以前の記事で、中国・南京で活動する赤道ギニア出身のラッパー「Mastermix Masta」について紹介した。彼の音楽自体に特筆すべき点は見当たらないのだが、その経歴に興味を覚えた私は、インタビューを申し込んでみた。

そうすると一週間ほど経過してから、返事が来た。本人はどれほど意識しているか分からないが、ラッパーとしては相当特異なバックグラウンドである事が分かり、色々な点で示唆に富んでいる。以下はそのやりとりだ。なぜ、南京で活動しているのだろうか?

・実は日本とイギリスの大学にも受かっていた

Q:「俺は日本人なんだけど、赤道ギニア人が中国の南京でラップやってるって事に驚いて、インタビューしたいんだけど、どう? 何で南京でラップしてんの?」

A:「ラッパーとして南京にいるって訳じゃなくて、本業は航空工学を勉強してるんだよ」

Q:「南京にはどのくらいいるの?」

A:「もう5年かな。2011年の8月からいるよ」

Q:「何で中国を留学先に選んだの? 別にアメリカとかヨーロッパとか日本でもいいじゃん」

A:「俺の親戚が、中国とビジネスやってて中国とは元々関係があったんだよ。でも俺、東京とイギリスの大学にも受かってるんだよ」

Q:「中国語しゃべれるの? 難しくない?」

A:「しゃべる事はできるけど、やっぱりかなり難しい。授業は英語で教えてもらっている」

Q:「南京ではラップやる時、何語でラップしてるの? 中国語、英語、それともスペイン語? 母国語は何?」

A:「俺の母国語はスペイン語だけどラップは英語だね」

Q:「中国語でラップしないの?」

A:「チャレンジしてみたんだけど、結構難しいんだよ。ほんの数語しか出来なかった。でも今は短いフレーズぐらいだったら言えるね」

・中国では「アフリカ人」としか思われていない

Q:「中国人のファンはいるのかな? 人気あるの? 中国人って君のこと『赤道ギニア人』って認識してるの? それとも『アフリカ人』と思ってるのかな? それとももしかして『アメリカの黒人』だと思ったりしてない?」

A:「俺、上海とか北京、南京で人気あるよ。でもやっぱり『アフリカ人』としか思われてないね。あ、だけど俺、実はポルトガルと赤道ギニアの混血なんだよね」

Q:「中国は色んな都市でライブした事があるの?」

A:「上海と南京以外だと、天津・鄭州・大連とかでライブした事があるね」

Q:「赤道ギニアってとても小さい国だよね。南京とか中国全土に赤道ギニア人って何人いるの? いつも赤道ギニア人と連(つる)んでるの? それともアフリカ人みんなが仲間って感じなの? あるいは中国人と一緒に連んでるの?」

A:「南京には30人近くの赤道ギニア人がいるよ。中国全土には多分300人ぐらいいるはず。俺自身はここで10人ぐらいの赤道ギニア人の友達とよく連んでる。中国人の友達は沢山いるし、それ以外の国の友達も大勢いるよ」

・中国には他にもアフリカ出身のラッパーが活躍

Q:「中国には君以外のアフリカ出身のラッパーっているの? もしいたら具体的な名前を教えてよ」

A:「いるね。例えばコンゴの『Docta Rhyf』、赤道ギニアの『Zagaza』、同じく赤道ギニアの『DJ Roger』、ガーナの『Billy』、あと国籍は知らないけど『Sona & Marvellous』、アメリカの『Myer』もいるね。他にもかなりいると思うよ」

Q:「それは信じられない話だな! っていうか南京でアメリカの黒人と会うことってあるんだよね? 彼らと出会った時ってどんな気分になるの? 仲間って感じ? それとも『あ~、あいつらアメリカ人』って感じなのかな? ちょっとその感覚が日本人としてはよくわかんなくて」

