映画『大怪獣のあとしまつ』は、「巨大生物の死骸の処理」という前代未聞の難題に、人類が英知を結集して挑む物語。

ではない。

2022年2月4日の公開以来、レビューは混迷。もはや「賛否両論」を通り越して「酷評」といっていい評価を受けている。

記事執筆時点で「Yahoo!映画」での評価平均は5点中2.1点、「映画.com」では同2.2点。「この映画のあとしまつをどうしてくれる」という迷言が飛び交うほどである。

そこまでいわれると「逆に見たくなる」のが人間の性。映画館で鑑賞してきた!


・こんな映画

ネタバレにならない程度にあらすじを説明すると、枕詞(まくらことば)は「空想特撮エンターテイメント」。日本を襲った謎の大怪獣が死亡した後、巨大な死骸が残る。

現実世界でも浜に打ち上げられたクジラが腐敗によるメタンガスで膨張し、最後には破裂する事故がたまに報道される。そのモンスターバージョンといえるだろう。

怪獣の生前の姿は描かれないし、人類との死闘もない。これまで語られることのなかった怪獣映画の「その後」を描いた意欲作。コンセプトとしては非常~~~におもしろい。

監督・脚本は三木聡氏、出演は山田涼介氏、土屋太鳳氏のほか、濱田岳氏、オダギリジョー氏、西田敏行氏ら名優が脇を固める。

豪華俳優陣が織りなす人間ドラマと、迫るタイムリミット。ディザスター映画(災害パニック映画)の傑作になりそうな要素が満載なのである。

以下、ネタバレはないが作品全体の雰囲気や流れに言及するので、曇りなき眼(まなこ)で鑑賞したい方はブラウザバックしていただきたい。


・鑑賞してきた

冒頭30分ほどはおもしろかった。VFXや怪獣造形には迫力があったし、映像美も十分に感じられる。燃やすことも動かすこともできない巨体をどうするのだろうと、先が気になる展開だ。

俳優陣の演技も「さすが」のひとこと! (セリフの内容はともかくとして)リズミカルに応酬を重ねるベテラン俳優陣のかけあいは耳に心地いい。若手の2人も文句なくかっこよく、美しく、安心して見ていられた。

怪獣対応のため非常事態が宣言され、国民に自粛を要請する舞台設定は現実の日本の姿に重なる。

右往左往する内閣や、隣国からの干渉には痛烈な皮肉や風刺が感じられ、内容に賛否はあるだろうが映画表現としては「あり」だと思う。


ところが、途中から物語は「あとしまつ」というストーリーラインに背を向け、どんどんコメディタッチになっていく。下ネタの連発、滑りまくるおやじギャグ、無造作に観客に投げられるボケのボール。

下ネタも、大人がニヤリと忍び笑いをする、といった味のあるものではなく、小学生男子がNGワードをわざと大声で叫んで遊んでいるようなストレートさ。


一方で、俳優陣はあくまで大マジメに国家の危機を演じる。物語の展開に集中したらよいのか、盛大に笑えばよいのか、「どう反応していいか困る」というのが率直な感想だった。

シリアスなシーンの中にスパイスとしてギャグシーンが入るのではなく、ギャグを見せるために「あとしまつ」というストーリーラインがあるというか。


そう、これはギャグ映画なのだ。


そして衝撃のラストは……その目で確かめてみて欲しいが、筆者は呆然とした。この「どういう感想をもつのが正解なのかわからない」というシュールな世界観。

良くも悪くも、人に衝撃を与えるという意味では成功している。

もっとも、監督は唯一無二の作風で鬼才・異才とも呼ばれる三木聡氏。最初からそういう狙いの作品、という声もあった。つまり「特撮ヒーローもの」「怪獣もの」と思って見てはいけない、ということだ。


・歴史に名を残す怪作

予告編だけを見ると、まるで “互いの立場を超えて、知恵と工夫で国家の危機を乗り切る” あるいは “これまでの怪獣映画でタブーだった裏側を描く” といった「ドラマ」に思えてしまうのが、誤解のもとにもなっている。

コメディであるという事前情報をあえて封印したという報道もあり、それすらも「狙い」なのだとは思うが、観客が見たいと思っているものとミスマッチが起きている気がする。

それに、どんな作品でも「つまらなくしよう」と思って制作している作り手は絶対にいないので、スタッフやキャストを攻撃するのは間違っている。作り手が「おもしろいだろう」と思ったポイントが、受け手と異なっただけだ。


決して万人にはお勧めできないし、映画館でフルプライスで見るべきか、と問われても回答に苦しむ。

ただ、ヒーローアクションやヒューマンドラマではなく、シュールな世界観を楽しむ怪作として見れば、だいぶ印象が異なるのではないだろうか。「普通じゃない映画」を求めているのなら、一見の価値がある。


参考リンク:映画『大怪獣のあとしまつ』公式サイト
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.