少し前から、Twitterでトップバリュの素麺(そうめん)と揖保乃糸を比較する系の投稿が複数バズっている。発端は、主にトップバリュの素麵をボロクソにこき下ろすもので、かなりの数の「いいね」とRTを獲得していた。

そこに追従して現れたのが、揖保乃糸の圧倒的美味さを称えるタイプのもの。しかし時間の経過とともに、トップバリュのそうめんを擁護する系の投稿もバズりはじめ、世は混迷を極めている。へぇ、なんか面白そうじゃん。じゃあ実際に食べ比べてみようぜ!

・実際どうなのか

ちなみに筆者、素麺など30年は食ってない。あまり日本食を食べないので、そもそも「揖保乃糸」を存じ上げず、素麺論争を目にした6月21日の深夜辺りにググって「いぼのいと」だと把握したレベル。

なるほど、ジャパンのプレミアムな素麺ブランドなんですね。最後に素麺を食べたのは幼少の頃。あまりに昔すぎて味とかブランドは微塵も覚えていない。言うまでもなく揖保乃糸信仰は無いし、トップバリュの素麺に対する偏見も無い。

自分で言うのもなんだが、素麺に対し恐らくは最も先入観を持たない日本人のうちの一人だろう。食に対する好き嫌いも世界一無いので、食べ比べて出てくる意見はモノのクオリティ次第だ。

盛った意見は(バズを目的としたTwitter構文的な意味で)皆さんTwitterで死ぬほど見ていると思うので、ここでは死ぬほど盛らない正直な意見を垂れ流そうと思う。


・買ってきた

ということで、さっそく近所のイオンへ。乾麺コーナーにて、まずはトップバリュの素麺をゲット。イオンでは「タピオカ醤油漬けおにぎり」とか「チョコミント胡麻どうふ」しか買ったことが無いからなぁ。人生初トップバリュかもしれない。

ところで「トップバリュのそうめん」って、これですよね? 600gで199.80円。


あとは揖保乃糸だが……おや? 揖保乃糸っていっぱいあるのかよ。Twitter民たちは、どの揖保乃糸と「トップバリュのそうめん」を比較していたのだろう。

よくわからないので、全部買ってみることに。まあ、イオンの同じ売り場で売られている揖保乃糸なので、きっと特別にレアなバージョンとかではないだろう。ということで用意したのがこちら。


右から順に

揖保乃糸 特級品」300g 570.24円(以下 特級
揖保乃糸 上級品」300g 321.84円(以下 上級
揖保乃糸 縒つむぎ古」200g 300.24円(以下 麺をまとめてる帯が紫なので)
揖保乃糸 太づくり」240g 300.24円 (以下 太麺


確かにトップバリュと比べたら、揖保乃糸は圧倒的に高価だ。まあでも揖保乃糸のパッケージ裏の説明によれば1人分が100gらしいので、特級でも3人分入って570円程度と見れば、素麺という食べ物自体がそもそも安いものなのだろう。

それではこれから全てを茹でて、食べ比べてみようと思う。ちなみに使用する 麺つゆ は、ヤマサのストレートのヤツだ。毎回新規に注いで食べ比べるので、麺つゆの違いで味に差が出ることは無いはず。


また、茹で時間については一律できっかり2分。太麺だけ4分だ。もちろん茹でるお湯は使い回さず、その都度変えていく。そして全て、茹でたあとは1分間冷水でもみ洗いすることとする。


・特級

トップバッターは特級だ。


麺は思っていたより丈夫。引っ張ってもビョンビョンと持ちこたえる。なかなかの弾力と耐久性だ。


まずはそのまま食べてみよう。ほのかな塩気を感じる。そこそこ明確な歯ごたえがあるぞ。麺の外周部は柔らかく、中心にほどよく硬い芯が通っている感じ。


これと言って明確な味があるわけではないのだが、そのまま食ってもそれなりにイケる。小麦粉食ってるみたいに退屈なものかと思ったが、ちょっと違うようだ。麺だけで仕上がってる。ちゅるんちゅるん