A:「アメリカの黒人ともよく会うよ。でもあんまり深い付き合いになった事はないから、よく分からないなー」

・ヒップホップの本場アメリカには行った事がない

Q:「じゃあアメリカに行った事はあるの? アフリカ以外の国はどれだけ行ってるの? マラボから南京って、どこ経由して行くの?」

A:「アメリカには一度も行った事が無い。アフリカだとナイジェリアやカメルーン・ベナン・ガボン・モロッコ・エチオピア・チュニジアに行ったことがある。マラボから南京に来るには、航空会社にもよるけど、エチオピアかフランス・オランダ・インドを経由して、いったん北京に行く必要があるね。そこから南京に行く感じ」

Q:「何でヒップホップというジャンルをやる事になったんだよ? 別にデスメタルとかテクノとかハードコアパンクでも良かったじゃん」

A:「ラップを始める前から、ヒップホップの楽器を使って曲を作ってた。他にカントリーミュージックとかポップス、レゲエ、R&Bとかダンスミュージックが好き」

Q:「中国に来る前の赤道ギニアにいた頃からミュージシャンだったの?」

A:「実はナイジェリアにいた頃から音楽をやり始めた。中国に来る前に少しの間、赤道ギニアにいたんだけど、その頃から本格化したかな」

・インタビュー中にFacebookが遮断

Q:「中国人って『赤道ギニア』っていう国の存在知ってるの? 日本人も知らなさそうだけど」

A:「多分20パーセントぐらいの人しか知らないね。あ、ごめん、ちょっとFacebookがブロックされそう……。中国ではFacebookが禁止されているんだよ。今までVPN経由してやってたんだけど。ちょっと待ってね」

Q:「そっか、それは大変だね。復旧するまで待ってるよ」(この後1時間ほどが経過)

A:「すまん。これ繋がってるか?」

・日本人はアジア人のなかで最も洗練されている

Q:「お、大丈夫みたい。じゃあ次の質問したいんだけど、日本には来たことあるの? 日本人と会った事ある? 日本についてどう思う?」

A:「日本には行った事がないね。北京とか上海で日本人と会った事はある。日本人はアジア人のなかで最も洗練されていて、国としても最も発展していて、音楽やエンターテイメントの面ではオープンマインドの人達だと思うよ。そういう点では中国よりも随分先を行っている」

Q:「日中戦争の時に日本軍によって南京大虐殺が行われてしまった。この事件については知っているの? 日本で南京というとやっぱりこのイメージが強くて。死者数に議論はあるようだけど、やはり悲惨な出来事である事は確かだね」

A:「もちろんその事は知ってるさ。多分、それもあって南京で日本人を見かけることが少ないのかな」

Q:「今の日本人がみんな当時の行いを良かったと思ってるみたいには思わないでくれよ。今現在の日本人全員が軍国主義者という訳ではないよ。中国の南京で日本人の事をどういう風に聞かされているか分からないけど」

A:「もちろんさ、そんな事は分かってるって。政府と国民は別のものだからね。それは赤道ギニア人だって、中国人だって同じだろう?」

・一度だけ差別された事がある

Q:「中国で黒人という理由で差別されたことはあるの?」

A:「残念ながらあるね。北京で去年一度だけ。それ以外はないよ」

Q:「そうか、それは残念だね。じゃあそんな感じで、大体聞きたいことは聞けた。本当に色々と面白いお話を聞かせてくれて、ありがとう! 良い一日を」

A:「オッケー、君も良い一日を過ごしてくれ。またなんかあったら連絡くれよ」

・音楽の質問をほとんどしなかった

という訳で、この様な感じで、色々と根掘り葉掘り聞いてしまった。Mastermix Mastaのミュージシャンとしての質問をほとんどせず、「南京に住む赤道ギニア人ラッパー」を興味本位で質問攻めにしたにもかかわらず、一切不審がらず、それどころか非常に丁寧に答えを寄せてくれた。

少し悪い気もするのだが、中国と赤道ギニア、そしてアフリカと日本の事などが色々な視点から学び取ることができたと感じている。

参考リンク:FacebookYouTube
Report:ハマザキカク