られた場合は近景、と結論づけている様子。

同様に「石」マテリアルなら、1つの大きな石なのか、いくつかの石が連なっているのか、AIなりに判断して描画する。

ツールとしてはごくシンプルで、消しゴムや塗りつぶしなど基本的な描画機能と、あとはレイヤー機能があるだけ。意図した挙動と違ったときに、ユーザー側から干渉できることは少ない。

そのため、必ずしも自分の思った通りの変換結果にならないこともある。偶然から生まれる効果を楽しむ側面も多いけれど「なるほど、こうなるのか!」という発見もあっておもしろい。完成品をPhotoshopにインポートして、さらに加工することも可能。

現状ではマテリアルも15種類のみで、「月や星が欲しい」「光を表現したい」なんて希望もあるが、技術的には簡単だと思う。おそらく今後、機能拡張していくのでは。


・システム要件は限定あり

現状、動作にはGeForce RTXやNVIDIA RTXなどのGPUが必要で、どのパソコンでも動くというわけではない。けれど利用無料のフリーソフトで、1度でもお絵かきソフトを使ったことがあれば、誰でも写真みたいな風景画を作れてしまうという敷居の低さだ。

本物そっくりのリアルなCGが、なんの専門知識もなく、遊び感覚で生み出せるのだから、いかにフェイク画像を作り出すのが簡単か、ということも実感する。

日頃から写真のレタッチソフトのすごさには驚くが、いまや「無」から絵を生み出すことができるようになった。自分にスキルがなくても、コンピューターが全部やってくれるのだ。

「それっぽい絵」も「上手い絵」も「そっくりな絵」も、コンピューターなら簡単に描けてしまう。この技術、くれぐれもよい方向に使っていかないといけないなぁ。


参考リンク:NVIDIA Canvas
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.