日本で最も成り上がった男・豊臣秀吉。ある雪の降る寒い夜に織田信長の冷えた草履を懐に入れて温めておき、そこから信長に目をかけられるようになったというエピソードはあまりにも有名だ。私(中澤)も上司に気に入られたい!

とは言え、今は冬どころか真夏。現在進行形で猛暑日連発だ。なんなら2026年は40度以上の酷暑日地点も多く発生している。今年の夏もアッチィーなーーー!! と、そんな時……

・Yoshioの帽子

ふと上司であるYoshioの机を見たところ、帽子が置き去りにされているのを発見した。こ、これや!


さっそく、手頃な鍋を用意した。


この鍋にYoshioの帽子をセットする。


頭がハマる部分をビニール袋でガードして……


鍋を水で満たした上……


冷凍庫にIN!

ふう、これで良し。


──3日後。


冷凍庫から取り出すと、完璧に氷漬けになっているYoshioの帽子。鍋を少し温めてパコッと外すと……


カーリングみたいになっている。

カーリング・ストーンは花崗岩(かこうがん)から作られているらしい。マグマが地下深くでゆっくり固まった深成岩の一種である花崗岩。その美しい姿に数百年の時をかける地球の芸術を感じ、しばし、成り上がりとは別のロマンに浸った。


・本番はここから

帽子を逆さにして、ガードしたビニールにお湯を注ぐ。そうやってビニール周りの氷をちょっと解かしてビニールを外してみたところ……


頭をハメるクラウン部分が姿を現した。帽子はまず、頭をハメられないと使い物にならない。あくまで上司を涼ませることが目的のため、かぶれないと意味がないのである。

さておき、本番はここから。用意したのは棒ヤスリ。以前、眼鏡を氷漬けにした時とは桁違いの氷量である一方、ちょっとやそっとじゃ割れなさそうな塊となっているため、まずはヤスリでガンガン削っていく。

無駄な氷を除去しておかないと重心が崩れるためだ。ゆえに、中の帽子を掘り出す必要がある。じわじわとしか削れない氷の塊。腕にじんわりと蓄積されていく負荷。にじむ水滴が私の焦燥感を加速させる。やはりヤスリで削るには氷量が多い。

しかし、焦りは禁物だ。無理に進めると、重要な部分の氷が溶けて上司を十分冷やせないからだ。したがって大胆に削りつつも作業の進行には慎重を期さねばならない。一部が完成したら冷凍庫で帽子を休ませる。固まったらまた作業再開。部分的に削っては休ませて続きはまた明日。


時にはヒートカッターを使い……


時には熱したおたまを氷に押し付ける。


少しずつ、しかし確実に理想に近づいてくる形状。もうちょっと……もうちょっとだ……!

そうやって、日を跨ぎながら作業し続けて3日目……


ついに、完成した──。


作業を続けるうちに8月も中旬に差し掛かっていた。夏はもうすぐ終わる。またもやギリギリであったが、なんとか間に合った! 間に合ったぞー!!



そして、翌日──



Yoshio「あれ? 俺の帽子ここに置いてなかったっけ?」

・お探しのものはこれですか?

性懲りもなく、前の席の私に声をかけてくるYoshio。自分のデスク周りを探し始めた。今だ!

Yoshioを隣の部屋に連行し、冷凍庫から例のブツを取り出す。Yoshioよ、今再び刮目せよ。そして後世に歌にして残すがいい。鳴かぬなら凍らせちまえホトトギス。Yoshioさん、お探しのものはこれですか?



Yoshio「……」


Yoshio「違う!



眼鏡もあるゾ。

Yoshio「目がァァァアアア!!


ふむ、やはり眼鏡は即効性がヤバイらしい。だが、私も伊達に2回上司の眼鏡を氷漬けにしてないぞ。上司が困ってる時ほど冷静に対処するのができる部下。ひと休みひと休み。ポクポクポク、チーン! 目が寒いならば外に出ればいいじゃない。

7月下旬から酷暑連発だった2026年。今は一旦落ち着いた感があるが、ウェザーニュースの猛暑見解によると、8月下旬以降は再び暑くなるという予報。残暑厳しいらしい。まあ、なにせ今年の夏も暑いからちょうど良いんじゃないってこと。しかし……

Yoshio「ヤバイ! 帽子が後から来る!!


・ダブルパンチ

どうやら、即効性の眼鏡と遅効性の帽子が交わってコメカミが凍傷になりそうなくらい寒いらしい。おいおいYoshioよ、このくだり前もやったぞいい加減にしろ。そんな時俺たちはどう対処してきた? そう……

公園にいく。


日向ぼっこ。夏の力を極限まで利用して熱を補っていく。太陽の光を全身に浴び、冷気と熱気のせめぎ合いとなる上司。『ダイの大冒険』で言うとフレイザードだ。頑張れYoshio! と、その時!!


Yoshio「あ、ちょっと良いかも」

・上司の状態変化

さっきまで険しかった上司の表情が柔らかくなっている。上司の状態変化を観測! Yoshioいわく「首から上が秋」状態、キター!

照り付ける太陽、けたたましく響くセミの声。ひと足早く上司の顔面だけ秋に連れていくことができた。今年の夏も終わりかな。

なお、氷は30分くらいで溶けて、後には雨の日の野良犬みたいになったYoshioだけが残された。氷なので溶けたら当然びしょびしょになる。それだけは自然の摂理なので仕方ない。


ただ、びしょびしょのYoshioは太陽の光を反射して輝いていた。

毎日が眩しかった子供の頃。空は青く、入道雲は絵に描いたようにくっきりしていて、道は永遠に続いていた。はてしない世界はなんでもありだった。いつからだろう? 窮屈に感じるようになったのは。

びっしょびしょのYoshioを見てまたもや大切なことを思い出した。ありがとう、Yoshio。ありがとう、世界。セミの声に引き戻されて我に返った2026年夏。上司は一昨年の2倍びしょびしょだった。揺れる陽炎の向こう側で子供の頃の我々が笑っていた──。


小さい頃は神様がいて


不思議に夢をかなえてくれた


カーテンを開いて


静かな木漏れ日の


やさしさに包まれたならきっと


目に映る全てのことは


メッセージ


──END──


執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

▼サービスで眼鏡も氷漬けにしてみた