近場で珍しい国の料理を出すレストランに行って、珍しいものを食う……最近そういうムーヴにハマりつつある。なんとなくその楽しさに気づいたのは、大使館に勧められて訪れたアフガン系の料理屋「キャラバンサライ パオ」での体験だった。
そして、先日のナイジェリア料理屋「エソギエ」も最高にブチ上がった。この流れで次に紹介するのは……ベラルーシ料理だ。恐らく多くの日本人にとって、縁遠い国だろう。せいぜい90年代に独立した旧ソ連圏という程度の認識では? しかし、よく知らないからこそどんな料理なのか興味深いというもの。さっそくいってみよう!
・ミンスクの台所
訪れたお店は、東京メトロの神谷町駅から歩いて10分くらいの「ミンスクの台所」。店名のミンスクとは、ベラルーシの首都だ。お店は東京タワーのすぐそばなので、ぶっちゃけ神谷町駅でなくとも、東京タワーが徒歩圏内な駅からならどこからでも行けると思われる。
ちなみに、お店から道路を挟んで斜め向かいには、モノモノしい警備の……
ロシア大使館がある。
昭和生まれ的に、ロシアはベラルーシに(ベラルーシだけではないが)ちょっかいを出しまくっていたイメージがあり、なんとなくソワソワしてしまう距離感だ。でも大使館職員にとっては、近場で故郷の料理に近いものが食べられるのだから嬉しいことだろう。
・外で確認できるメニュー
さて、この手の店において、個人的にめちゃくちゃ大事だと思っていることがある。それは簡単な解説や、メニュー、そして値段を店の外でチェックできること。とにかくなじみの無い料理である。基本情報をそれなりに把握してから乗り込みたいのだ。その点において「ミンスクの台所」はパーフェクト。
外にお店の概要が書かれたボードや、メニューが置いてあるので事前にチェックできる。これで、なんとなくわかった気分になり、安心して中に入れるぞ! ま、あくまでもわかった気になるだけなんだがな!!
・あふれ出る東欧み
いざ中に入ると……
圧倒的な東欧っぽいインテリア。いや、東欧とかよく知らんけど。でもなんとなくそれっぽい。全く詳しくない人にも伝わる「それっぽさ」ってとても大事だと思う。
そして、やはりそれっぽい格好をしたお店の方々。聞いてみると、筆者来店時に居た二人のお姉さん方は、どちらもマジなベラルーシ人。日本でアート関連の勉強をしているアナスタシアさんと、取締役のヴィクトリアさんという。
こうして気分は完全にベラルーシである。一通り気分がノってきたところでメニューを見ると、ニシン、サーモン、きのこなど見慣れた言葉が。まあ店の外でも簡単にチェックしてきたのだが。素材自体はそれなりにわかるものの、料理としてどれが自分の好みなのかはよくわからない。
・ウォッカとニシンとビーツ
よくわからないので、とりあえずウォッカを頼むことに。問答無用で当然のようにショットで出てくるウォッカ。かつて知人のロシア人から、あらゆる問題はウォッカを飲めば解決すると聞いたことがあった。
しかしウォッカを飲んでも、やはりよくわからない。しかたがないので、色々入った「ディナーセットAコース」を頼むことに。こういう時は、お店が勧めてくれるものか、コースを頼んでおけば大体何とかなる。
そして最初に出てきたのが「前菜3種盛り合わせ」なるもの。それぞれ紹介しよう。まずは「毛皮のコートを着たニシン」という、日本人ならまず思いつかない名前の、ニシンとビーツのサラダ。これはロシア料理でもたまに見るが、きっと旧ソ連諸国の定番なのだろう。
そして「ザクスカ」という、自家製のハムとかなんかそういうものの盛り合わせ。
最後は「ニシンの白ワイン漬け」だ。これは非常にわかりやすいだろう。
それぞれ単品での注文もできるものを、Aコースではこうして少量ずつ食べることができる。どれもさっぱりとした酸味があって、なかなかウマい。どれも日本料理には無い味付けだが、ニシン系については、ニシンそのものに馴染みがあるためすんなりイケる。
ビーツについてはもしかしたら好みが分かれるかもしれない。素で微妙に甘い感じのある、真っ赤なカブというか、大根というか、芋というか。この後にもビーツを使用した超有名な料理が出てくるのだが、ビーツが大丈夫か否かは、旧ソ連圏の料理が合うかどうかの判断ポイントな気がする。あの辺りじゃよく出てくるので。
個人的にはビーツのピクルスなど大好きなので、この辺は素晴らしくウマかった。それとニシンである。北海道、東北、そして京都まで、日本各地にもニシン漬けというものがあるが、ニシンと酸味の相性は実にいいものだ。
またウォッカのショットがウマい。実は筆者、ウォッカ自体は好きじゃない。だって基本的に無味無臭じゃないですか。この場のTPO的にウォッカを頼んだだけである。が、ビーツの素朴な甘みや、ニシン系料理のほのかな酸味と、ウォッカが合うのだ。なるほど、そういうことだったか……。
ジンやウィスキーはイケるけどウォッカのストレートは微妙という方、酸っぱい系のニシン料理と共にウォッカを試してみていただきたい。なかなかに納得させられるコンビネーションだと思う。
・焼いたピロシキ