続いて つゆ をつけて食べたところ……ヤマサの 麺つゆ うめぇな。カツオが良く香る。まあ、やはり 麺つゆ のフレーバーが全部持っていってしまう。麺つゆ との相性は、他の比較対象を食べてみないと何とも言えない感じ。とりあえず特級を基準にして次に行こう。


・トップバリュ

2番手はトップバリュ。Twitterでは死ぬほどボロクソにされているかと思えば、それなりに厚い擁護の声があったりと、正直よくわからない。


ちなみにどれも1束ずつ茹でたのだが、太麺を除く揖保乃糸がどれも1束50gなのに対し、トップバリュは1束で100g。ということで、ちょっと量が多くなっている。

麺の丈夫さは同じくらい。ビョンビョンする。いい弾力だ。


そのまま食べてみると、ほのかな塩気。しかし歯ごたえはあまり無い。かといって軟らかいわけでもなく、全体的に均一な抵抗感がある感じ


口の中で噛んで細かくされていく過程で、若干の粉っぽさと、明確な小麦フレーバーを検知した。それが雑味として感じられる可能性はありそうだ。

しかしこれは、一概に「不味い」と言えるタイプのものではないと思う。この特徴のおかげで、何もつけずそのまま食ってもそこまで退屈ではなくなる。でもちゅるちゅる感は特級よりちょっと低い

味を試していたら、あっさり半分食ってしまった。揖保乃糸だと1束分に相当する。自信をもって言えるが、これは「不味くて食えない」というような評価が妥当とされるほど不味くは無い。なんというか、実に普通だ


トップバリュのそうめんに対し、語彙豊かに貶さざるを得ないほど苦痛を感じる味覚、あるいは感性がガチであるなら、それはサイゼにも文句を言いそうだし、マックやモスも食えないんじゃなかろうか

きっと世の大半の庶民向けな食べ物に耐えがたい苦痛を覚えてしまう、不幸な人に違いない。じゃあメチャクチャにけなされているケースは何なのか? 

いやまあ、皆さんお分かりの上であえて言わないのだとは思うが、言ってしまおう。そりゃあ、大げさに言っといた方が、Twitterじゃバズるじゃん。そういうことやろ?

たぶん、ボロクソに言ってる人の多くも、本心じゃトップバリュはそこまで不味く感じてないはず。まあ、味覚の感じ方には精神的な影響もあるので、中には何かガチにトップバリュアレルギーな感じの人もいて、味の好みや味覚云々ではなく精神的な理由で実際以上に不味く感じている可能性はあるだろう。

あとは、これも触れると荒れそうではあるが、しかし実際にSNSで日常的に散見されるパターンとして、庶民向けの食べ物を貶すことで、自分をよりブルジョア的に見せたい人とか。

おっと、まだ 麺つゆ をつけて食べていなかった。とはいえ、もう大体わかっている。素のままで食って「普通」な感じだったので、麺つゆ をつけたってやはり普通だ。劇的な変化は無い。


さて、素のままでも 麺つゆ とセットでも美味さは「普通」なのだが、先に述べた通り個性がある。その個性ゆえに、ある程度食べ続ければ「トップバリュのヤツだ」と判別できるようになると思う。

揖保乃糸の特急と比較して、麺の食感の繊細さや、人によっては雑味だとされてもおかしくない隙のある風味などから、クオリティが劣るのは間違いない。でも、特級と並べて食ってすら、別に騒ぐほど不味いというわけではない。


・上級

次は上級だ。


これも丈夫。ビョンビョンする。どれかしら明らかに千切れやすいとか、そういうのは無いかと期待していたのだが、素麺はどうやってもそれなりに丈夫にできるのかもしれない。


