2024年1月23日から東京国立博物館にて始まった、建立900年 特別展「中尊寺金色堂」。1124年の建立からちょうど900年というアニバーサリーに、国宝41点、重要文化財7点を含む全50点が東京までやってくるという凄まじい企画! 目録の82%が国宝だ。

そこには普段は金色堂の内部に安置されている国宝の仏像11体も含まれている。この11体が揃って寺外で展示されるのは、平安時代から令和までで前例が無いらしい。

スペックから滲み出るヤバさに戦慄した私は、先立って行われた報道内覧会に参加。一足早く拝見させて頂いたのだが、もう前代未聞どころじゃないぞ……! この展示物に対し、この距離と角度は奇跡の域

・中尊寺金色堂

特別展は中尊寺の位置といった基本的な情報も含め、把握しておくべきことを簡潔に解説してくれる仕様。何も知らないまま見にいっても大丈夫な親切設計だ。


音声ガイドのナビゲーターは梶裕貴氏。アニメ『平家物語』で源義経を演じており、そこはかとなく縁を感じる起用。


特別展の名称にもなっている中尊寺金色堂は、岩手県の中尊寺にある仏堂。その存在は全日本人が知るところだろう。名前のとおり金箔貼りで、建物自体が国宝だ。

入るとすぐに、8Kという超高精細なCGで、巨大なディスプレイ上に原寸大で再現された金色堂がお出迎え。


初代奥州藤原氏当主 藤原清衡(きよひら)による建立で、圧倒的な黄金が、当時の奥州藤原氏の勢いを感じさせる。

現在の金色堂には藤原清衡の他、2代目基衡(もとひら)と3代目秀衡(ひでひら)の遺体、そして4代目にして最後の当主 泰衡(やすひら)の首級が安置されている。

泰衡が首だけなのは、彼が奥州合戦で源頼朝に敗北して斬首されたからだ。頭蓋骨には八寸釘が打ち込まれたと考えられる孔もあいているもよう。

余談だが、彼らの遺体については朝日新聞社「中尊寺と藤原四代 : 中尊寺学術調査報告」が詳しい。興味のある方は国立国会図書館などでチェックしてみてくれ。


さて、実質的に奥州藤原氏4代の墓、あるいは廟とも言える金色堂。凄まじく貴重なものなので、外側には鉄筋コンクリート製の鞘堂(覆堂)が作られ、その内部のガラスで保護された空間に収められている。

本物は中尊寺でしか見ることができないが、特別展では5分の1のサイズの精巧な模型を作成。なお、実物の屋根には金箔が押されていた痕跡は確認されていないものの、模型では金箔仕様で復元したとのこと。


様々な角度から、実物ではなかなか見られないような細部の様子まで知ることができる。


この模型は撮影可能だ。



・仏像

特別展の目玉と言っても過言ではない11体の仏像は、金色堂内部にある中央壇、西北壇、西南壇のうち、藤原清衡が納められているとされる中央壇の上に安置されているもの。


実際の配置を意識した位置関係で展示されているのだが、鑑賞の自由度が非常に高く、それもまたこの特別展を特別なものにしている。


こちらの増長天(国宝)を例に説明しよう。普段はガラスの向こうの金色堂の内部にあり、細部を見るには双眼鏡などが必要。しかし今回の特別展では、ガラスケースを隔てて数十センチ程度の距離から見ることが可能!


しかも


360度好きな方向から……! 正面、側面、背面といったカチっとした視点からのビジュアルは資料集などで見られるが、斜めからなどはここでしか見られない。大胆にひねられた腰と躍動感のある袖。平安の仏師の圧倒的な表現力を感じる。


ところで増長天に踏まれているのは、完全敗北した邪鬼だ。しかし、この腰のひねりや袖のはためき的に、踏んでいるどころか上で踊っている疑惑

倒した相手の上で踊ると言えば、現代のゲーム界隈でおきがちな “死体蹴り” に通じるものがある。邪鬼には一切の容赦が不要なので、”死体蹴り”と違い問題はない。ただ、究極的な勝者と敗者の姿とは、時代を問わずこういうものになるのかもしれないなぁ……と。

話を仏像に戻そう。この自由度の高い展示スタイルは増長天に限ったことではなく、11体全ての展示がこの仕様だ。普段は最奥におられる阿弥陀如来坐像も例外ではない。


平安以降、これらの仏像にここまで近づけた各種関係者を除く一般人は、この特別展に行った者のみ……と言っても過言ではないかもしれない。



・棺など

他の品々も、これら11体の仏像に劣らぬ輝きを放っている。例えば「金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅」という絵画。これは紺に染められた紙に、金泥で宝塔などを描いたもの。


よく見ると、塔が細かい文字で構成されているのが分かる。この文字は「金光明最勝王経」の経文だ。

つまり「金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅」とは「金光明最勝王経」の経文を用い、「金字」で描いた「宝塔曼荼羅」という。こういった国宝が他に約30点も展示されている。

重要文化財としては、清衡の遺骸を納めていた「金箔押木棺」や、遺骸と共に内部に納められていた太刀などの副葬品を見ることができる。


会場で中尊寺の事務局の方に少しお時間を頂くことができた。普段は金色堂中央の須弥壇に安置された国宝の仏像11体を、これほど近くで見られる機会は無いとのことで、実物の金色堂を知る地元の人々からも、この機に東京まで見に来ようという声があるとか。

今回を見逃したらもう次は無いかもしれない。少なくとも、これより前には1度も無かったものだ! 開催概要は以下の通り。奇跡の展示を見逃すな!!


・開催概要

会場 東京国立博物館 本館特別5室
会期 2024年1月23日~4月14日
開館時間 午前9時30分~午後5時 ※入館は閉館30分前まで
休館日 月曜日、2月13日 ※2月12日と3月25日は開館
観覧料 一般1600円(1400円)、大学生900円(700円)、高校生600円(500円) ※( )内は前売り料金


参考リンク:建立900年 特別展「中尊寺金色堂」中尊寺
執筆&写真:江川資具
Photo:RocketNews24.



▼今回の図録も大変に良いものとなっている。表紙からして豪華。ビビるくらい印刷も凝りまくっている。

中尊寺境内の四季折々の美しい風景写真から始まり、展示物それぞれの精巧な写真と詳細な解説が掲載されている。非常に優れた内容で、美しい仕上げの図録だ。文庫の小説が平気で1500円くらいする昨今において、この仕上げと内容量で2800円は実質無料。


▼中尊寺の方々もいらっしゃっていた。こちらが貫首の奥山元照氏。



▼グッズもいいぞ。金色堂ということでか、金色のアイテムが多かった印象。