桃と言えば、丸っこいフォルムに割れ目が一本。例えるならばお尻のような形を想像するだろう。

ところが世の中には、ぺちゃんこに潰れたカボチャのような奇妙な形の桃があるというのだから驚きだ。聞けば中国が原産の「蟠桃(ばんとう)」という品種で、日本では栽培が難しく幻の桃とも言われているのだとか。

果たしてどんな味がするのだろうか? 幸運にも実物を発見できたのでレポートをお送りしよう。

・西遊記にも登場

まずは蟠桃に関する物語について、簡単に説明させてほしい。

蟠桃が登場するのは、古くから伝わる伝奇小説『西遊記』。蟠桃は天界で栽培されており、食べた者を仙人や、不老不死に変える不思議な力を持っていた。

主人公の孫悟空は蟠桃畑の管理を任されていたのだが、『蟠桃勝会(ばんとうしょうえ)』という、神々と仙人たちが蟠桃を食す宴会に招待されなかったことに腹を立てて大暴れ。熟した蟠桃を食べ尽くしてしまったのだという。

これらの騒動がキッカケで孫悟空は天界から追放され、いろいろあって三蔵法師の弟子となって旅立つこととなった。


もちろん蟠桃が不老不死の果実というのは物語上での設定。しかしそんな古くから伝わる話に登場する果物が、現代もほぼ形を変えずに残っているっていうのはレアなんじゃなかろうか。

美味しい果物を食べたいってのとは別に、ロマンを追いかけたくなるような冒険心もくすぐられる逸品なのである。


・桃とは思えぬフォルム

さて、手元にある蟠桃を見てみよう。


大きさは手のひらにおさまるサイズ。ペチャンと潰れて反り返り、およそ桃とは思えない奇妙なフォルムである。

購入したのは和歌山県にある桃の直売店。

2個で税込1000円だったが、他の白桃が2個で税込500~800円ほどだったことを考慮すると、高級フルーツの部類に入ることは間違いないだろう。


実だけではなくヘタも変わっていて、まるでポットのフタのような形。


ちなみに比べるまでもない気もするが、こちらが一般的な白桃。

共通点は色と香りぐらいだろうか。同じ「桃」という枠の中に入っているとは思えないよな。



・不老不死の味!?

蟠桃を半分に切ってみると、潰れたハートのような形。種が小ぶりで取り外しやすい。

ピンクみがかった白い果肉と、包丁を入れるだけでジュワッとあふれる甘い香りの果汁。ガワとは裏腹に中身は案外普通の白桃で、切った瞬間、急に既視感を覚えて戸惑うこととなった。


切り分けた蟠桃を頬張ると、普通の白桃と比べると水分が少なくムッチリした食感と、渋みの少ない純粋な甘さにクラッとする。めっちゃくちゃ美味しいぞ、コレ!

白桃にありがちな繊維質は若干あるのだが、噛むだけで簡単にパリパリとちぎれるのでまったく苦ではない。

なによりもトロッとした果汁の甘さが、不二家のネクターが天然で現れた……と言ったらちょっと大げさになるが、とにかくそれぐらいに濃厚さを感じて美味しい。



例えるならば、ラ・フランスをちょっぴり繊維質にした感じの濃い白桃。これだけ旨い桃を食べて不老不死になれるなんて、天界ってなんて羨ましい場所なんだろう。

畑の管理人を任されるも蟠桃を食べつくしてしまう、孫悟空の気持ちがちょっとわかったような気もする。彼ほど大暴れはしないだろうけど、私もコッソリ3個ぐらいは食べちゃうだろうなぁ。

執筆:高木はるか
Photo:RocketNews24.
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