そのまま食べたところ、塩気はかなり希薄。歯ごたえは少しある。全体的にほぼ均一な抵抗感だが、トップバリュよりは芯を感じる。


風味や舌ざわりにも隙は無く、上質な麺だとわかる。しかし、良くも悪くも個性がここまでで一番無い。そのまま食べても不味くは無いが、無個性が過ぎて楽しくも無い。

これは 麺つゆ で食べるやつだわ。なるほどね。素麺に麺つゆが必要なわけが、ここにきて初めて分かった。特級には謎の食べやすさがあり、トップバリュは個性がとっかかりになっていたため、素のままでもそれなりに食えた。

しかし上級は、両者と比較して麺の個性が稀薄だ。単体で食った場合の感想を「不味い」と表現するのは正確ではないだろう。どちらかというと、「退屈」が正しいと思う。

ということで、上級は全てが 麺つゆ 次第だと思う。不味い 麺つゆ で食ったら不味いとなるだろうし、ウマい 麺つゆ で食ったらウマいとなると思う。


この点から、もし 麺つゆ にこだわりがあるなら、特級より上級が適しているかもしれない。特級は麺そのものがそれなりに主張するので。


・紫

そして紫。麺をまとめる帯が濃い紫に金の文字で、色合い的に一番綺麗な感じだった。


茹でたのがこちら。


触った感じは他と一緒だ。丈夫 ビョンビョンする……と思いきや、こいつはちょっと違和感がある

食べてみたら歯ごたえが違うと判明。他は明確に芯の存在によって噛み応えを獲得していたと思うのだが、これはなんだろう。ちまちまと麺だけを数本ずつ食ってみて把握できたが、粘土のようにジワジワと衝撃を吸収していくかのような、独特の弾力がある気がする。そして、ちゅるんちゅるん感も落ち着いている気がする。


でも、些細な質感の違いだ。上級との差に気づくには、筆者のように麺を手で引き延ばしていじりまわすなり、両方を幾度となく神経質気味に食べて両方の特徴を把握しないと困難だと思う。あるいは、その違いに一発で気づく繊細な口内センサーの持ち主か。

味は上級と同じ感じ。塩気はとても薄い。質が良いのは確かだが、個性が非常に稀薄。麺つゆ必須勢。たぶん絶妙な食感の違いがウリなのだと思う。それだけのために生み出されたとしたら、何だかんだで一番贅沢なのはこいつでは?


・太麺

最後はこいつ。よくわからなかったので買ったが、今思えば要らなかった気がする。完全にこいつだけやってる競技が違う


言うまでもなく麺は丈夫だ。素麺というより、極細な讃岐うどん


太いので、そのままだと小麦感がある。薄い塩気の向こうに、噛んでいると甘さを感じる。知らないでこれ出されたら、なんか違くない? ってなるだろう。

美味いけど、太さが全てを持っていってしまう。サラダとかにしてもいいかも。パスタ的なアレンジに一番向いていると思う。アイアンマンでいうところのハルクバスター枠。


・「トップバリュのそうめん」は普通

ということで、揖保乃糸シリーズ vs トップバリュの素麺。比べてみたが、確かに揖保乃糸のクオリティは高かった。クオリティと風味に隙が無い。

それぞれのグレードで明確に特徴があるのも誠実で良い。なんちゃって上位互換とかじゃない。金額が高ければ高いなりに、ちゃんと違いがあった。

とはいえ、その違いが常にメリットとして作用するかとなると、そこは個々の好みはもちろん、使用する 麺つゆ にもよるのではないかと感じた。特級は確かに一番クオリティが高いが、麺が主張する。場合によっては控えめな方が喜ばれる場合もあるだろう。

そして何よりトップバリュは騒がれているほど不味くない。もし、トップバリュとの圧倒的な価格差に説得力を持たせられるPR文を、一切盛らずに揖保乃糸のために書けと言われたら、筆者はその仕事を断るだろう。

ある程度のハッタリを利かせて話を盛らなければ、それは難しい。その程度の差だ。揖保乃糸がウマいのはもちろんだし、クオリティで勝るのも間違いない。しかしトップバリュがうまいと感じている人の感性と味覚は、至極まともだ。

執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.