ニシンとウォッカに気を取られていたが、さりげなくパンも出されていた。フランス料理やらイタリア料理などでも適当にパンが出てくるが、アレと同じようなものだろう。そう思ってスルーしていたのだが、その実態はただのパンじゃなかった。
重さ的に違和感を感じて割ってみると、まさかのピロシキである。おいおい、下手したらスルーしたままだった可能性もあるぞ? 存在感ゼロだったのに、食べてみるとめっちゃウマい。ちなみに日本のその辺のパン屋で売ってるピロシキとは色々違っていた。
日本でよく見るピロシキは、だいたいがドーナツみたいな揚げたパンの中に、挽肉などが入っていたりする。ほぼミートパイだ。しかし今回出てきたのは、焼いたパンにきのこのシチュー的なものが入っている。
そしてブチ抜けるきのこの圧倒的フレーバー。ベラルーシ料理というものがなんとなくわかってきた気がする。ニシンといい、きのこといい、素朴で懐が広いのだ。ベラルーシは遺伝子レベルでさかのぼっても縁のない土地だが、気づいたら故郷だと錯覚させられてしまうような、そんな味わいである。
・ボルシチとソバの実のパイの洗脳
その錯覚をより強める最強タッグが、続いて出されたボルシチ。そして、ゴルショクという、ソバの実とポルチーニ茸のパイである。ボルシチについては日本人でもほとんどの方がご存知だろう。ロシア料理として知られている気がする。
それに、割とスーパーで缶詰やレトルトのパックも売られているしな。しかしあれらはぶっちゃけ真のボルシチではない。どれも大半がトマト味のシチューか、ただのコンソメ味な野菜スープ……だと思うのだ。ボルシチをボルシチたらしめる、ビーツの味がしない気がする。
しかし、ここのボルシチはちゃんとビーツ味。先の「毛皮のコートを着たニシン」よりも、はっきりとビーツの味がわかる。ビーツがよくわからない方は、とりあえずこれでビーツ体験を得るのもいいだろう。なお、スープが服についたら、トマト以上に色が落ちないので注意しよう。
そしてゴルショクである。ソバの実とポルチーニ茸。日本人的に、ソバといえばヌードル。ポルチーニ茸については、アツアツのピッツァ……例えばマルガリータに乗っけるイメージ。しかし今回はどちらもパイの具材である。
ポルチーニはともかくソバの実がどんな味なのか全く想像がつかなかったのだが、食べてみた感じ、ほぼ米である。そういえばソバ米というものがあった。ソバの実を茹でたりして処理して干したものである。食べるのはこれが初めてだが、面白い。
ベラルーシを含む旧ソ連諸国の多くの国は、緯度が高すぎて稲作に向かない。しかし寒さに強いソバは育つし、収穫も早い。その辺の事情もあるのだろう。あの辺りの国々ではソバ粥的なものをよく食べると聞いたことがあったが……なるほどなぁ、これは主食イケますわ。
米のようにモチモチ感はないが、程よい大きさの粒状で、やわらかいし、腹にたまるし、それそのものの味はそんなにしないし。主食ってそういう食べ物がなるものじゃん? これはソバの実を合わせた色んな料理を食ってみたくなる。
「ソバの実が初めて」というのは、アジアでいうところの「米と合わせて食べる料理は初めて」みたいなものだろう。米と合う料理を上げればキリがないが、きっとソバの実と合う料理もそれくらいあるのではなかろうか?
そして、今のところそのうちの1品しか体験していない。これは人生における大きな損失な気がする。こういう発見があるから、よく知らない国の料理というのは面白い。ソバの実関連は、今後も積極的に攻めていきたい。
・魅惑の旧ソ連圏の食文化
ということで、ベラルーシ料理を食べさせてくれる「ミンスクの台所」はいかがだっただろう。ちなみに筆者が来店したのは開店とほぼ同時だったため、誰もいない店内を見たり出来た。しかし、かなり人気があるようで、ボルシチが出てきたあたりでほぼ満席状態になっていた。
行こうという方で、遅い時間になりそうな場合は予約した方がいいかもしれない。また筆者は飲めないので紹介できなかったのだが、実はグルジアワインの品揃えもかなりのもの。決して安くはないが、好きな人にはたまらないだろう。
店内もいい感じにオサレで、デートっぽい感じのカップルの姿もちらほら。また、やはり制服が特徴的ということもあってか、ヴィクトリアさんやアナスタシアさんと記念撮影するお客さんなども結構いた。ロシア料理ではなく、あえてのベラルーシ。他じゃまず無いと思うので、ぜひ体験してみて欲しい!
・今回ご紹介したお店の情報
店名 ミンスクの台所
住所 東京都港区麻布台1-9-14
時間 17:00~22:30
定休日 日曜日
Report:江川資具
Photo:RocketNews24.
▼棚に並ぶグルジアワイン
▼メニューに載っていなかったお高いアイスワイン。
▼アナスタシアさんは、日本で未だにFAXが使われていることについて疑問を抱いていたが、日本人的にもFAXは理解不能。
▼パイを割る
https://instagram.com/p/B1deWLjnTby/
▼神谷町駅からミンスクの台所への途中にあるこの特徴的な建物のコロッケ屋。フラッと立ち寄ったらめちゃくちゃウマかったんでお勧め。