2020年を代表するヒット作といえば『鬼滅の刃』。その勢いは今もとどまるところを知らない。筆者自身ドハマりした経緯もあって、一生分の「鬼」という漢字を読み書きしたと思う。
おかげで「鬼嫁」とか「鬼は外」とか聞くたびに「鬼ぃ!?」と反応してしまう身体になったのだが、それを上回る漢字が存在した。まずは見ていただきたい。
・こちらの漢字です
酒好きな人なら「鬼ころし」と読みたくなるかもしれないが、筆者には「きさつ」である。いわずと知れた「鬼殺隊」のこと。主人公・竈門炭治郎らが所属する鬼討伐組織だ。1字で隊を表してしまっている。
日本漢字能力検定協会によると、この漢字は「さい」と読み、れっきとした実在の漢字。ファンの創作漢字ではない。
1000年前の発音引き字典にも登場し、「羅刹(らせつ)」として知られる鬼の名前を表す字だそう。中国の辞典『漢語大詞典』では「人の血肉を喰らい、飛び走る動きの速い鬼」だという。
つまり「鬼を殺す人」ではなく「人を殺す鬼」のこと。逆だったー! 同協会が行ったクイズでも「鬼を退治する人」と誤解した人が圧倒的多数。正解者は4人に1人だったという。
・驚異の「5万字タワー」
京都市の「漢字ミュージアム(漢検 漢字博物館・図書館)」には、『大漢和辞典』に載る約5万字の漢字が書かれた「5万字タワー」があるという。壁を埋め尽くす漢字、漢字、漢字……! ちょっと「耳なし芳一」を連想するな。
「鬼+殺」の字もちゃんと存在する。1日かかるかもしれないが、全集中で探してみるのも一興。
なお、「鬼」を含む漢字はほかにもたくさん。「魑魅魍魎」「魂魄」くらいは思いつくけど、あとはさっぱりだ。劇場版に登場した「魘夢」の字は「魘される(うなされる)」という意味だって!
「漢字ミュージアム」に来館する人の中にも、作品をきっかけに子どもが漢字に興味をもったり、「5万字タワー」からキャラクターの名前を探す人が見られるなど好影響があるという。
・奥深い漢字の世界
漢字5万字のうち、常用漢字はわずか2000ほど。私たちはほとんどの漢字を使わずに一生を終えることになる。しかし漢字は表語文字だから、文字の1つ1つから意味や由来を読み取ることができる。背景に歴史や文化が隠れているのだ。
作者の吾峠呼世晴先生がそれを知らずに名づけているとは思えない。漢字からキャラクターに迫るのもきっとおもしろい!