3歳の娘がいる。それだけで毎日が信じられないくらいハッピーだが、文字通り仕事と育児だけの生活を続けていると、ごくまれに、どうしようもなく心が疲れてしまうことがある。体ではなく心がしんどくなってしまうのだ。

これは子供がいる、いないにかかわらず誰にでも起こりうる症状だと思うが、そんな時、私(あひるねこ)はとりあえず牛肉を焼くようにしている。妻と子供が寝静まった深夜にステーキを焼けば、大抵のことは解決するからである。

・閉店間際のスーパーへ

時刻は23時近く。この時間の精肉コーナーにはほとんど人がいないどころか、目ぼしい商品もあらかた売れてしまって、残っているのは少々値が張る和牛ばかり。


が、むしろそれでいい。外国産の赤身の肩ロースステーキをゴリゴリ切って食べるのも、あれはあれで趣があっていいものだが、ああいった野性味あふれるステーキは心も体も元気な時に食べるべきであって、今ではないのだ。

というワケで、普段ならまず手に取らないであろう和牛のステーキ肉を奮発して買ってきた。これからたっぷり時間をかけて下ごしらえ……なんてことはしない。してはいけない。自分が弱っているのに肉を気遣ってどうする。



・大事なのはテキトー

何度も言うように、そういうのは元気な時だけでいいのだ。安い輸入牛と違い、和牛はそのまま雑に焼いたって大概うまい。それくらいの懐の深さは兼ね備えている。

だから缶ビールでも飲みながら適当に、気負わずに焼く。付け合わせなんて用意しない。そんな元気はない。ひっくり返すのは1回だけで、あとはあまり触らず……


これで完成とする。

・施術開始

焼肉は絶対タレ派だが、ステーキはシンプルに塩だけで食べるのが好きである。あとは赤ワインがあれば完璧だ。と言っても、高いワインじゃなくていい。1000円以下のもので十分。


今日みたいに心が疲れている時は、高価なワインをチビチビ飲むよりも、安ワインをガブガブ飲んだ方が気分が上がる。ワインを酒ではなく、回復アイテムの一種として認識すべし。


この日買ってきた和牛は心なしか若干薄いが、口に入れた瞬間、それまで点滅していた体力ゲージが急速に元の状態に戻っていくのを実感した。そう、牛肉の脂はエリクサーよりも効く。自分に足りなかったのは他でもない。牛肉だったのだ。



それが分かったら、あとは目の前のステーキとワインを無言でひたすら往復するだけである。その際、テレビもポッドキャストもYouTubeも消すのが望ましい。なぜならこれはセラピーだから。

・ただの食事にあらず

セラピーにYouTubeなんて不要だろう? 余計な情報はなるべくシャットアウトすべきだ。すべてを自分の血肉にするつもりでステーキに集中し、ステーキと対話を重ねるのである。

どうだろうか? 体が何となくリセットされたような気がしないだろうか? いつも思うのだが、こういう時はどんな上等な鶏肉でも、どんな上等な豚肉でもダメだ。

俺たちには牛肉じゃないと乗り越えられない夜がある。牛肉を焼くことで初めて解放される魂がある。それは逆に言うと、牛肉さえ焼けば大抵の問題は解決することを意味する。だから牛肉を焼こう。心が疲れた時は、牛肉を頼ろう。



最後に重要なアドバイスをしておくと、ステーキを食べ終わったら真っ先にフライパン等の後片付けを済ませること。これは非常に大事だぞ。

・家に帰るまでがステーキ

だらだらとワインを飲んでいたい気持ちは分かるが、翌日の朝、起きてきた妻にキッチンが汚いと怒られでもしたら、せっかく整った心が元の木阿弥だ。自分だけでなく、コンロもシンクもすべてキレイにリセットして気持ちよくベッドに入るのがいいだろう。

私の経験上、弱った心にこれがもっとも有効な治療法である。同じような気持ちを抱えている人はぜひ試してみてほしい。結論、牛肉は偉大なり。

執筆:あひるねこ
Photo:RocketNews24.