食事において、料理の入っている器が与える影響というのは大きいと思う。料理全体の印象を左右しうる要素だろう。美しく気品のある器だと気分も変わるし、なんかよくわからない汚らしい器がお店で出てきた経験は一度もない。

例えば普段食べているラーメンでも、器が変われば新鮮な体験ができるかもしれない。そう思わせてくれたのは、有名とんこつラーメンチェーン「一蘭」が銀座に新たにオープンする「銀座一蘭」で、ラーメンを重箱に入れて提供するというニュースだ。早速10月10日の開店当日に現地を訪れてみることにした。

・「銀座一蘭」の重箱ラーメン

実を言えば、この重箱仕様自体は既存の「一蘭」店舗の一部で既に導入されているものだ。しかし筆者は未体験だったため、おいそれと釣られる形で銀座に足を運んだ。

「銀座一蘭」は高級仕様のお店のようだ。ラーメンには器以外にもこだわりの部分が存在し、ほかの店舗では味わえない、「今までにない特別な1杯」に仕上がっているという。

浮ついた足取りでお店に到着すると、オープン初日とあって、店員の方々が店先で盛んに呼び込みをしていた。

そしてお店の外壁には、煌々と金色に輝く「GINZA ICHIRAN 重箱丼」の文字。「何事?」感の強い光景に、道行く多くの人が視線を向けていた。

事情を知る筆者は重箱欲をかき立てられつつ地下への階段を降り、店内に入った。その先には10人ほどの行列。外国の方もちらほら混じっていたのが印象的だった。銀座という土地柄ゆえか、それともジャパニーズ重箱への関心ゆえだろうか。

列に並ぶ前に、食券機で「ラーメン(銀座重箱)(1180円)」の食券を購入し……

並んで待っているあいだ、手渡されたオーダー用紙にラーメンのカスタマイズを記入していく。味の濃さやこってり度、麺の硬さなどが選べるが、今回はどれも「基本」にしておいた。重箱に対してフラットな状態で挑みたかった。

20分ほど待ったあと、「一蘭」特有の「味集中カウンター」──前方と側面が仕切られたカウンター席に通される。限りなくサシに近い状況で重箱と向き合える環境である。

席に座ってからほどなくして、目当ての品が登場した。普段なら「いたっきや~す」と軽薄な調子で食事を始めるところだが、それを思いとどまらせる重厚さが目の前に横たわっていた。

重箱にしては痩せ型のボディだが、高級感は損なわれていない。むしろこちらの身まで引き締まるようだ。有田焼の専属窯元で作られた重箱らしい。段々重ねのように見えるが、取り外せるようには出来ていないため、「重箱風」と表した方が正しいかもしれない。

何にせよ、とてもラーメンが入っているようには見えない。金の延べ棒の方がよほど入っていそうだ。


とはいえ、中身はラーメンである


なみなみとスープが満ちている。ある意味、延べ棒以上に心躍る眺めではある。重箱の黒に豚骨色はよく映えるという気づきはなかなかに得がたいものだ。

御託はそこそこにして、細く流麗な麺を箸ですくい上げる。「銀座一蘭」のこだわりとして、まず1つにこの麺が挙げられる。大吟醸麺と呼ばれるそれは、名前の通り純米大吟醸酒の酒粕を含んでおり、そのうえ小麦の磨き具合が「一蘭」の他店舗とは異なるという。

すすってみると、ツルツルと快く舌の上を滑るみずみずしさがたまらない。「磨かれてますなぁ……」と聞きかじりの知識丸出しで感嘆してしまう。

そしてそのなめらかな麺が、「一蘭」独自の豚骨スープ、唐辛子入りの「赤い秘伝のたれ」と複雑かつ精緻に絡み合えば、憎らしいほどの美味しさが口の中で生まれる。

熟成された豚骨の風味、タレの旨味や辛味の味わい深さについては今さら詳しく言うまでもないが、それらが「銀座一蘭」ならではの麺との調和によっていっそう冴え渡るのだから、もはや屈服するほかない。

さらにもう1つ、ここでしか味わえない要素にチャーシューがある。「糸島一蘭の森 手焼き焼き豚」と銘打たれていて、「一蘭」の職人が厳選した豚ばら肉を丁寧にしっかりと煮込んだものとのことだ。分厚い肉が口に含んだ瞬間とろける、そんな上質さとなっている。

麺、スープ、具材……どこを取っても一部の隙もない。おかげで高級感にじっくり浸りたいと思っても、箸を動かす速度は増す一方だ。

強いて欠点を挙げるなら、器が長方形なので、レンゲを使うのではなく直接スープを飲みたい場合はかなりの苦労に見舞われる点だろうか。長辺、短辺、角……どこに口をつけてもしっくりこないため、試行錯誤の過程において顔面の前でくるくる重箱を回す事態にも陥りやすい。

そんなくだらないことを考えながら、スープに埋もれた残りの麺を箸で探る。いま私は、2重の意味で重箱の隅をつついている。


・さすがの一品

というわけで、「今までにない特別な一杯」との宣伝文句に違わず、「銀座一蘭」のラーメンは随所まで高レベルな満足感の高い一品だった。普段とは違う特別感のあるラーメンを食べたい方や、「一蘭」を食べ慣れている方にもぜひおすすめしたい。

ラーメンそのものに加え、それを包む器も、確かに満足感を増幅させてくれた。まるで重箱のように連なった「一蘭」の重厚なこだわりには、舌を巻くほかない。

・今回紹介した店舗の情報

店名 銀座一蘭
住所 東京都中央区銀座8-3-11
営業時間 10:00~翌3:00
定休日 無休

参照元:「銀座一蘭」公式HP
Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.
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▼「銀座一蘭」の重箱ラーメン

▼特別な麺「大吟醸麺」

▼特別なチャーシュー「糸島一蘭の森 手焼き焼き豚」

▼必然的に美味

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