実際に取材や取材対象者にインタビューすることなく、芸能人のテレビ・ラジオ発言、SNS投稿を基に作成される――コタツに入ったままでも書けると言われる「コタツ記事」。筆者もそんなコタツ記事作成者の1人だ。


第2弾では『Yahoo!ニュース』に掲載された記事が1クリックされると0.2~0.4円ほど、自社の本サイトで記事を1クリックしてもらえれば1円ほどが新聞社や出版社に入ってくる、という具体的なお金の話をした。


第3弾の記事のタイトルが『部屋とYシャツと私』みたいになってしまったが、今回は『Yahoo!ニュース』のようなニュースプラットフォームに記事が掲載される “うま味” と “その弊害” についてつまびらかにしていきたい。

・『Yahoo!ニュース』での配信は「甲子園出場レベル」

『Yahoo!ニュース』や『SmartNews』などのニュースプラットフォームに記事が配信されるというのはスポーツ新聞社や出版社にはとっても嬉しいことだ。


特にユーザー数、影響力の大きい『Yahoo!ニュース』に自社の記事が配信されるというのは高校野球で言ったら甲子園出場レベル。それぐらい名誉なことである一方でハードルも高い。


新規の芸能メディアの場合、自社のニュースサイトを立ち上げ、記事を蓄積していき、ある程度の形になったら申請を行い、『Yahoo!ニュース』側の担当者が配信してもいいか、ニュース性のあるサイトか審査する。


無事、審査に通ったら配信、審査に落ちたらまた記事を蓄積して数か月後に審査してもらう――といった具合だ。


『Yahoo!ニュース』に記事が配信されるようになったら自社の本サイトに来てもらえる可能性もグッと高まる。0.2円から1円につながっていくのだ。



・言い換え&水着NG…『Yahoo!ニュース』基準で記事作り

しかし、「ジャーナリズムとしてどうなのか」という弊害も出てくる。『Yahoo!ニュース』の基準で記事を作ることになるからだ。


差別表現をしない、人や団体を貶めるようなことは書かないなど、各サイトによってレギュレーションが設けられている。


自社の本サイトだけで配信される記事であれば、それだけを守っていればいいが、『Yahoo!ニュース』に配信されるためには同サイトのレギュレーションに準拠しなければならない。


例えば、芸能・エンタメニュースでは性的なワードは基本的にNG。『Yahoo!ニュース』対策のため、「ラブホテル」と書きたいところを「大人のホテル」と、「裸」を「一糸まとわぬ姿」と婉曲表現にする。


引用する画像もそうだ。本来は女性芸能人がインスタグラムにアップした水着の画像を記事でも使いたいが、肌の露出が多い画像は『Yahoo!ニュース』側に好まれない。使用するとそのメディアの記事全部が配信中止になりかねない。


『Yahoo!ニュース』はただのテレビ・ラジオ発言の書き起こし記事も嫌うので、発言をそのまま引用するのではなく、あえて地の文で書いたりする。


大手マスコミであっても『Yahoo!ニュース』に配信してもらうため、配信解除にならないために細かな対策をしているのだ。


2023年9月、公正取引委員会がYahoo!などのニュースプラットフォーム事業者と記事を提供する新聞社をはじめとするメディア各社の取引実態を発表し、「Yahoo!はメディアに対して “優越的地位にある可能性”」と指摘。


記事の使用料が著しく安い場合は「独占禁止法上問題となる」と警告したことからも、Yahoo!側がメディアより遥かに上の立場にあることがうかがえるだろう。



・「Discoverに入るため」Google対策にも余念がない

Googleに対しても同じことが言える。


Googleには「Google Discover」という機能が存在する。これはGoogleの公式アプリや「Google chrome」などのGoogleアプリを起動すると、自然とそのユーザーの好みにマッチした記事などが表示されるというものだ。


わざわざ芸能人の名前やニュースを検索することなく自社の本サイトにユーザーが流入することから、アクセス数が爆発的に伸びてくれる。


メディア関係者やブロガーは「Google砲」と呼んだり「Discoverに入る」と言ったりするが、Discoverに入るか入らないかで本サイトへのアクセス数がまったく変わってくる。


社会ニュースなどは起こったこと、調査したことを書くので、そこまでGoogle Discoverを気にしなくてもいいはずだ。


一方でコタツ記事中心の芸能メディアはGoogle対策を欠かさない。『Yahoo!ニュース』と同様に性的なワードはNG。さらに画像を引用する場合は『Yahoo!ニュース』以上に厳しい。


記事内の文章、画像はAIでチェックされており、肌の露出が多いと判断された画像を使用した記事はDiscoverに入らない。


それが女性芸能人の水着写真ではなく相撲取りの画像であってもAIはNGだと判断してしまう。


しかもGoogleのレギュレーションは数か月ごとに、ランダムにアップデートされるため先月までDiscoverに入っていたような内容の記事も月が変わったら入らない、という事態も起こる。


メディア側は「じゃあ今月はどんな芸能人のどんなトピックスがDiscoverに入るんだ!?」と試行錯誤、というか右往左往する。



・Yahoo!とGoogleばかりを気にすることに

このように各メディアは『Yahoo!ニュース』と同時にGoogle Discover対策にも余念がない。するとどうなるか――。


両社の検閲に引っかからないようにYahoo!とGoogleの方ばかりを見て記事を作ることになる。


あくまでも芸能・エンタメニュースにおいてだが、かつてスポーツ紙や女性週刊誌がジャニーズ事務所に怒られないような記事を出していたのと同じ現象が、ある程度自由に書けるはずのネットニュース界隈で起きているのだ。


もちろん、Yahoo!とGoogleのレギュレーションを守りつつも面白い記事、役立つ記事は少なくはない。同時にそうではない記事も濫造されている。


みなさんはそんなネットニュースを読みたいですか?


執筆:田中ケッチャム
イラスト:いらすとや

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