Facebook などのSNSに虐待、暴力、ヘイトスピーチ、性的に際どい写真・動画などがアップされれば、すぐに削除されることになっている。しかしそれが「不適切・不快」であると、誰がどのように判断しているのだろうか?

ドキュメンタリー『THE CLEANERS』には、時給1ドルでSNS上に投稿される「不適切な画像・動画」に対応し続ける人々が登場する。

・SNSを監視するモデレーター


1分間で
YouTube には500時間分ものビデオが、
Twitter には45万ツイートが、
Facebook には250万件のポストが投稿される。
だがその全てが、そのまま残るわけではない。


『THE CLEANERS』の予告編は、そんな文章と、男女の「削除」「そのまま」という声とクリック音で始まる。SNSを監視し、不適切だと報告されたコンテンツを削除すべきか、そうでないか判断する人々(モデレーター)の声だ。

・モデレーター「自分の仕事に誇りを持っている」

本作品を手がけたのは、ドイツ人映像作家ハンス・ブロックさんとモリッツ・リーゼヴィークさんだ。2人がカメラを据えたのはフィリピンの首都マニラ。高層ビルの20階でモデレーターたちは働いている。


「何千人もの若きフィリピン人たちがモニターに向かって、児童ポルノ、首をはねるシーンが収められたり、テロリストが公開した動画、暴力行為といった残虐なコンテンツをチェックしていました」


カナダ公共放送『CBC』に出演したブロックさんは、モデレーターたちの様子をこう説明する。『South China Morning Post』のインタビューにて、リーゼヴィックさんもこう語る。


「モデレーターたちは、自分たちの仕事に誇りを持っています」

「他の仕事に比べて給料も悪くありません。時給1ドル〜3ドル。このお金で5〜7人の家族を養うことができます。誰もが、この仕事につけたことを喜んでいます」


作品内でもモデレーターたちは「私たちはSNSのセキュリティです。ユーザーを守るのが仕事です」「私たちがいなければ、ネットの世界は混乱に陥るでしょう」などと話しているという。中には、不適切だとされる写真を1日で2万5000枚もチェックするモデレーターもいる。

・悪影響を受ける人々

だが彼らも人間だ。残酷な写真や動画に触れ続けて、悪影響を受けないわけがないだろう。本作品ではその闇にも触れており、「自傷行為が映された動画」の削除を担当していたモデレーターが自宅で首をつった状態で発見されたことなども伝えている。

これまでにも、モデレーターたちにまつわる問題は指摘されてきた。2018年2月には、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOが、今年中に2万人のモデレーターを揃えることも発表している。しかしブロックさんは「量を増やすだけでは足りない」と指摘する。「人材の質だって大切です。学歴を持った人々に適切な訓練を受けさせ、様々な人にこの仕事をさせるべきです。低賃金で人を雇うだけではダメなんです」。

サンダンス映画祭やロッテルダム国際映画祭など、世界中の映画祭で上映されてきたこの作品。9月には、NHK主催の国際番組コンテスト「日本賞」でも一次審査を通過したばかりだ。

参照元:VimeoSouth China Morning PostCBCGebrueder Beetz Filmproduktion(英語)、NHK 日本賞 教育コンテンツ国際コンクール
執筆:小千谷サチ

▼こちらが予告編だ